36話 魔核
「あれは……ゴーレム!?」
セレーナは回廊から下を眺めて言った。
それからすぐに、俺たちの頭上を岩が通り過ぎていく。
勢いよく壁にぶつかった岩は粉々となり、ぼとぼとと俺たちに降ってきた。
「──《転移》」
すぐに俺たちは、入り口側へと《転移》した。
エリシア、セレーナ、ユーリはもちろん、鎧族もだ。
「鉱山だしゴーレムが出ても何もおかしくはないけど……この数は」
ユーリの言う通り、次々と坑道からゴーレムが出てくる。見えるだけで、十体以上はいそうだ。
エリシアが俺に訊ねる。
「いかがしますか? 扉なら、すぐ閉められますが」
「逃げるのも手だが、こいつらを倒さなければ鉱山は使えない……セレーナ、戦おう」
「はっ! 然らば──《炎槍》!」
セレーナは手に炎の槍を浮かび上がらせると、それを回廊への階段を上がってくるゴーレムめがけ投げた。
ゴーレムは岩を投げてそれを迎撃する。
だが炎の槍は岩を砕き、そのままゴーレムを貫き、粉砕した。
「おお! うわっ!?」
ユーリが喜んだのもつかの間、ゴーレムたちが投げた岩が無数に迫る。
「我らに、お任せください!」
鎧族たちが俺やユーリたちを守るように展開してくれた。
岩を体で受ける鎧族だが、びくともしない。
「ありがとう、皆……だが、このままでは」
下を見ると、先程セレーナが粉砕したゴーレムが復活している。
魔核を破壊しなければ、ゴーレムは永遠に岩を集めて復活できるのだ。
セレーナは何発も《炎槍》を撃って次々とゴーレムを粉砕するが、向こうはすぐに復活していった。
「くっ!? やつら、魔核が硬い」
「魔核が魔鉱石で、できているのかもな……」
ガーディアン同様、正面からの破壊では厳しい。
とはいえ、彼らの魔核が操られているわけでもない。ゴーレムは常に他者に敵対的なのだ。
……いや、待てよ。俺が、逆に魔核を操ることができれば……
だが、ここは魔力を宿す魔鉱石の影響もあって、魔核の位置が探りにくい。魔核に俺の魔力を向けるには、目視で捉える必要がある。
「セレーナ! 次に倒すゴーレムを教えてくれ!」
「はっ! では、あの下のを倒します! はあっ!!」
そう言うとセレーナは炎の槍を再び投げ、ゴーレムを粉砕した。
俺はすかさず、ゴーレムの残骸の中の赤い石を見つける。
「あれか……魔核を闇の魔力で包んで……」
自らに従うよう念じる。
するとその魔核はもう岩を集めなくなった。
「よし、成功だ! セレーナ、どんどん頼む!」
「はっ! アレク様のお言葉なら!!」
セレーナはそう言って、《炎槍》を矢継ぎ早にゴーレムに放っていった。
俺も負けじとゴーレムの残骸の中に落ちた魔核に魔力を送り、支配していく。
やがて最後のゴーレムも倒れ俺がその魔核を掌握すると、周囲はシーンと静まった。
「ふう……なんとかなった。うん? どうした、セレーナ?」
俺は、どこかきょとんとした様子のセレーナに声をかける。
「え、あ、申し訳ありません! 自分でも、まさかこんなに速く撃てるようになっていると思わず」
「ああ、すごい戦いぶりだった……もしかしたら、俺の眷属になると魔力が上がるせいかも」
「なるほど! 《炎槍》は基礎的な魔法ですから、これが《炎獄》になるとすごいことなりそうです!」
「見てみたいような見たくないような……ともかく、さすがだったセレーナ」
俺が言うと、セレーナは誇らしげな顔を見せた。
ユーリは少し悔しそうな顔をする。
「私もやっぱり……雷魔法を学ばないと」
「まあ、戦闘はセレーナさんにお任せします。それより」
エリシアの声に俺は頷く。
「魔核が本当に大丈夫か確認しよう」
「はい!」
俺たちは回廊から階段を降り、ゴーレムたちの残骸のもとへ向かう。
床は粉々になった岩で埋め尽くされていた。
だが、その中には赤く煌めく宝石のようなものも見える。
「これが魔核か」
俺は一つ赤い石を拾ってみた。
先ほど送った魔力は、ずっと魔核の周囲で淀んでいる。
「よし……人型になれるか?」
俺が言うと魔核は浮遊し、そのまま周囲の岩を集めてゴーレムとなった。
こちらを襲ってくる気配はない。
「ちゃんと言うことを聞くな……しかし、ゴーレムをテイムしたなんて話は聞いたことがないが」
恐れを知らないから、ゴーレムが人間に従うことはない。従属魔法が効かないのだ。
だが、俺の魔力はゴーレムたちを従わせることに成功した。
きっと、ガーディアンたちを操ったのと同じ魔法を再現できたのだろう。
名付けるなら《魔操》というところかな。あまり使っていて気持ちのいい魔法ではない……
そのガーディアンたちは俺が何も言わずとも、ゴーレムの魔核を集めてきてくれた。
セレーナがこくりと頷く。
「ゴーレムに言うことを聞かせるため、一度破壊したゴーレムの魔核を改造したのが、ガーディアンの魔核ですね……本当にアレク様は魔法や魔物にお詳しい。まだ七歳なのに……」
「ま、まあ勉強してきたからね……」
やり直し前は、魔物や魔法についてしっかり勉強した。引きこもりの俺には全くいらぬ知識となってしまっていたが。
いや、まあ今は役に立っているから、結果としてよかったのか。
「……ともかく、従魔として操れそうだな。でも」
こいつらを眷属にしたらどうなるかも気になる。
「せっかくだし、眷属になってもらうか」
俺はガーディアンが集めてくれた魔核に、眷属になるよう念じてみる。
「……さあ、どうなる?」
光に包まれる魔核……そして光が弾けると。
「見た目は変わらないか。ここはスライムと変わらないな」
魔物は人間の姿にはなれないのだろうか。
そんなことを思っていると、魔核から声が響く。
「……ご主人様。ご命令を」
「おお、喋れるようになったか」
普通のゴーレムは喋らないから、これはこれで助かる。
俺のかけていた魔力もすっかり消え、魔法を使わずとも従うようになったようだ。
ユーリが少し声を震わせて言う。
「ま、まさかゴーレムを味方にできるなんて……あ、でも、ゴーレムは岩を砕くのも得意だから」
「採掘も得意、というわけですね」
エリシアの声にユーリが頷く。
「これなら魔鉱石がたくさん採れる! あ、でも……それだとわざわざ私たちの仲間を呼び寄せなくても」
「いや、ユーリ。仲間を呼び寄せるのは進めてくれ。職人が沢山いてくれれば俺たちも助かる」
「はい! それではそちらは予定通りに!」
俺は首を縦に振った。
「ああ。それじゃあ、ゴーレムに魔鉱石を掘ってもらおう。スライムたちは、それをここに集めるように。鎧族は、新たなゴーレムが出てこないか警戒を続けてくれ」
皆、俺の命令に従い行動する。
こうして俺たちは、魔鉱石の採掘を始めるのだった。