85話 召喚獣との戦い
本日、阿部花次郎先生が描く本作コミカライズ第1話が、コミックウォーカー様及び、ニコニコ静画様で連載開始です!!
書籍版準拠のため、WEB版読者の方にもきっと楽しんでいただけると存じます!!
無料で読めますので、ぜひご覧ください!!
「こやつは──」
レドスは目の前に現れた、狼の姿をした黒い影に唖然とする。
ただの黒い狼ではない。しかも、魔物でもなさそうだ。狼に近い見た目の魔物にヘルハウンドやダイアウルフなどがいるが、こいつはそのどれにも該当しない。
魔物よりも強力なのは確かだろう。巨体を形成する黒い影からは膨大な闇の魔力が感じられる。
その黒狼は、エリシアに抱き抱えられたマレンをまっすぐと見つめていた。
しかし呆然としていたレドスが我に返ったような顔で叫ぶ。
「──皆、起きろ!! ワシに聖の魔力を送るのだ!!」
レドスは手を掲げ、叫んだ。
何事かと聖魔法の研究棟から顔を出す生徒たち。すぐに黒狼に気が付き、聖の魔力をレドスに送る。
「待って下さい、レドス先生!!」
マレンはエリシアに下ろしてもらうと、レドスへ叫んだ。
黒狼はまだ何もしていない。どこか、マレンの指示を待っているようにも見えた。
だがレドスにそれを聞き入れる余裕はなかった。
この魔力と禍々しい雰囲気はどこか悪魔を思わせる。レドスは黒狼が危険な存在と断じたのだろう。
「聖なる光よ、闇を滅せ!! ──《聖光》!!」
レドスはマレンに振り向きもせず、生徒から集めた魔力を極大の光に変えて黒狼へと向ける。
光は黒狼へと勢いよく迫る。
しかし黒狼はすっと高く跳び、光を避ける。
宙に浮かんだ黒狼は、地上へと顔を向けると──
「──俺!?」
黒狼が空から飛び掛かってくるのはレドスではなく、俺だった。
黒く大きな牙を剥き、口をあんぐりと開けている。
「アレク様、ここは私が!!」
エリシアは刀を抜き、刀身に聖魔法の光を宿す。そして黒狼に振るう。
「ま、待って!」
マレンがそう言うと、エリシアが黒狼に刀を振るって答える。
「ご安心を、峰打ちです」
刀身が黒狼の腹へ叩きこまれ、黒狼を吹き飛ばす。
峰打ちとはいえ、聖魔法を宿してある。黒狼の腹の部分の影は抉れていた。
マレンは黒狼に駆け寄ろうとするが、レドスによって抱えられる。
「マレン、駄目じゃ!! 皆、攻撃せよ!! ワシが広域魔法を放ち、周囲を保護する!!」
レドスはそう言って、周囲に光のドームを形成する。
駆けつけた生徒たちは倒れた黒狼に聖魔法を放つが、黒狼はすぐに身を起こし再び攻撃を避けていった。
マレンが黒狼に言うことを聞くようひたすら叫ぶが、黒狼は言うことを聞かない。一度攻撃したからだろうか。
いずれにせよ、この黒狼は相当強力な召喚獣だ。昨日マレンの召喚したフェンリルを見たが、それよりも覆う魔力が多い。
マレンが供給できる魔力とは思えない……俺の【深淵】から魔力を得たせいだろう。
手の甲にある紋章に目を落とす。とりあえず今は、紋章から魔力が漏れていたりはしない。
【深淵】はやはり膨大な闇の魔力を供給するのだろう……油断すれば、周囲に吸われるほどの量の魔力を。
悪魔にも魔力を吸われる可能性がある。今後は気を付けたほうがよさそうだ……
ともかく、今はこいつをどうにかしなければならないな。
周囲が聖魔法で眩しくなる中、黒狼は口から黒いブレスを放つ。幸いなことに、標的は変わらず俺だ。
しかしブレスは速く、純粋な体の動きだけでは避けられない。
俺は周囲の光に紛れ、別の場所へ《転移》する。そして影輪によって身を隠した。
それでも黒狼の狙いは変わらない。こちらの位置が分かるようで、すぐにまたブレスを飛ばしてくる。
《転移》してしばらく避けていくが、レドスが放った光の壁がひび割れていることに気が付く。レドスと生徒たちでは、この黒狼は手に余るようだ。
「このままでは大学に被害が及ぶ──かといって、このまま倒すのも……」
