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65話 捜索

「追え!! あの海中にいるはずだ!!」


 隣の船からそんな声が響く。


 今、一隻の船が海中に沈もうとしている。


 そこに複数の船が一斉に向かっていた。


 俺もマーレアス号に戻り、その場へと急行するよう指示する。


「飛ばします!」


 ユーリはそう口にすると、舵の近くにあった取っ手を引く。


 するとマーレアス号の帆が突風でぶわっと膨らんだ。


 他の船は風向きを調節しながらのため、なかなか速度が出るまで時間が掛かる。


 しかし俺たちのマーレアス号は送風の魔導具によって、すぐに海を進み始めた。


「あの船……アレク殿下の船か」

「趣味は悪いがなかなか速い」


 そんな言葉を投げてくる海軍と貴族の船を追い越し、すでに船体の半分が沈んでしまった船へと一目散に向かう。


 目的の場所に到着すると、ちょうど船員たちが船から脱出していた。


 ボートに乗れなかった者のほうが多そうだ。見れば鎧を着て溺れかけている者までいる。


 これは海中の捜索どころではないな……


「ボートを出そう。皆を救助するんだ」

「はい! 皆、ボートを下ろして!」


 ユーリの声に青髪族は一斉にボートを下ろし、船員たちの救助に向かった。


 俺はその間に、すでに船柱を残し沈んでしまった船に目を向ける。


「海面から出ている場所で目立った外傷はなかった……船底に穴を開けられたか」


 やはりというか、船員が襲われている気配はない。

 

 単に沈めるのが目的なのは間違いなさそうだ。


 俺は海面を見回す。高い波が立っているわけでもない。


 周囲の他の船はまだそう遠くへは行ってないと思ってか、散開して周辺を探索し始めていた。


 だが、そんな中、甲板の下の方からボコボコと鈍い音が響く。海中から何かを叩いているような音だ。


 ユーリが声を上げる。


「まさか……私たちの船の下に!?」

「私が下の様子を見てくる! 《闇壁》の板が張ってあるから大丈夫だとは思うが……あっ」


 すぐにボコボコという音は響かなくなった。


 それから少しして、下の甲板から青髪族の一人がやってくる。


「船底のあちこちを何かで叩かれましたが、やつら《闇壁》を破れないと諦めたようです!」


 どうやら船は無傷で済んだようだ。


 すぐに俺は甲板から海面を見渡す。


 特に大きな物体が通った跡はない。


 魔力の反応は……魚のせいかなかなか掴みにくいが、少なくとも巨大な反応はなかった。


 比較的、敵は小さいということか? 


 船底の青髪族によれば、あちこちを叩かれたと言っていた。複数の相手の可能性もある。


 そんな時、少し離れた場所で別の船が突如大きく船体を揺らす。

 しばらくすると、その船も沈み始めてしまった。


「また……」


 新たに沈み始める船に、他の船が殺到する。


 だがやはりというか、見つからないようだ。


 ユーリが信じられないといった顔で言う。


「音が聞こえてから一分も経っていないのに……」

「相当な速さで海中を動いているようだな」


 あるいは、相手も複数で散らばって動いているか。


「……ここの船員を救助次第、次の場所へ向かうぞ」


 俺の声に皆頷いてくれた。


 しかし、急行しそこで救助を始めると、また別の場所で船が沈み……


 そんなことを繰り返すうちに、五隻の船があっという間に沈んでしまった。


 マーレアス号は、救助した船員や貴族でいっぱいになってしまう。


 俺はヴィルタスに一旦探索の中止を申し出て、救助した者たちを帝都に下ろさせるのだった。


「あ、アレク殿下……お救い下さり、感謝の言葉もございません!」


 埠頭では、船を降りながら感謝の言葉を口にする貴族たちが。


「気にするな……それよりも、お前たちの船はどうやって沈んだんだ?」

「船底に急に何か所も大きな穴が開き……瞬く間に」

「わ、私の船もだ」


 こうして降りる貴族や船員に、俺は船が沈んだ原因を聞いていた。


 どの船も船底に穴を開けられ沈んでいる。今まで沈められていた船も、だいだいそうして沈んでいるようだ。


 貴族たちが去ると、エリシアが隣で呟く。


「こちらも海中に潜らないと難しいかもしれませんね……ですが、湾とはいえ海は広い」

「待ち伏せも難しいだろうな。ここはやはり、俺たちの船が囮になるしかなさそうだ……だが」


 すでに俺たちの船は頑丈で沈められないと気付いているかもしれない。


 彼らはとにかく船を沈めることを目的にしている可能性がある。


 ……いや、本当にそうだろうか? 帝国の経済に打撃を与えるなら、漁船も何もかも無差別に沈めてしまえばいいはず。


「……一つ、試したいことがある」

「試したいことですか?」


 エリシアの声に俺は頷く。


「ああ。夜、また海にでよう」


 こうして俺たちは夜中、ひっそりと帝都の埠頭を出航するのだった。

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