32話 抜け道
アルス島でアロークロウの駆除を始めて二日が経った。
俺自身もアロークロウを倒したが、アルス島やティアルス島の地理を確認したり、政庁をスライムと掃除したりと、色々なことを並行して進めた。
その結果、このアルス島には本当に何もないことが分かった。
古代の書物やお宝の類のようなものがないのは仕方ない。しかし、武器や道具もまともに使えるものも何も残ってなかった。
小規模な菜園もすっかり雑草で覆われてしまっていた。
強いて挙げるなら、水道の水ぐらいか。
聖木のおかげで回復効果があるから、神殿がやるように聖水として売ることができるだろう。
ポーションほどではないが、銅貨五枚ぐらいで売れる。帝都の大衆食堂で食事をするのと同じぐらいの値段だ。ローブリオンにいくらか瓶詰したものを売ってみるか。
そんな中、セレーナが意気揚々と執務室へと入ってくる。
「殿下! ひとまず、島中からアロークロウを駆逐できたのを確認いたしました!」
「もうか。早いな」
この二日でアロークロウを百体近く狩れた。
肉は一部を自分たちで食べ、残りは帝都やローブリオンで売り、羽や嘴はボルトの素材とした。
肉を売却した金だけでも、大変なものになっている。
皆がここで三か月暮らせるほどの大金となったのだ。
「本当に皆よくやってくれたよ。お金もそれなりに稼げた。数か月は安泰だけど……」
アロークロウもしばらくは大陸からこの島にやってくるだろう。だがやがてこの島を恐れるようになるはずだ。
その分、他の魔物がやってくる可能性もあるけど……
「ローブリオンの鍛冶屋業と聖水だけじゃ支えきれない。他の産業を考えないといけないな……この島だと、やっぱり漁業がいいのかな」
「いい案とは思いますが、あの体躯では漁網を扱ったり、海に船を出すのは少々難しいかもしれませんね」
セレーナの言うように体の小さな鼠人とスライムでは漁業は向かない。養殖が安全か。
あとは海といえば、塩田を作るぐらいかな。
どちらも試験的に始めていいかもしれないが、稼ぎとしては難しい。
畑を作るにしても、ほとんどが砂浜と石材で覆われたアルス島では大きなものは作れない。
やはり、大陸にいかなければどの産業も厳しいか。
「セレーナ……近場で魔鉱石が採れる場所はないかな?」
「この地は魔鉱石が多く掘れることで有名でしたからね。一つだけ、心当たりが」
「本当か?」
「はい。アルス島の地下には、大陸に繋がる秘密の通路があるのです。最寄りの魔鉱石の採掘場にも繋がっていると聞きました」
アルス島は四方を海に囲まれている。
防衛に適している反面、海を包囲されれば島から出られなくなってしまう。
それを防ぐための抜け道か。逃亡用、そして重要物資である魔鉱石を得られるようにしていたのだろう。
セレーナはこう続ける。
「アルス島にいたティアルス州の総督や住民は、その通路を使って逃げた……ところまで覚えています。私は部下と共に、その撤退を支援していたのです」
「そうか。見にいってみるかな」
「はっ。ご案内します。海水が漏れてなければ今も使えるはずです。そこにはガーディアンもいるかもしれませんが、軍団長である私の言葉なら、彼らも従ってくれるかと」
「そうか。仲間にできれば、心強いな」
アルス島の防衛だけでなく、大陸の奪還にも役立ってくれるだろう。ガーディアンは心臓部の魔核を壊されなければ死ぬことはない。
魔鉱石は本当に貴重だ。
鉱石の種類や製法によっては、同じ量の金と同じ金額で取引される金属もある。
「よし、なら明日はその地下通路を見に行くとしよう」
翌朝、俺たちはアルス島の地下通路ヘ向かうことにした。