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180話 ミレス行きの準備

 リーシャたちを仲間に加え、ユリスとの共闘関係を結んだ翌日。


 俺たちはユリスとの間で更なる情報共有や、協力方法を議論していた。


 ユリスの言う通り、俺はしばらく自分のことやミレス行きについて集中することにした。


 一方、帝都の外や邪竜のことはユリスをリーダーとして活動していくこととなった。ユリスは“鼠の王”の語感を気に入って、組織は今後、鼠の王として世界中で活動していくようだ。


 部隊の編成や拠点の確保など細かい点は、エリシアやセレーナ、向こうのアリュシアとセルナなどと詰めていくらしい。


 俺は完全に蚊帳の外……というよりは、ユリスの指導や指示が的確過ぎて口を挟む理由がない。会議を聞いているが、ただ頷いて「いいな」と答えるだけの置物になってしまっている。


 一方、俺と同様、会議に加われない者もいる。


 暢気に植物の種を食べているティアたち鼠人──はいつもと同じ。ではなく、緑の肌の大男エルブレスだ。


 エルブレスはアルスの広場の隅のベンチでがっくりと項垂れていた。


 俺は種を齧るティアに訊ねる。


「どうしたんだ、エルブレスのやつ? アリュシアと話せたんじゃ」

「それが塩対応だったらしいっす! エルブレスさんが“俺、多分父親だよな”って言ったら、アリュシアさんは“きっとそうですね”と……それで会話が途切れたらしいっす!!」

「なるほど……」

「それから食事が喉を通らないらしいっす。何度か話そうと試みてみたっすが、アリュシアさんはずっとエリシアさんたちと忙しそうに会議してるっすから」


 エリシアとアリュシアの二人は、互いを避けるでも、かといって打ち解けるわけでもなく、淡々と今後に関することを話し合っていた。姉妹とは認識してなさそうだが、仕事だから話しているのだろう。


「出る幕がないのは俺も同じだな……ちょっと励ましてくるか」


 俺はエルブレスに近づき声をかける。


「大丈夫か?」

「そうだよな……俺なんて父親失格だよな。レシアもアリュシアもエリシアも皆、守れなかった……俺なんて!!」


 どんよりとした空気がエルブレスを覆っていた。


 暗い。なんて励ませばいいか分からないな……


 そこにエリシアの声が響く。


「何落ち込んでるんですか、エルブレスさん」

「エリシア……」


 エルブレスが顔を上げる。エリシアとアリュシアがやってきていた。


「エルブレスさん。あなたには早速、モノアさんと魔王領部門の責任者になっていただきます」

「魔王領……? でも、レシアは」

「もちろんそちらも手掛かりが得られ次第、あなたに参加してもらいます。あなたは私たちにない魔王領に関する知見がある。今はそれぞれが一番得意とすることで協力しなければいけません。決戦の日までに、レシアさんも見つけるためにも」


