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29話 戦上手

「レイスか!」


 黒靄を見て、セレーナが剣を構えた。


 レイスはウィスプと同じアンデッドだが、より強力な魔法を使ってくる。


 また生者などに取り憑き、その体を闇の魔力で蝕んでいく。今回は、聖木を依り代にしていたのだろう。


「私にお任せを、アレク様! 我が大魔法《炎獄》にて、木ごと焼き払います!」

「ああ……いや、駄目だ! そんな魔法使ったら、ドームごと崩れる!」


 セレーナはさらっと言ったが、《炎獄》は炎の最高位魔法だ。


 巨大な爆発を起こした後、あらゆるものを燃やし尽くす炎の嵐を巻き起こす。レイスはもちろん倒せるだろうが、俺たちも死ぬ。こんな狭い場所で使う魔法じゃない。


「俺が、やつの魔法を受ける。霊核という魔力の塊が見えたら、エリシアはそこに聖魔法を喰らわせてやってくれ」

「はい!」


 俺は早速、レイスに手を向けた。


 同時に、レイスもまた紫色の光を宿し始めた。


 木や水に含まれていた膨大な闇の魔力が、その光に集まっている。


 セレーナが焦るような顔で言う。


「アレク様! 尋常でない魔力です! ここはやはり!」

「大丈夫だ──っ!」


 レイスから、紫色の光線が放たれる。


 俺は前方に《パンドラボックス》を展開し、その魔力を吸収していく。


 だが、向こうはまだまだ魔力があるようで、なかなか魔核を現さないようだ。


 それを見たセレーナが言う。


「なるほど、これなら……エリシア殿! 私の剣に聖魔法を!」

「え? は、はい!」


 エリシアはセレーナの剣に聖属性の魔力を送る。


 剣が光を帯びると、セレーナは勢いよく地面を蹴った。


「なっ……」


 思わず俺は言葉を失った。


 セレーナは湖の中央まで一気にジャンプし、レイスを斬りつけたのだ。


 恐らくは風魔法を使い、あそこまで跳ぶことができたのだろう。


 光線はやがて消え、両断された黒靄も霧散した。


 セレーナは湖の対岸へと着地し、剣を鞘に納めた。そしてまた、こちらに跳んで帰ってくる。


「どうでしょうか、アレク様! ……し、しまった!」


 ばしゃんとセレーナは湖の中に落ちてしまう。少し飛距離が足りなかったようだ。


「セレーナさん!」


 エリシアと俺はそんなセレーナの腕を引き、湖から上がらせる。


「も、申し訳ない……」

「いえ、お気になさらず。ですが、本当にお見事でした!」


 俺もエリシアの声に頷く。


「本当に。さすがに軍団長だけあるな」

「いえいえ、アレク様がレイスの魔力を吸収し、エリシア殿が剣に強力な聖魔法をかけてくれたからですよ」

「いや、エリシアはともかく俺はそこまで戦慣れしているわけじゃない。さすがだよ」

「アレク様……お言葉、光栄です!」


 セレーナはふふんと自慢げな顔で言った。


 今の戦闘技術に加え、炎の最高位魔法である《炎獄》を使うのだからやはりセレーナは強いのだろう。戦術なんかは、セレーナに任せたほうがいいかもしれない。


 そう感心していると、セレーナははくしょんと大きなくしゃみを響かせた。


 俺は《パンドラボックス》からタオルを出して、体を拭くように言う。


「あ、ありがとうございます! は、は……はくしょん!」


 セレーナはまたくしゃみを響かせると、通路のほうに行き鎧を脱ぎ始めた。


 どこか抜けているところはあるけど……


「ともかく、これで木のほうは……いや、大丈夫ではないようですね」


 エリシアはいまだ黒い靄を纏っている木を見て言った。


「ああ。根のほうまで染みこんでいるのかも……とりあえず、俺が闇属性の魔力を吸収してみるよ」


 そう言って俺は湖に手を向けた。


 闇属性の魔力を引き寄せ、《パンドラボックス》へと吸収していく。


 膨大な魔力だったが、俺も慣れてきたのか、一分もしない内に湖と木から闇の魔力を除去し終えた。


 一応、木から黒靄は消えたが……やはり枯れ木のようにしか見えない。


「どのみち枯れているかもな。エリシア、一応聖魔法を」

「はい!」


 今度は、エリシアが聖魔法を木に放った。


 光に包まれる木……するとやがて木は、きらきらとした光を周囲に放つようになる。


 ティアが声を上げる。


「チュー! 綺麗っす!」

「聖木の輝きだ……蘇ったんだ」


 もう枯れていると思ったが、まさか復活するとは。


 そこに体を拭き終えたセレーナが戻ってくる。


「おお、復活しましたか! こうして聖木を置いて、水に聖属性の魔力を持たせていたのでしょうね。帝国でも、金持ちの多い都市がやっていたことです。ティアルス州は、東方大陸との交易も盛んでしたから」

「とすると、これからは体にいい水が飲めるってことすか!?」


 ティアの問いかけにセレーナは頷く。


「ああ。飲んでよし、浸かってよし。風呂は本当に気持ちいいぞ」


 セレーナの言う通り、安いポーションぐらいの回復効果が得られるはずだ。


 俺は皆に向かって言う。


「よし、皆ありがとう。とりあえずこれで水道はどうにかなった。後は水道管や水路を掃除すれば、水はもう心配ないだろう」


 スライムたちに水道管の中のカビなどを綺麗にしてもらうとしよう。


 こうして俺たちは、アルスに綺麗な水を取り戻すのだった。

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