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78話 歓迎会!

 夜のアルス島は、まるで昼間のような明るさだった。


 俺たちは今、新たに眷属となった龍人の歓迎会を開いている。


 広場の各所に置かれたテーブルの上には、肉や魚の丸焼きをはじめとしたごちそうが所狭しと並んでいる。


「さあさあ、食べろ! いくらでも飯はあるからな!」


 セレーナの声が響くと、歓声が帰ってくる。主に鼠人の「チュー!」という声が。


「いやあ、こんなに腹いっぱい食べられるなんて……俺、アレク様の眷属になれてよかったっす!!」


 椅子に座った鼠人のティアはナイフとフォークで器用に魚を食べていく。


 ユーリも肉をフォークに刺して言う。


「当たり前になっちゃったけど、こんな美味しい肉、昔だったら信じられないわね」

「修道院じゃ、そもそも肉が出てくることが稀でしたし……あれ?」


 ティカも肉を食べようとしたが、隣に座るネイトによって取られてしまったようだ。


 争い合う二人を尻目にエリシアが俺に微笑む。


「それもこれも皆、アレク様のおかげですね」

「俺のおかげなんてそんな。皆が頑張ってくれたおかげだ」


 俺は改めて広場の眷属たちを見やる。エリシアを始め、本当にたくさんの眷属が集まってくれた。


 帝都に商会を持ち、船まで手に入れ、商売も軌道に乗ってきた。本当に絶好調だ。


「最初はあれだけ不気味で広く感じたアルスも、今じゃ少し狭く感じるな」

「本当にたくさんの仲間ができましたね」


 ここにいるだけ千名以上……しかも、アルスだけでなく他の拠点でもパーティーを開いている。


 たまに酔っ払った青髪族や鼠人が転移柱を通じてアルスにふらふらやってくるから、向こうでも相当盛り上がっているようだ。


 再びセレーナの声が響く。


「ほらほら、龍人衆! 全然酒瓶が空いてないじゃないか! 今日はお前たちの歓迎会! もっと飲むんだ!」


 その声に龍人たちも少し遠慮がちに杯を掲げ、食事を口に運ぶ。


 酒よりも食事に夢中……思ったより食べっぷりに遠慮がない龍人たちだ。

 邪龍の封印が解かれてから漁も満足にできなかったから、腹を空かせていたのだろう。仲間になってすぐ、他の眷属と共闘したのもあるかもしれない。


 すると、向かい側に座っていた長い紫色の髪の美女──龍人のラーンが俺に頭を下げる。


「私たちのために歓迎会まで開いていただき、本当にありがとうございます。お礼というわけではないのですが、我らの主たるアレク様に受け取っていただきたいものがあるのです」


 そう言ってラーンは立ち上がり、近くに置いてあった黒衣と布に包まれた物をこちらに運んでくる。俺の隣で跪くとまずは黒衣を差し出してきた。


「これは……」


 受取って確認してみると、服ではなく漆黒のフード付きのマントだった。


 だがただのマントではない。どこか尋常ではない魔力を感じる。


「まさか」

「祖龍の髭で仕立てたものです」

「だけど、これはさっき龍人たちで使ってくれと」


 ラーンは首を縦に振る。


「もちろん、私どもも使わせていただきます。ですが、我らの上に立つアレク様にもどうか身に纏っていただきたいのです。我らにとって祖龍は神にも等しい存在でした」


 新しい主である俺に、その大事な存在の一部を身に付けてほしいということか。


 全部ではなく一部……素直に受け取っておこう。


「……分かった。これは大事に使わせてもらうよ」

「ありがとうございます! ぜひ、今付けてみてください」


 俺はその言葉通りマントを受取り、羽織ってみる。


 ただの飾りではなく、全身を包み込める。雨風も防げるしっかりした作りだ。かといって見た目から感じるような重々しさはなく、とても軽く着心地が良い。


「おお、これはいいな!」

「気に入ってくださり何よりです! ……まあ、そもそもこちらはユーリ様が作ってくださったのですが」


 ラーンが言うと、ユーリは俺を見て満足そうな顔で答える。


「いやいや、こちらこそ大事な形見を使わせてもらってありがとう。それにしても、アレク様にぴったしでよかった! エリシアに聞いて正解だったわ」

「アレク様のことはなんでも分かっていますから……ふふ」


 不敵な笑みを浮かべるエリシアに少し冷や汗が出るのを感じる。


 ユーリは自慢げな顔で続けた。


「龍の髭はセレーナの炎でも焼けませんでしたし、相当な耐久度があるはずです! あと、実はミスリルを細く糸状にしたものも編み込んで、魔道具仕様にしてます。アレク様の好きな魔法を付与することができますよ」


 《隠形》や《闇壁》など、状況に応じて付与できるわけか。


「それはありがたい」

「また身長が伸びてきたら調整しますね。それと、それだけじゃないんだよね、ラーン?」


 ユーリは逸る気持ちを抑えられないといった様子だ。


「はい。こちらも」


 ラーンは頷くと、布に包まれていた物を取り出す。

 

 それは鞘入りの不思議な形をした刀剣だった。鞘から抜かれる刀身は優美な曲線を描いている。


「我ら龍人族に伝わる刀……その形をユーリ様に再現していただきました」

「おお……すごいな」


 俺は刀を受取り、不思議な紋様の入った刀にくぎ付けになる。武器というよりは最早美術品といっていい代物だ。


「しかも魔力が溢れるような……まさかこれも」

「はい。祖龍の角を使ってます」


 ラーンが言うとユーリが補足するように説明する。


「邪竜の角と同様、加工できるみたいですね。でも、以前ローブリオンでアレク様の……お知合いが渡してくれた邪竜の角と比べると、えらく加工に時間が掛かっちゃって……強力な火の魔法が使えるセレーナがいたから溶かせたようなものです」

