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41話 招かれざる客

「姿を顕しなさい、悪魔よ!!」


 ニコニコとした顔の修道服の女性は高らかに言い放った。


 ぶっきらぼうの顔の女性は、眩く光る石を掲げた。


「眩しっ! ……?」


 光からは魔力の反応が感じられたので、俺は目を瞑りながらも《闇壁》を展開しようとした。


 だが瞼を上げると、光はすでに消えていた。


 周囲が沈黙に包まれる。


 ニコニコとした顔の女性は、途端にきょとんとした顔になる。


「あ、あれ……ちょ、ちょっと、ネイト!」

「おかしい、ティカ。何も起こらない」


 ぶっきらぼうの顔の女性は、石をこんこんと不思議そうに叩いた。


 ニコニコしたほうがティカで、ぶっきらぼうなのがネイトか。


 二人とも十五歳前後ぐらいだろうか。

 ティカはベルトに何本ものナイフをいくつも提げていた。ネイトのほうは大きな箱のような物を背負っている。


「も、もう一度、光らせなさい! ──って、眩しっ……ちょ、急に」

「駄目、ティカ。何も起きない」


 ネイトはぴかぴかと石を光らせた。

 俺たちもその眩しさに何度も瞬きする。


 そんなわけないと騒ぐティカに、エリシアが冷たい声で言う。


「……失礼では? この方は、第六皇子アレク殿下なのですよ」


 ティカは慌てて答える。


「あ、え、あ……い、いや、この島に悪魔がいるかも、なあって……あはは」

「何の説明にもなってません。殿下の前で名乗りもせず石を光らせるのはどうなのです? ……そこのあなた。いい加減、そのピカピカさせるのやめなさい」


 エリシアの声にネイトは「あっ」と何かに気付いたような顔をして、ようやく石を光らせるのを止めた。


「……学校に行っていない魔族ですら、名乗りますよ」

「も、申し訳ない……私たち、修道院の出身で」

「修道院の者だからというのは、何の言い訳にもなりません。私も同じく、修道院出身です」


 珍しくエリシアは苛立つような顔で言った。


 ティカはすぐに頭を下げる。


「ご、ごめんなさい……ほら、ネイトも頭を下げなさい!」

「石をぴかぴかさせてごめんなさい」


 ネイトもぺこりと頭を下げた。

 そこを謝るのかと、ティカも驚くような顔をする。


 エリシアは溜息を吐いて言う。


「私じゃなくて、アレク殿下に謝るのが筋でしょう……そもそも、命を助けられたことについて礼の一言もないのですか?」

「そ、それは……あ、ありがとうございます」


 ティカはすぐに俺に体を向けると、深くお辞儀した。


 相当焦っているのが伝わる。

 この事態は予想外だったのだろう。


 そしてティカの視線は先ほどからずっと、俺の手の甲に向けられている。俺の【深淵】の紋に。


 きっとあの石の光を紋章に当てることで、俺が悪魔になるはずだったのだ。


 闇の紋章の持ち主の悪魔化を誘発させる石か……何とも悪趣味な物だ。


「……回りくどい話は好きじゃない。至聖教団の手先だな? 俺を殺しにきたんだろう?」

「そ、そんなことは!」


 ティカが焦るような顔で言うと、隣のネイトも真剣な顔で言った。


「子供は殺さない。私たちが殺すのは悪魔と……たまに大人だけ。それが悪魔祓いとしての」

「──黙りなさい、ネイト!!」


 本当にただの悪魔祓いか。

 悪魔祓いは神殿でも特に悪魔と戦うことを専門としている者たちだ。神殿内に、悪魔祓いを養成する学校もある。至聖教団に属する者も多いが、必ずしも至聖教団とは限らない。


「わ、私たちはただ悪魔と戦いに……でも」

「俺は悪魔化しなかった、というわけだな」


 空気を読まずネイトが淡々と答える。


「この、誘惑石っていうのが壊れているのかもしれない。初めて使うから使い方が間違っているだけかも」

「っ──馬鹿! 何、正直に言っちゃってるの!?」


 怒声を上げるティカにエリシアのみならず、あのセレーナすらも呆れた顔をしている。


 この言動……ティカとネイトが悪魔祓いなのは本当かもしれないが、とても暗殺者とは思えない。


 誘惑石なるものも初めて使うと言っていた。悪魔が現れた際に出動して退治する、普通の悪魔祓いの可能性が高い。


「……もういい。ともかく、この島は俺の領地だ。勝手に足を踏み入れたからには、正直に話してもらうまで解放するつもりはない」


 俺の言葉に、ティカは青ざめた顔をする。


「もう一度聞く。至聖教団の命令で来たのか?」

「……そ、そんなのは知りません。私たちは、ただ」

「ただただ、こんな場所に悪魔祓いにきたのか?」

「そ、そうです」

「じゃあ、逆に聞くけど……このまま何も倒せないで帰ったら、君たちはどうなるんだ?」

「そ、それは……」


 ティカは返答に詰まる。

 悪魔となった俺を殺す以外のことを想定していなかったのだろう。


「修道院の出身と言ったな……何か、至聖教団に脅されているんじゃないのか?」


 そう問うと、ティカは口を噤んでしまった。


 至聖教団に反感を持つ神殿の者もいる。

 だが至聖教団は、そういった者たちを容赦なく金や力でねじ伏せていくのだ。


 今回の場合、至聖教団は自分たちで手を下したくなかったのだろう。


 俺は仮にも皇子。

 暗殺の成否に限らず、もし暗殺者が至聖教団の手の者と明るみに出れば一大事だ。


 だからこそ、ただの悪魔祓いをここに寄こした。

 失敗しても至聖教団のせいとならないように。


 ティカは俺の声に何も答えない。言いたいけど言えない……喉まで出かかっている言葉を堰き止めているような様子だった。


 ネイトはそんなティカをじっと見つめる。


「私はティカを信じる……」

「ネイト……」


 ティカはぎゅっと目を瞑る。


 それからかっと目を見開いて、自分に言い聞かせるように言う。


「アレク殿下……あなたには何の恨みもない。むしろ、とても……でも、私たちが生き延びるには、こうするしかない!」


 翼の付いたブレスレットをぎゅっと握るティカは祈るように口を開く。


「……いと高きにあられる天使よ、力をお貸しください──《召聖》!」


 エリシアとセレーナはすぐに剣でティカを斬ろうとする。


「二人とも、待て!」


 だが俺は咄嗟にそれを止めてしまった。


 我ながら甘いと思った。


 しかし斬る必要もないのだ。なぜなら、


「……天使は、悪魔しか襲わない」


 俺は天上から注ぐ光の柱を見て言った。


 《召聖》は天使の分身を召喚する聖の最高位魔法。


 本来は複数名の聖魔法の使い手が、時間をかけて使う魔法だ。一人で使う魔法ではない。ティカのブレスレットはきっと《召聖》の魔導具だったのだろう。


 天使が召喚されれば、近くにいる悪魔を倒すまで戦い続ける。逆に悪魔がいなければすぐに光となって消えてしまう。


 光の柱が薄くなると、そこには人型をした光が立っていた。


 優雅な光の翼を広げ、眩いばかりの光の剣を手にしている。


 その天使は、ゆっくりと剣をこちらに向けた──


「──っ!?」


 光線が、天使の剣からこちらへ放たれるのだった。

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