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89話 滅びた都市

 街道を進んで見えてきた広大な都市の遺構。

 俺たちは街道を進み、その都市の遺構へと足を踏み入れた。


「うーん。本当に何もないなあ」


 ユーリは椅子ほどの高さしかない岩の壁を見て言った。


 しばらく歩いたが建物らしい建物はほとんどなく、石の柱や壁の残骸が残るだけ。


 その残骸も大部分が草木や土砂に覆われ、人がいなくなってから相当な年月が経っていることを窺わせた。どこが広場や大通りであったかも全く分からない。


 しかもどこも膝の高さまで草が生い茂っているため、平原を歩いているのとあまり変わらない。


 アルスの古代都市はここと比べれば、相当綺麗な状態で残っていたと言えそうだ。


 ラーンは地面を見ながら言う。


「少し掘り返せば何か見つかるかもしれませんが、見事に何もありませんね」

「どうでしょうかね……長い月日が経っているということは、ここを訪れた者も多そうですが」


 俺はエリシアの言葉に頷く。


「しかも街道沿いだ。魔物が溢れる前なら、多くの人間の目に留まっただろう。調査や発掘が行われていてもおかしくない。闇雲に掘ったところで何かが見つかる可能性は低そうだな」


 しかも地下を魔力の反応も探るが、めぼしい反応はない。

 魔物がいるわけでも、魔法に関するものが埋まっているわけでもなさそうだ。


 ユーリは岩壁の石を突きながら言う。


「拠点にするのも難しそうですね。壁に使われている岩もアルスの四角い石材と違って丸石ばかりだし、修復が難しそう」

「言われてみれば、アルスのものとは様式が違いますね。アルスには大理石の建物がありましたが、ここには残骸すら見えない」


 エリシアの言葉に俺は頷く。


「アルスとは別の時代に建てられたか、帝国とは別の文明が築いたか……」


 好奇心が駆り立てられるが、調べる手立てはない。ティアルスについての文献がアルスに少しでも残っていればよかったのだが。


 アルスに人がいた時代の様子なら、セレーナも知っているかもしれないが……


 俺は急に静かになったセレーナに気がつく。

 この誰もいない都市を神妙な顔で見渡していた。


 見覚えがあるわけではなさそうだ。

 セレーナ自体は、アルス島に来てすぐにリビングアーマーにされてしまったし、ティアルスの地理を詳細に知っているわけではない。


 さっきは知っている帝国の地図には記されていないと言っていたし、セレーナの時代の都市ではないのだろうな。


 ユーリはそんなセレーナに声をかける。


「どうした、セレーナ? 静かだけどまさか怖いものでも見た?」

「いや……ただ、どうしてこの都市が放棄されたのか気になってな」

「あんなに魔物が出たんじゃ、こんなところで暮らせるわけないでしょ」

「それはそうだが、今こうして魔物が多いからと言って、都市の滅亡の理由と結びつけるのは短絡的過ぎないか」

「むっ……セレーナのくせに正論言っちゃって」


 セレーナの言うことはもっともだ。

 魔物の大量発生と都市の滅亡が関係しているかは、今の時点で何も言えない。

 魔物による滅亡は一つの可能性にすぎない。


 まあ都市のことは別にしても、なぜティアルスに強力な魔物が溢れるようになったかは当然気になるが。


 ラーンは周囲を見渡しながら言う。


「ともかく、このままでは農業の拠点にするのも難しそうですね」

「寝泊まりできる建物も身を守る防壁もありませんからね。そういった設備を整えたとしても、アレク様にずっとここにいていただくわけにもいきませんし」


 エリシアの言う通り、今の眷属だけではあの数のアロークロウやデススネークを相手するのは厳しそうだ。


「彼らが寄り付かなくなるまで俺が残ってもいいけどな。ただ、ここはアルスと違って少々防衛が難しい気がする」


 アルスは海に囲まれているため、アロークロウは飛んでこれるが、デススネークは渡ってこれない。


 一方ここは城壁を復旧させたとしても、常にデススネークの襲来に備えなければいけない。



 また、俺たちがこの遺構を発見した場所をはじめとして、周囲には高所が見える

 弓や魔法で簡単に高所から攻撃されてしまう。


 一から街を作り直すとしても、適した場所とは呼べない。


 セレーナも深く頷く。


「私もここに拠点を建てるのは得策ではないと思います。この都市は、人が集まってきて自然と発展してきた都市なのでしょう」


 軍事や交通を考慮して計画された都市ではないか。

 戦争とはあまり縁のない文明の人々が建てたのかもしれないな。


 まあ、本当のところは何も分からない。

 とはいえ、何があったかあれこれ考察するのも楽しいものだ。


 俺たちはこの後も遺跡を歩き回ったが、お宝はもちろん遺構以外の生活の痕跡すら見当たらなかった。

 魔物に襲われるどころか、接近してくる気配もなく、なんとも平和な遺跡巡りに終わる。


 結果として、ここはこのままにしておくことにした。

 試したかった召喚術もここで使えば、貴重な遺跡を破壊する恐れもある。拠点に適した場所同様、他を探そう。


 今度、時間があれば発掘調査をぐらいはしてもいいかもしれないけど。


 俺たちは街道へと戻り、遺構を出る。そして再び北東へと向かうのだった。

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