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84話 闇の召喚術

「おはようございます、アレク様。昨日は遅くまでお疲れ様です」


 研究棟を出るなり、エリシアがそう呟いた。夜中、窓から少し覗いていたが、ユーリやセレーナたちと交代で研究棟を見張ってくれていたようだ。


「おはよう。エリシア、夜はありがとう……」


 ふぁあと欠伸をして俺は答えた。まだ眠気がする。


 昨晩は、友人となったマレンと色々話した。何か悪魔に関して情報を得られたわけではないが、召喚魔法に関しては色々と知識を得ることができた。


 だが、話したくないのが察せる話題もあった。それはマレンの故郷のことだ。


 悪魔の力を借りてまで救いたい故郷……今日の召喚実験が成功してほしいと思う一方、やっぱりとんでもないことになる気もして複雑だ。


 成功する可能性は低いが、何かあれば俺がどうにかしよう……それにエリシアの聖魔法があれば最悪の事態は避けられるはずだ。


「ところで、エリシア。ユーリたちとは何か話したのか?」

「はい。交代の際、互いに報告を済ませたところです。向こうは特に異常はなし──いや昨日、セレーナが店舗探しの際に、口の上手い商人に掴まってしまったようで、またへんてこな仮面を」

「また買っちゃったのか……まあ買い物ぐらい好きにすればいいけど」

「かといって、これ以上変な仮面が増えるのも考え物です。だから、私からは気を付けるよう伝えておきました……その他は店舗探しも含め、進展がなかったようです。ユーリが言うにはこの島はだいぶ家賃が高いようで、なかなかいい物件がないようですね」

「俺もなるべく早めに合流して手伝うよ」

「どうか、私たちのことはお構いなく。せっかく友達ができたのですから。それに」


 エリシアは表情を変え、周囲を見回した。


「明け方、この研究棟をこそこそと気にする者がおりました。学生のようでしたが」

「学生?」

「はい。しかも、聖の紋章の持ち主でした。こちらが顔を向けると、すぐに立ち去りましたが」


 至聖教団の可能性もあるな……俺かマレン、どっちを調べようとしたのかは知らないが。


「アレク様に、諜報部の捜索の許可を得ようとも思ったのですが」

「そうだな……ここは魔法の腕が達者な物が多い。俺たちの影輪を見抜く者もいるかもしれないから、やめておこう」

「承知しました。ですが、このエリシア、匂いと気配は覚えております。何かやってくるようでしたら、私が迷わず」

「心強いよ。まあ、ともかく気を付けたほうが良さそうだな……」

「私たちも警戒を続けます」

「ああ、頼む」


 そう呟くと、後ろから扉が開く音が響く。振り返るとちょうど研究棟を出るマレンがいた。その手には瓶入りの黒い粉が握られている。先程も念入りに確認していた闇の魔力を発生させる粉だ。


「ごめん、アレク。調合が本当にこれでいいか心配で……遅くなっちゃったわ」

「気にしないで。それじゃあ行こうか」


 俺がそう言うとマレンは首を縦に振り、聖魔法の研究棟を目指す。


 快晴で空気の澄んだ気持ちのいい朝だ。一方で、マレンの顔はどこか晴れなかった。


「マレン。調子悪いの?」

「ううん……大丈夫」


 そう答えるマレンだが、その視線はちらちらと瓶に向けられていた。


 自信がないってことかな……確かに悪魔が呼び出せるとは思えない。もっと量を多くしたところで、すぐに魔力が消えてしまうだろう。


 ここで一つ疑問が浮かぶ。何故、闇の魔力が必要な悪魔の召喚にこだわるのかと。


 他の魔力なら誰かに魔力を送ってもらえれば呼べる。

 例えば聖の魔力で呼び出した者なら、悪魔よりも強いかもしれない。そもそも昨日呼び出していたフェンリルだって召喚獣の中では最強クラスだ。悪魔にこだわる必要はどこにもないはずだ。


 思わず俺はマレンに訊ねた。


「……悪魔じゃなきゃ、駄目なの?」

「うん、悪魔じゃなきゃ駄目」


 マレンは迷わず頷いた。


「なんで?」

「別に……前も言ったけど強そうだからよ。故郷をそれで守るの」


 本当にそれだけだろうか?

 気になるが、触れてほしくないならこれ以上は詮索しない。


 そうこうしている内に、俺たちは聖魔法研究棟の前へとやってきた。


 マレンは、研究棟の前で本を読んでいた老人に手を振る。ローブに身を包み、白髭を生やした老人。


「レドス先生! 今日も召喚するので、よろしくお願いします!」

「また君か。研究熱心なのは感心だが、いくら頑張っても人間は悪魔なんて呼べんぞ」


 本を閉じた男性はレドスという教師らしい。手には聖の紋章が見えるから、聖魔法が専門なのだろう。


 レドスはどうやら、マレンの悪魔召喚をいつも見守っているようだ。


 マレンは絶対に呼ぶといって、地面に魔法陣を描く。それが終わると、ついに瓶のふたを開け、魔力の粉を掌に注いだ。


「それじゃあ、始めるよ」


 俺が頷くと、マレンは詠唱を開始する。


「来たれ、来たれ──光届かぬ場所から来たれ……悪魔よ!」


 マレンの手に、黒い靄が宿り始める。


「全く……ワシの教え子にもこれだけ聖魔法に熱心な者がおればのう……」


 ふぁあとレドスが欠伸を漏らす。俺含め、誰もが失敗すると思っていた。


 しかし異変が起きた。


 俺の手の甲にある闇の紋章【深淵】から、魔力が漏れ出ていく。


「──っ!?」


 とっさに手を抑え、魔力の放出を抑えるが、すでにいくらかの魔力が黒靄へと吸われてしまった。


 黒靄は急に膨らみ始める。


「え?」


 いつもと違う──マレンもそう感じたのか、声を漏らした。


 俺の紋章から闇の魔力を吸い出した?

 どういうわけか分からないが、このままではマレンの身に危険が及ぶかもしれない。


 俺はマレンと周囲に、闇壁を展開する。


「お任せを」


 エリシアも異常を察知したのか、マレンを抱き抱えその場から離脱する。


「わっ!」


 しかしマレンが去っても、黒靄は消えず膨張を続けた。


 ここに来てようやく、レドスが声を上げた。


「この禍々しい魔力は……まさか本当に召喚が成功したとでもいうのか!?」


 悪魔が現れるのを見たことがあるのか、レドスの反応は早かった。


 レドスは手を黒靄に向け、光を放つ。


「聖なる光よ──闇を祓え!!」


 レドスの撃ちだした聖魔法は、流星のような速さで黒靄へ放たれる。大きく、素早く、正確な聖魔法。アレクもこれほどの聖魔法を放つ者を見たのは初めてだった。


 しかし黒靄はレドスの光を包み込むと──一気に膨張し、そして爆発した。


 闇は祓われた──いや、違う。


 黒靄が晴れていくと、そこには巨大な黒い狼がいるのだった。

本作コミカライズの連載が、昨日発売の電撃大王12月号より始まりました!

担当くださるのは、阿部花次郎先生です!

巻頭カラーとなっておりますので、ぜひご覧になってくださると嬉しいです!

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