表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/188

67話 祠

 俺たちを乗せたマーレアス号は夜空の下、海を進んでいた。数隻の船の後ろを付かず離れず、見失わないように。


 船団が向かう陸地を見て、セレーナが言う。


「……あまり明るくないな」

「多分、漁村じゃないかな。しかも相当小さな」


 舵を握るユーリの言う通り、恐らく船が逃げる先は漁村だ。


 エリシアと地図を確認するが、港町がある方向ではない。ルクス湾西岸でも海岸線が高い崖になっている区域だ。


 人口の殆どは崖上の広い草原に住み、放牧を営んでいる。崖下は使える土地が限られ、漁村も少ないのが特徴の地域だ。


 その崖下にはやはりというか、人間から嫌われる魔族が多く住んでいたりする場所だ。


「もう少しで陸地ですね……いかがしますか、アレク様?」


 エリシアがそう訊ねてくる。


「あまり船を近づけると座礁する可能性がある。ここからは小舟で追おう。エリシア、セレーナの二人でついてきてくれるか? ゴーレムも連れていこう」

「はっ! オールはお任せください!!」


 セレーナが元気よく答えると、エリシアがしっと人差し指を立てた。


「あまり声を出さないようにお願いしますよ……《隠形》があるとはいえ見つかったら大変です」

「そ、そうだった。静かに漕ぎます!」


 あまり小声になってないセレーナは、すぐに青髪族数名にボートを海に下ろさせた。


 折り畳み式の階段が設置されると、俺たちはそれを下ってボートに乗り込む。


 甲板からユーリが顔を出して言う。


「お気をつけて、アレク様! 二人も」

「ユーリも船を任せたぞ。よし、行こう」


 俺が言うと、セレーナはボートを漕ぎ始めた。


 セレーナが連れてきたゴーレムは人間より少し大きいぐらいなので、一緒に乗せても沈むことはない。


 このボート自体にも《隠形》と《闇壁》が使える板が張られているが、一応俺も《隠形》を展開する。


 やがて村の灯が近くなってくると、俺はある異変に気が付く。


「なんだこれは……」


 建物が密集している漁村……しかしその大半は崩壊してしまっている。


 風化したというよりは、最近になって破壊されたようにも見えた。現に、少ないながらも灯が付いている。


 セレーナも不審そうな顔で言う。


「もしかして海賊にやられたのか?」

「いや、拠点にするならわざわざ破壊する必要はない」


 そしてもう一つ、違和感を覚える場所が。


 村のはずれの崖の一部に、大きく深い亀裂がある。洞窟のように奥深くまで続いているようだ。


 またその穴の周囲には岩が崩落したような跡が見えた。ただの崖崩れにしては巨岩が随分と離れた浜辺にまで転がっている。


 まるで無理やり開けられたような……


 そんな中エリシアが言う。


「船が浜辺に上陸しますね」


 その言葉通り、追跡していた船は続々と浜辺にそのまま乗り上げる。


 船は全部で五隻ほど。どれも一本か二本の船柱を持つ、十人乗りぐらいの船だ。漁船の中でも立派な部類の船になるだろう。


 その船団を浜辺で松明を持っていた者たちが出迎える。


「もう少し近づいて、海から様子を見よう」

「はい」


 小声で答えるセレーナはボートに近付かせる。


 すると松明が多く明るいためか、船に乗っている者たちの姿が目でも確認できるようになった。


 やはりというか、リザードマンに近い見た目をしている。ほとんど皆服を身に付けず、鱗で覆われた体を晒していた。


 全体的にトカゲのようだが、顔の横には魚のヒレのような物が見えた。背中にも、青硝子のような背ビレが大きくせり出している。


 エリシアが呟く。


「……見たこともない種族ですね」

「ああ。ルクス湾の外から来たのかな」


 何と表現すればいいか分からない見た目の種族だ。昔何かの本で見たような……古代、東の大陸を支配していたとされる龍というドラゴンの仲間に似ている気がする。


 やり直し前、俺も帝都でも魔族の多い地域に通ったが、彼らの姿を見たことはなかった。


 俺はひとまず、彼らを龍人と呼ぶことにした。


「遠くから海賊稼業に来ているのかも……ともかく、様子を見よう。彼らの宝がどこに運ばれているのか気になる」


 俺は船から下ろされる宝物を見て言った。


 宝物は全て、裂け目のほうに運ばれていくようだ。


「セレーナ、少し離れた場所で上陸してくれ。あの裂け目を調べたい」

「承知! ……承知しました」


 小声で言い直すセレーナはボートを浜辺で進めていく。特にこちらに気が付く者はいない。


 宝物を運ぶ龍人を横目に、俺たちも裂け目を目指し砂浜を歩いていく。


 やがて裂け目の下のほうに灯が見えてきた。


「これは……」


 裂け目の中には、多数の龍人が横たわっていた。負傷している者が相当いるようだ。


 看病している者が声を上げる。


「薬はもうないのか!? あんなに買ってきたのに!」

「薬も聖水もとても間に合わないんだ! 神殿のやつが言うには、聖水をかければすぐに治るはずなのに……」


 ……ただの傷ではない?


 俺は《隠形》を強く展開しながら、負傷した龍人の一人に近付く。


 横たわる彼の背中は真っ黒に焼けていた。


 この傷……闇の魔力に侵されている。


 持続するような闇の魔法によって傷つけられたのだろう。聖水では取り除けないほど、体の奥に浸蝕してしまっているようだ。


 看病する者たちの会話から察するに、聖水やら薬を買い込んで彼ら負傷者の治療をしていたのだろう。


 目に見える負傷者だけでも数百人はいそうだ……そのための薬や聖水を買い込むとなれば、相当なお金が必要になる。


 まさか龍人はそれらを買い込むために貴族の船を襲っていた?


 何故、こんな事態になってしまったのかは分からない。天災か、彼らの自業自得か、はたまた別の原因があるのか……分からないが、俺の手は勝手に動いていた。


 苦しんでいる龍人の子供もいる。放ってはおけない。彼らから闇の魔力を取り除けるのは俺しかいないのだ。


「……詳しく探るのは後だ。まずは彼らから闇の魔力を取り除く。エリシアは取り除いた後、聖の魔法で皆を癒してくれ」

「はい!」


 エリシアは迷うことなく深く頷いてくれた。セレーナも私も普通の回復魔法ならと答えてくれた。


 それから俺は、龍人たちの治療を始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ランキング参加中です。気に入って頂けたら是非ぽちっと応援お願いします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