 ユリスは魔王領に関する部門を立ち上げたいと言っていた。悪魔にとって魔王領は強力な味方だ。ここの動向を詳しく調べておくことは、決戦の日の結果に大きく関わってくる。


 エルブレスはオーク。モノアはリンドブルム。二人とも魔王領出身だ。魔王領に関する知見は豊富。適任だ。


「そう、だな……それにレシアは俺なんか見ても──ううっ」


 エリシアがハアとため息を吐く。


「まったく情けない。こんな父を持つ子が可哀そうですね。そう思いませんか、アリュシアさん?」

「ああ。私もそう思う。自分の父親はやはり格好よくいてほしいものだ」


 アリュシアは淡々と答えた。


 その言葉にエルブレスがぴくりと眉を動かす。


「俺を……父親と認めてくれるのか?」

「私は何も確かなことは言えませんよ。でもまあ状況的に、その可能性が高いとは思っています」

「私も、あなたが産みの親……いや、幼少時は育ててくださったのだろう」

「私もアリュシアさんも、こんなうじうじした人を父親とは思いたくないですがね。母もきっと呆れるでしょう」


 エリシアが不満そうに言うと、エルブレスは目を潤ませる。


「……俺、頑張る!! 二人の理想の格好いいパパになるぞ!! レシアを取り戻すために、バリバリやるぜ!!」


 エルブレスは立ち上がり声を上げた。


「こうしちゃいられない! すぐにでも魔王領に乗り込むぞ!!」

「……誰がそんなこと言いました? あくまでも諜報活動がメインですよ!」


 エリシアは少し呆れた様子で、アリュシアも相変わらず真面目そうな表情だった。


 ティアは苦笑いを浮かべる。


「チュー! エルブレスさん、単純っす!」

「そうだな。でも、元気になってよかった」


 心なしか、エリシアとアリュシアの表情も柔らかくなっている気がする。


 あとはレシアが揃えば、エリシアたちの家族は再会を果たせるな……


 俺の家族は健在なのに、なんというか羨ましくなる。


 紋章を授かる前、俺は十人以上の乳母やメイドに育てられていた。母は母らしいことをせず、貴族と毎日のように宴会を開き俺には無関心だった。


 父は俺に期待はしていたが、皇帝である以上俺にはあまり構ってられなかった。


 とはいえ、他の兄弟姉妹たちも俺と似たようだものだ。そしてその兄弟姉妹もほとんど他人のような関係でしかない。


 中には、後継争いで敵としか認識していない者もいる。ヴィルタスから上の兄や姉たちは皆そんな感じで、目を合わせるのも嫌という感じだった。


 だから、エリシアたちを羨ましく思っている自分がいるのかもしれないな。


 とはいえ、今は孤独感なんて微塵も感じていない。俺にはアルスの皆がいる。


 そんなことを思っていると、後方の海のほうから巨大な爆音が響いた。


「いや、私のほうが絶対強いって!」

「いいや、私のほうが強い!! 私のほうが、爆発が大きいだろ!?」


 振り返ると、そこには言い争いをするセレーナとセルナの姿があった。


 セルナはセレーナに顔を突き合わせて言う。


「私は、しっかり狙いを定めているの! あんたのは派手なだけで、無駄な爆発多すぎ!!」

「私のだって狙いは正確だ!! それに爆発が大きいほうが敵に命中しやすい!! 大きいは正義だ!!」


 セレーナはそう言うと、再び火炎魔法を海のほうに向かって放つ。セルナも負けじと、大きな火炎魔法を放った。


 どうやら二人は火炎魔法を競い合っているらしい。セレーナは【熱血】、セルナは【火精】、どちらも火と炎の魔法に恩恵のある紋章を持っている。あの二人は主にアルスや帝都をはじめとした拠点の防衛を統括する。


「チュー……協力するのはいいっすが、あの二人で大丈夫っすかね?」


 ティアに心配される二人……確かに俺も不安だ。


「……まあ、ラーンやメーレもいるから大丈夫だろう。それに似た者同士っぽいというか」


 性格か顔かは分からないが、なんというか似ている。いや、似てるからこそ衝突しているのか……


 エリシアが苦い顔で答える。


「私たちがしっかり見張るので大丈夫です」


 アリュシアも頷いて言う。


「私も言って聞かせます。セルナは食事抜きだと言えば、言うことを聞きますから」

「そうなんだ……まあ、まだ皆会ったばかり。時間が経てば、打ち解けてくるだろう」


 俺が言うとエリシアもアリュシアも頷いた。


 エリシアやユーリ、セレーナたちもいまだにたまに言い争いをするし……俺を巡ってのことが多いけど。


 エリシアが口を開く。


「アレク様の仰る通りです。ところでアレク様。アレク様のミレス行きですが」

「ああ。そっちは俺が主導して計画を立てないとな」

「はい。まずは、大学内の態勢を整えるべきかと」

「そうだな。俺と同い年に見えるメーレに来てもらおうと思っている。ユリスも試験を受けて、大学と出入りできるようにしておくらしい」


 アリュシアが深く頷いた。


「メーレ殿の闇魔法を拝見しましたが、非常に強力でした。しかし大学では大っぴらには闇魔法は使えない。そしてアレク殿も闇魔法が一番得意。ユリス様は聖魔法で両名の弱点を補えますが、大学にいれるのは不定期」

「確かに俺とメーレは得手不得手が一致している。戦闘になると少し不安だな」

「はい。ですから、剣を得意とする、私やエリシア殿、セレーナ殿などがやはり近くにいるべきかと。私たちもユリス様と同じように、試験を受けようと思います」

「それはありがたい。だが、年齢によっては一緒に講義を受けられない。そうなるとエリシアたちが近くにいるのは難しいかもな」


 ティアが言う。


「影輪を使って、ティアたちがずっと一緒にいてあげるっすよ。ティカさんとネイトさんもいるし、大丈夫じゃないっすか」

「ただ、影輪は闇魔法を使っている。聖の魔力に満たされている状況では厳しいかもな……まあ、考えすぎではあると思うけど」


 エリシアが首を横に振る。


「アレク様は間違っておりません。考えすぎなぐらいがちょうどいいかと」

「そう、だよな。やはり魔法が使えないときのことも考えておきたい。もちろん、俺自身も剣を鍛えておくつもりだけど」


 アリュシアが言う。


「一応、青髪族やオークの魔族の子供から選抜いたしましょうか? そこで剣などの才能がある者がいれば、アレク様の従者に」


 アリュシアの提案に俺は頷く。


「それもいいな……だが、才能で思い出したが、声をかけてみたい相手がいる。俺とエリシアも知っている子だ」


 エリシアはあっと何かに気付いたような顔をする。


「帝都の修道院の子供……リーナですか」


 リーナは俺と同い年の女の子で、【夜刀】を持つ少女。闇の紋章を持つ者が集まる帝都修道院で暮らしている子だ。至聖教団が俺の噂をしていることも教えてくれた。信用のおける相手だ。


「ああ。そろそろ、少しずつ俺たちのことを伝えられたらなって」


 現在、俺たちは修道院で作られる物資を大量に購入している。そのため、闇の紋章を持つ人々の生活はだいぶ豊かになっていた。


 もともとアルスに迎え入れたかったのだが、結果として移住を強く促す理由が薄れてしまっている。今の生活に満足している者もいるだろう。


 とはいえ、アルスについても少しずつ話しておきたい。ぜひ移住したいという者も出てくるはずだ。


「まずは、リーナに話してみようと思ったんだ。大学の事も協力してくれるか聞いてみたい」


 エリシアが頷く。


「リーナなら、きっとアレク様の提案を受けてくれると思います! あの子は優しいですし、適任かと」

「俺もそう思う。だから俺は今から帝都の修道院に行ってくるよ」


 こうして俺は、リーナを勧誘しに修道院へ向かうことにした。

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