88話 名も知らない遺跡
本日、阿部花次郎先生が描く本作コミカライズ、最新話がコミックウォーカー様で更新されております!!
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「はははは!! 見たか、我らがアレク様の力を!!」
セレーナは高笑いを響かせる。
視線の先には、俺たちに背を向け逃げていく巨大な蛇の魔物──デススネークたちだ。
そして俺たちの周りには数多のデススネークの死骸が転がっていた。
上陸して早々、牙を剥き襲ってきた彼ら。
百体以上倒しても全く怖気づくことはなかった。
しかし激戦の中、ある一体が俺たちから離れ始めると、堰を切ったように皆逃げ始めた。
俺たちには敵わないと理解したのだろう。
アロークロウの例を考えれば、今後は俺たちを襲ってこないと考えていい。
セレーナが言う。
「これで大陸側で農業を始められそうだな!」
「それは時期尚早でしょう。私たちは襲われなくても、他の眷属は別です」
エリシアがそう答える中、ユーリは後方を見て顔を青ざめさせていた。
「少し離れるとあんな感じだしね……」
振り返ると、そこにはデススネークの死骸に群がるアロークロウの大群が。
ユーリは悲しそうな顔でその光景を見てため息を吐く。
「アロークロウの皮……あれだけあれば、色々たくさん作れるのに……!」
エリシアが諭すように言う。
「今回は調査が目的ですから仕方ありません、よっぽ珍しいものがあれば別ですが、諦めましょう」
「よろしければ、私が飛んで届けましょうか?」
ラーンはそう言うが、その必要はない。
「そういや忘れていたけど、もったいなかったな」
俺は周囲のデススネークの死骸と共にアルス島の倉庫に転移する。
倉庫の中には他の眷属、そして倉庫の木の実をガリガリと食べるティアがいた。
「ティア、食事が終わってからでいいからこのデススネークを処理しておいてくれ!」
「チュ、チュー! 了解っす!」
ティアはあわてて木の実を口に放り込みそう答えた。
つまみ食いなんかで怒ったりしないのに……
すぐに俺はエリシアたちがいるティアルスの大陸側に転移で戻る。
ラーンは驚くような顔で言う。
「あれだけのデススネークの死骸と一緒に転移されてしまうとは……!」
「アレク様の魔法は日々進化しておりますね」
エリシアはそう言って褒めてくれた。数えてはいないが、十体以上はいたかな。
「可能ならこうして俺が持ち帰るよ。じゃあ先に進もう」
「はい!」
俺たちは再び石畳がところどころ剥がれた街道を進んでいく。
デススネークがいなくなったことで途端に歩きやすくなった。
今まで戦いながらだったので、まだ後方にアルス島がそれなりにはっきり見える距離にしか来ていない。
俺たちが行くのは、ティアルス州の北東へとまっすぐ伸びた道だ。帝都やローブリオンとは方向が違う。
そしてどこへ繋がっているかは全く不明。どこまで行こうかも決めていないが、大陸側でも一番広いこの道を俺たちは進むことにした。
海岸近くには石造りの遺構がいくらか見えたが、少し離れるとすっかり周囲は森と平原だけになってしまった。
ユーリが歩きながら言う。
「蛇、いたらいたで嫌だけど、誰もいなくなると寂しいわね」
「もっと強い者がいたら、出てこい!! 私が倒してやる!!」
セレーナが大声で呼びかけると、ユーリが慌ててしっと人差し指を立てた。
「ちょっと!! 本当に出てきたらどうすんの!!」
「いやいや、調査なんだ。この際一切合切、魔物たちには出てきてもらったほうがいいだろう」
一理あると思ったのか、ユーリは黙り込んでしまう。
「俺も他に魔物がいれば見てみたいな。だが、ここはアロークロウとデススネークが多数派なんだろうな」
「魔物はおろか普通の動物すら見当たりませんからね。彼等より弱い生き物はティアたち鼠人がそうだったように、隠れていなければ生きていけないのでしょう」
エリシアの言葉に俺は頷く。
「デススネークやアロークロウが恐れるような魔物がいるかもしれないな」
「空がアロークロウ、地上がデススネークの楽園なら……残るのは地中ですかね」
ラーンが言うと、ユーリが下を見てげんなりした顔をする。
「ちょっと本当に皆やめてよ。地中から出てきたらどうすんの?」
「もう地下を掘りながら、私たちのあとを追っているかもしれませんよ」
怖がらせるように言うラーンに、ユーリは体を震わせた。
「こ、怖がらせようとしたって無駄よ! 私だって前と違って魔法を使えるようになったんだから! さっきだって、ちゃんとデススネーク倒して──」
「わっ!」
セレーナは驚かすようにユーリの後ろから声をかけてきた。
「ひっ! ……ちょっとセレーナ!!」
「すまない、軽い冗談だ!」
はははと笑うセレーナと顔を真っ赤にするユーリ。
周囲は魔物に囲まれているというのに暢気なものだ。
と、賑やかに俺たちは街道を進んでいった。
皆が心配したような新たな魔物も現れず、俺たちの行く手を阻む者はいなかった。
やがて三十分ぐらい歩くと、目の前が開けてきた。下り坂となっているようだ。
それから数歩歩くと、俺たちの目に広大な盆地が見えてきた。
「これは……」
大河が東西に貫く広大な平野。
草木の海の中、島のように石造りの遺構が浮かんでいた。
「街……いや、都市でしょうか」
エリシアの言うように街と呼ぶには大きすぎる。
それに遺構の外側には、城壁のような横長の構造物が見えた。
あれが本当に城壁だとしてその内側すべてが市街だとしたら……数万人が住んでいたとしてもおかしくないな。
ユーリがどこか嬉しそうに言う。
「アルスより風化していてあまり怖くない!」
「そういう問題ですか……ただ、遺構の形からして確かにアルスよりも古い都市のように見えますね」
エリシアが推察するように言うと、セレーナに顔を向ける。
「これも帝国の古代都市、でしょうかね」
セレーナは首を横に振った、
「いや……私が知る地図では帝国の都市はもう半日は歩かないと見えてこないはずだ。こんなすぐの場所に都市があるとは」
「度忘れしただけじゃない?」
ユーリはそう言うが、俺も予想外だ。
古い地図や文献を見ても、ここまでアルスに近い都市の情報はない。
「アルスよりも前に建てられた都市か、それとも後に興った都市か。これは調べ甲斐がありそうだな……よし、あの遺跡に向かうぞ」
そうして俺たちは名前も知らない都市の遺構へ向かうのだった。
本日、阿部花次郎先生が描く本作コミカライズ、最新話がコミックウォーカー様で更新されております!!
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