召喚獣はやられたところで、死ぬというわけではない。元居た世界へと返り、再び召喚を待つだけだ。
しかし、倒す前に一つ試したいことがある。
俺はエリシアに目配せする。
するとエリシアは刀を抜き、黒狼へと走った。刀を振り上げ、周囲に眩いばかりの光を発した。
同時に俺は黒狼の近くへと《転移》する。
「一緒に来てもらうぞ──アルス島へ」
俺は黒狼と共に、アルス島の砂浜へと《転移》した。
そこは俺が闇魔法を訓練する区画で無人となっている。いくら暴れられようと問題ないわけだ。
砂浜の上に立つ黒狼は、変わらずこちらを睨んでいた。周囲の光景が変わったからといって特に驚く様子もない。俺への敵意が収まる様子もなかった。
黒狼はこちらの様子を窺うように、一定の距離を取りながら左右に動く。
先ほどは聖魔法の弾幕でゆっくり観察できなかったが、今ではこいつの詳細がつかめてきた。
龍眼で見るに、こいつの中身は魔力だけ。つまり全身が魔力で構成されていた。
召喚獣は魔力で召喚されるわけだし、何もおかしくはない。問題はこいつの魔力量……
「聖魔法で倒すとしても一苦労だな……なら」
黒狼の近くに転移し、一気にその魔力を俺の《黒箱》へと吸収しようとする。
「召喚獣は魔力がなくなれば消滅するはず──駄目か!」
しかし魔力は引き寄せられなかった。体表は分厚い魔力の壁となっているようだ。
黒狼はすぐにその場を離脱し、こちらにブレスを放つ。
俺は動かず、そのブレスを正面から《黒箱》へと一挙に吸い寄せた。
こちらの意図に気付いたのか、黒狼はブレスを吐くのを止める。その体は先ほどの半分ほどの大きさにまで小さくなっていた。
黒狼は戦法を変える。牙を見せ口を開けると、こちらに突っ込んでくる。
接近戦なら勝てると踏んだのだろう。
だが、こちらもすでに攻略法が分かっている。
《転移》し、黒狼の真横へと出て、その腹部へ聖魔法を浴びせる。
腹部の傷からは、闇の魔力が漏れ出た。
その魔力を俺は再び《黒箱》へと吸い寄せる。
更に体を縮める黒狼だが、果敢にもこちらに挑んできた。
俺は《転移》と聖魔法を繰り返し、徐々に黒狼の魔力を回収していく。
それを繰り返していると、やがて後ろから暑苦しい声が響き渡った。
「アレク様!! エリシアからの連絡を聞きつけ、このセレーナ、参上しました!!」
振り返るとそこには、完全武装したセレーナがいた。剣を抜き、こちらに怒涛の勢いで迫ってくる。
「この私にお任せください! 私がアレク様の──えっ!?」
俺が展開する《闇壁》に突進する黒狼──というには可愛すぎる黒い犬を見て、固まってしまったようだ。
「ああ、セレーナ。もう、大丈夫だ」
魔力を吸収した結果、黒狼は子犬ほどの大きさになっていた。昨日見たフェンリルも魔力が少なくなるにつれ、だんだんと体が小さくなっていた。
「あと一押しというところだが……」
聖魔法で再び攻撃するには、いたいけすぎる……
なんとか攻撃をやめさせられないか、黒狼に話しかけてみる。
「俺がやったわけじゃないが、突然攻撃して悪かった……俺には敵意はない。眷属にならないか?」
そう訊ねるが、黒狼は突進をやめない。
召喚獣は眷属にできないか……闇以外の召喚獣はどうか分からないが。
あるいは、言葉が通じてないだけだろうか。
俺は続けて、黒狼へと語りかける。
「君を呼び出したマレンはこんなことを望んでなかった。どうか、許してやってくれ」
そう話すと、黒狼は攻撃をぴたりと止めた。
「うん? マレンのことが分かるのか?」
黒狼はその場でこちらを睨んでいる。言葉が少し通じているのかもしれない。
しかし黒狼の体は見る見るうちに薄くなっていく。もう少しで消滅するようだ。
「ともかく悪かったな……次召喚されたら、マレンの力になってあげてくれ」
そう言うと、黒狼はこくりと頷いてくれるのだった。
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