「いやあ、本当に骨のある奴でしたな。まるで生前の彼のようだった」


 セレーナの声に、ラーンはこくりと頷く。


「祖龍も本望でしょう。強敵だったと思い出していただけるのですから……どうか、アレク様お使いください」

「……ありがとう。だけど、なんというか使うには惜しいというか」


 綺麗すぎて戦闘に使いたくない……


 そもそも俺は剣があまり上手ではない。それにまだ子供だし、扱うには少し長すぎるかも。


「そしたら……これはエリシアに使ってもらっても良いかな?」

「私に、ですか?」

「ああ。エリシアは剣技にも優れているし、俺が使うよりもこの刀を活かせるはずだ。もちろん、ラーンがいいならだけど」


 俺の声にラーンは即座に首を縦に振る。


「もちろん私は構いません。エリシア様ほどのお方に使われるなら、祖龍も喜びます」

「ラーンさん……ありがとうございます。それでは大事に使わせていただきます」


 ラーンにお辞儀をするエリシアに、俺は鞘に戻した刀を渡す。


 エリシアは刀を受取ると俺に向って言う。


「この刀で、これからも必ずアレク様をお守りいたします」

「ああ、よろしく頼む」


 俺はこくりと頷くと、改めてラーンに顔を向ける。


「本当にありがとう、ラーン。この贈り物に見合うような男になるよ……どうか、これからもよろしく頼む」

「ははっ」


 ラーンと周囲の龍人たちは俺に頭を下げた。


 セレーナはそんな龍人たちを見て、愉快そうな顔で声を上げる。


「いやあ! しかし新たな仲間が加わって本当に良かった。アレク様が向かうミレスでも、仲間ができるといいのだが」

「世界各地から人が集まる場所だからな。でも、眷属になってもらうのは難しいだろう。あそこでは学費もかからないから、生活に困る者も少ないはずだ」

「なるほど。でもまあ、きっとアレク様と気が合う友人は見つかるでしょう。ミレスは私の時代から、学術都市として自由な気風で知られていましたから」


 今でもミレスは国際色豊かで寛容な土地として知られている。人間の国では珍しく魔族の学生も受け入れているようだ。


「そうだな……楽しみだよ」


 やり直し前、ミレスには行きたくても行けなかった。そこに、ついに行くことができる。


 闇の紋章について見識のある者もいると聞く。相手によっては、俺が闇魔法を使えることを明かして、互いに闇魔法についてもっと知ることができるかもしれない。


 俺の中の悪魔が完全に沈黙した以上、なんとか手探りでやっていくしかないからな……


 セレーナが皆に向って訴える。


「アレク様がミレスで学ばれる間、我らは我らでアルスの開発を進めていこう! 大陸側のティアルス州の調査も始めるぞ!」

「ミスリル以外の魔鉱石も眠っているって話だしね。楽しみ」


 ユーリの言う通り、ティアルス州にはまだまだ魔鉱石が埋蔵しているはずだ。大陸側の調査や開発もやはり進めたいところだ。


「俺も手伝うよ。ミレスからも《転移》が使えるなら、アルスで寝泊まりできるわけだし」

「ありがたいですが、そう言わず学生生活をお楽しみください! ティアルスの統治は、代官であるこのセレーナにどんとお任せを!」


 セレーナの声に、ユーリがうんうんと頷く。


「将来のお嫁さんが見つかるかもしれないしね」

「アレク様にはまだそういった話はお早いのでは……」


 ラーンがそんなことを言ってくれた。


 よかった……ラーンは常識がありそうだ。


 だが、エリシアはそんなラーンをジト目で見る。


「ラーンさん。自分がアレク様のお嫁になろうとか……そんなことは思ってないですよね?」

「ま、まさか! そ、それは、アレク様が大きくなられたらもちろん可能性はありますけど」

「可能性……下心がなければそんな言葉は出てこないはずですが」


 ラーンに顔を近づけるエリシア。


 ユーリが呆れたような顔で言う。


「まったく、勝手なこと言っちゃって。さっきの話だとアレク様には、好きな子がいるんでしょ」


 それを聞いたエリシアはええと少し嬉しそうに頷く。


「ユリスのことか? 俺は別にユリスのことは……」


 たしかに気にはなる……俺のせいで婚約者になってしまったようなものだし。最近の行動も予想外だった。


 エリシアが興味津々といった顔で聞いてくる。


「せっかくですし、ユリスさんについて何か聞かせていただけませんか?」

「といってもな……」


 やり直し前も別にユリスと何かあったわけじゃないし……むしろ、紋章を授かって以降、本当に何の接点もなかった。


 しかしエリシアたちは何かあるはずだと、にやにやとこちらを見ている。


「本当に何もないよ……お前たちこそどうなんだ? 帝都やらローブリオンで気になる異性ぐらい」

「私たちは、アレク様だけです!」


 エリシアたちは声を揃えて言った。


 冗談とかお世辞ではなく、本気の目だ……


「ま、まあ、いつか現れるだろう……そんなことより、皆食べる手が止まっているぞ。せっかく買ったごちそうだ。食べないともったいない。皆ももっと食べてくれ」


 俺の声に、周囲の眷属たちがおうと応えくれた。


 その後も夜遅くまで歓迎会は続いた。龍人たちも他の眷属と打ち解け、ますますアルスは賑やかになるのだった。


 そしてその翌日。


 俺を乗せたマーレアス号は、ついに帝都からミレスへ向け出航するのだった。

次回からは三章ミレス編です!

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