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86話 実験の失敗

 マレンが召喚した黒狼を倒した俺は、急ぎ先ほどいたミレスへと《転移》で戻る。


 すると目の前に、困惑した様子で周囲を見渡す生徒たちが。


「い、一体どこに?」


 皆困惑しているようだが、怪我人はおらず建物に被害などもない。

 エリシアとマレンも無事だ。


 そんな中レドスはほっとした様子で息を吐き言った。


「魔力切れじゃろう……召喚獣は召喚した者からの魔力がなくなれば消える」


 ここで消えたわけではないが、アルスで消えたのはそれが原因だろう。つまり、黒狼自体が死んだというわけではない。


 裏を返せば、あの黒狼はまた召喚できる……マレンの手によって。


 レドスも当然それは理解している。

 俯き悲しむマレンを見ると、まず周囲の生徒たちにこう言った。


「皆、迷惑をかけてすまぬ。全てはワシの監督不足のせいじゃ。もう問題ないから、中に戻るのじゃ」


 応援に駆けつけた生徒たちはそれを聞いて四方へ散っていった。


 一方のレドスはマレンに歩み寄って言う。


「ワシが甘く見ていた……君の用意した素材では、大した闇の魔力は発生させられないと軽く見ておった」

「でも……召喚できました」

「召喚してどうなった? あいつは我らを」

「あれはレドス先生たちが先に攻撃したからです! 攻撃しなければ」

「召喚獣は、召喚した者の敵以外は襲わない……それは、君もよく知っているだろう」


 レドスの問いに、マレンは言い返せない。


 別にレドスもマレンをいじめたいわけではない。今までは心から研究を応援していたはずだ。


 しかし、あのような危険な召喚獣を出してしまった以上、教師としては看過できないのも実情だろう。


 まあ、一因に俺の魔力も関係してそうだが……


「マレン……悪いが、今後は闇の魔力を使った実験は禁止する。少なくとも、ワシは許可できん」


 俯くマレン。

 あの召喚獣が無害か確かなことが何も言えない以上、俺も抗議はできない。


 やがてマレンは何も言わず、闇の研究棟へと走っていってしまった。


「あっ」


 俺が急いでその後を追おうとすると、レドスはこう言った。


「君。悪いが、マレンを励ましてやってくれ」

「は、はい!」


 とりあえずそう答えたが、なかなか無理難題を押し付けてくれる。


 人を励ました経験なんてそうそうないんだがな……


 ともかくマレンは放っておけない。俺は闇の研究棟という名の小さな家へ走った。


 扉を開くと、そこにはがっくりと肩を落として椅子に座るマレンが。


 相当落ち込んでいるな……


「マレン……」

「ごめん、アレク……せっかく素材の準備も手伝ってくれたのに……また危険な目に遭わせちゃって」

「俺のことは気にしないで。それよりも……いいものを見せてもらったよ」

「え?」

「いや、さっきの黒狼……悪魔じゃなかったみたいだけど、とても強そうだった。まさか、あんな召喚獣が見れるなんて! マレンはすごいなって」


 素直に褒めてみる。

 しかし、マレンは悔しそうに答えた。


「あれは悪魔じゃない……もっと多くの魔力を用意できないと」


 そう言いつつも、マレンは首を横に振る。


「でも、もう、研究は続けられない……これじゃ」

「なら……自分で魔法を研究できる場所を探す、あるいは作るのはどうかな?」

「大学以外でってこと? でも、ミレスは島だし」


 島全体が大学の敷地のようなもの。好きに実験できる場所はない。


 ならば、一番の候補はアルス。


 しかしマレンがどうして悪魔を呼び出したいのか分からない以上、それは危険だ。アルスにも危害が及ぶ可能性がある。


 とはいえ、このままマレンを放置するのは危険だ。


 まずはマレンが暴走した場合。やり直し前ミレスに何かあったとは聞いてないが、悪魔を呼び出し本人と周囲に危害を及ぼす可能性がある。


 次は、マレンが何もできずマレンの故郷がなくなってしまうこと。知っていて何もできないのは心苦しい。


 俺自身、マレンを手伝ってしまったから無関係とは言えない。俺がいなければ、そもそもあの黒狼を呼び出せなかった可能性もある。


 マレンともっと打ち解けるには、こちらも少しは秘密を打ち明ける必要があるだろう。


 だから、俺はマレンにあるものを見せることにした。


 小さなミスリル製の杖《転移》が付与された魔道具だ。名付けるなら、転移杖か。


「マレン。ちょっと見てて」

「うん? え?」


 俺が杖を振ると、俺は少し離れた場所に転移した。


 マレンは一瞬唖然とした顔を見せると、声を上げる。


「な、何それ!?」

「ふふ。我が家に伝わる移動の杖……今はこんなしか移動できないが、もっとたくさん魔鉱石を使って大きいのを作れば、ミレスから遠く離れた場所に一瞬で行けるようになるかもしれない」


 俺は大袈裟に言うと、マレンにこう提案する。


「誰もいない場所に行けたら、思う存分実験できるでしょ?」

「ミレスの森に、たまに魔鉱石を使った武器を使う魔物が現れる。それを集めていけば……」

「ああ。それに、森の奥に噂の秘密の研究所があるかもしれない。そこなら色々実験が……つまり、俺が言いたいのは」


 俺が言いかけると、マレンは神妙な面持ちで応える。


「諦めちゃだめ」

「そう。例え悪魔が召喚できなくても、マレンの故郷を救う別の方法が見つかるかもしれない」


 その言葉にはマレンはすぐに答えなかった。目を瞑り、自問自答しているようだ。マレンは、やはり悪魔を召喚しなければいけないと考えているようだ。


 とはいえ、絶対にそうとも言い切れない可能性もある。もしかすると、悪魔を召喚する以外の道があるかもしれない。


 マレンもそう考えたのか、しばらくして首を縦に振った。


「……あれは悪魔ではなかった。でも、強力な召喚獣を召喚できた」

「ああ。マレンの研究は無駄じゃなかった」


 マレンは力強く頷く。


「ええ……こんなところで塞ぎ込んでちゃダメ。他の方法もあるかもしれない。私は……皆を……頑張るんだから」


 そう自分に言い聞かせるマレン。やる気を取り戻したようだ。


 この立ち直りの速さ……マレンは故郷をなんとしても救いたいのだろう。


 俺も、できる限り応援したい。転移の杖も見せてしまったし、これからもミレスにはいくことになりそうだ。


 そんなことを考えていると、マレンがじいっと転移杖を見ているのに気がつく。


「ところで……私にもそれ使わせて!」

「ま、待った! これは一品もので!」


 当然、興味を惹くだろう。マレンは転移杖を見てキラキラと目を輝かせている。


 まあ、これは回避用で俺の《転移》のように遠くまでは瞬間移動できない。


「いいよ……でも、あんまり遠くを念じちゃダメだよ?」


 マレンは杖を持って言う。


「やった! それじゃあ、外に!」

「見つかったら大変だからダメ!」


 俺は魔道具を教えたことを少し後悔した。


 ともかく、俺にとって初めての学友ができた。ミレスには暇があれば顔を出し、マレンを手伝うつもりだ。


 一方で、俺は俺自身が気になること……闇の召喚獣を呼び出す準備に取り掛かることにした。


 もしかすると、俺の頭の中の悪魔について、何かしらヒントが得られるかもしれない──

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