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22話 安全な場所

「舐めていたな……魔境」


 ローブリオンの拠点に帰還した俺は、椅子に座って一人ぼやいた。


 まさか、あんなに大量の魔物が一挙に押し寄せてくるとは思わなかった。


 俺たちが倒した魔物に他の魔物がイナゴのように群がる様は、思い出しただけでもぞっとする。


「魔物が多いというのはもちろんだけど、どこに《転移》しても魔物がいるのが問題だ」


 とてもじゃないが、ゆっくり探索する余裕がないのだ。


 ……闇魔法で、倒せるだけ倒してみるか?


 数を減らせば、いつかは向こうもこちらを恐れるようになるかもしれない。


 しかし死を恐れない魔物も多い……魔力を使いすぎて《転移》できず囲まれるなんてこともあり得る。


 武力で排除するのは、最後の手段として考えておこう。


「やっぱり……行く場所のあたりをつけておいたほうがいいか」


 ティアルスは自然豊かな場所で、広大だ。


 ローブリア伯領の境界に位置する北部から大陸最南端まで、平原と森林が広がっている。


 東部には南北を貫くように山脈が伸びていた。

 そこでは、魔鉱石と呼ばれる魔力を宿す鉱石が埋まっていた。


 西部と南部は海に面していて、南部にはティアルス湾という巨大な湾がある。


 そのティアルス湾には、アルス島という巨大な島が浮かんでいた。


 ここはルクシア帝国時代にティアルス州の州都が置かれていた場所。


 アルス島に州都を置いた最大の理由は、おそらく守りやすかったからだ。


「海があるだけで、魔物も簡単に襲ってこれなくなる。拠点を作るならここだ」


 まずは、このアルス島を目指すとしよう。


 帝国時代の書物などが残っていて、鉱山など資源が埋まっている場所についての情報も得られるかもしれない。


「まあ、そのアルス島も魔物があふれていないとは言い切れないんだけど……」


 ともかく、俺も風呂に入ってゆっくり寝るとしよう。


 今日は戦闘も多かったから少し疲れている。


 俺は一階にある浴場へと向かおうとする。


 すると、一階の工房で作業する青髪族に気が付く。


「皆、休まなくていいのか?」

「あ。アレク様。休むには、まだ少し早いっていうか」


 青髪族の若い男はそう言った。


 今までは、もっと遅くまで働いていたということか。


「無理は禁物だぞ……そういえば、今日は大繁盛だったようじゃないか」

「ええ。鉄鎖を引き取りに来た兵士たちの武具を修理したり、鋏を売ったり、結構な金額が」


 エリシアから、金貨十枚を儲けたと聞く。これは鉄鎖とは別の売上だ。


 男はにっと笑う。


「だから明日の商品も考えていたんです。アレク様から先ほど頂いたデススネークの蛇皮で、スカーフを作ろうかと」


 街道で、俺は多くのデススネークを狩った。


 とりあえず倒したのをそのまま《パンドラボックス》に回収したが、特に腐ることもなく持って帰ることができた。


 以前倒したアロークロウの肉も凍ったまま……

 《パンドラボックス》の中では、時間が経過しないのだろうか。

 引き続き実験は続けるつもりだ。


 話を戻すと、倒したデススネークは青髪族に託すことにした。


 全部で十体ほどいたが、彼らはすでに解体を終えたようだ。

 皮や肉にすでに分けられている。


 その皮でスカーフを作るつもりか。


 デススネークの皮は手触りも良く頑丈で、魔法にもいくらか耐性がある。高値で取引される素材だ。


「金持ちなら買うだろう。銀貨一枚で売れるはずだ」

「はい! アレク様のために、精一杯作ります!」

「嬉しいけど、頑張りすぎないようにね……」


 俺は再び熱心に作業しだす青髪族にそう声をかけた。


 ともかく、青髪族に製品を作らせて商売するのは成功だな。


 その後は風呂にゆっくり浸かり、自室へ戻る。


 扉を開けると、エリシアとユーリが待っていた。


「二人とも、風呂はもう入ったの?」

「はい。お言葉に甘えて、私もユーリも随分前に」


 エリシアはそう答えた。


 あまりにもユーリが疲れた様子だったので、先に風呂に入らせたのだ。


 そのユーリは、俺の前で深く頭を下げた。


「本日はアレク様にご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません……」

「気にしないで。そもそも、ユーリに戦闘をしてもらうつもりはなくて、鉱石を見てほしかったんだし。もし今日ので嫌になったら、明日からはここで待ってくれてもいいから」


 人によっては精神的に苦痛な光景だった。


 かくいう俺も、あの魔物の大群を思い出すと少しぞっとするぐらいだ。


 しかしユーリは首を横に振る。


「どうか、お供させてください。同じような失態はもういたしません」

「分かった……俺も、もうユーリを怖がらせないように頑張る。行く場所も決めているから、安心してくれ」

「アレク、様……」


 ユーリは顔を赤くした。


「ゆ、ユーリ? 熱でも?」

「いえ! いや……胸が熱くなりましたけど!」


 そんなユーリにエリシアが声をかける。


「明日からも頑張りましょう、ユーリさん。それよりも、早くアレク様に」

「そうだ……アレク様、こちらを」


 ユーリが視線を向けたベッドの上には、純白の布団が敷かれていた。


「うん? ……普通の布団じゃない? 少し光沢があるような」

「はい! デススネークの蛇皮を使った布団と枕です」


 ユーリはこくりと頷いた。


「へえ。たった数時間で……」


 俺はベッドの布団を触ってみる。

 すべすべでとてもいい手触りだ。


「ユーリが作ったの?」

「はい! アレク様に気持ちよくお休みなっていただきたくて」

「ユーリ……俺は眠りにうるさい、寝心地にはうるさいぞ」

「自信はあります! ぜひ、横になってみてください」


 寝心地を確認するため寝間着で横になるが、程よくヒンヤリとしている。

 

 フワフワしているし、ごわごわする毛玉もない。本当によくできている。


 ユーリと青髪族は鍛冶だけでなく、色々な物も器用に作れるようだ。魔鉱石で武具を作らせたら、結構な逸品ができそうだな。


「これはぐっすり寝られそうだ……ユーリ、すごいよ」

「気に入っていただけてよかったです」

「ありがとう。それじゃあ、さっそくこれで眠らせてもらうかな」


 エリシアとユーリはニコニコと横になる俺を見つめる。ちょっと長すぎるぐらいに。


「本当に気持ちいい……ありがとう」


 そう言うが、二人はずっとニコニコとしているだけだ。


 ……寝るまでずっと見ているつもりかな。


「それじゃあ、おやすみ……明日も早いから、二人も早く寝るんだぞ」

「はい、おやすみなさい!」


 二人は声を揃えて答えた。


 その後もしばらく薄目で二人の様子を確認したが、二人はベッドに座りながらずっと俺を見ているのだった。可愛い可愛いと言いながら……

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