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177話 呼びかけ

 俺は聖域の外へと《転移》した。


 地上側に振り返ると、先ほどの眩い光は消えていた。アリュシアやセルナと戦うエリシアたちの姿がよく見える。ユリスは光を放つのをやめたようだ。


 つまり、ユリスは俺に注意を向けている……


 俺はペガサスに乗るユリスに顔を向けた。ペガサスに乗るユリスもこちらを見ていた。


 仮面を取って、すぐに話しかける。


「ユリス! 俺だ! アレクだ!!」


 それを聞いたユリスは、仮面をつけたままこちらに手を向ける。


「アレク? 私の知っているアレクは空中を飛んだりしないわ」


 そう言うと、ユリスは杖から光弾をこちらに放ってくる。


 俺がそれを《転移》で避けると、ユリスはさらに光弾を撃ちながら言う。


「そんな瞬間移動もしないはずだわ。あなた、誰?」

「訳があるんだ! ユリスもそうかもしれないが、俺には過去の記憶がある!」


 そう訴えるが、ユリスは淡々と答える。


「そんなこと有り得ない……あなたは、私の知るアレクじゃない」


 ユリスはそう言うと、光線を次々と放つ。撃つたびに軌道を修正しているのか、次第に狙いが正確になってきている。


 そんな中、エリシアの声が響いた。


「アレク様! ウテリアが!!」


 すぐに地上を龍眼で見る。そこには、すでにティアたちに抑え込まれたウテリアがいた。


 何かしようとしていたのか──いや、もうした後か。


 気がつけば、聖域の壁は取り除かれ、満たされていた魔力は空へと上がっていっていた。


 そしてその聖の魔力は、ユリスに向かって集まっている。


 ウテリアは聖域の魔力を用い、ユリスに何かをしたようだ。だが、ユリスは淡々と呟く。


「余計なことを──まあ、いいわ」


 その言葉の後、ユリスはペガサスから降りる。だが、その体は落下せず、光が包んでいく。


 光はやがて、ユリスを光の翼を生やした天使へと姿を変えた。


 体の大きさは、今まで見た天使と比べても大きくはない。しかし、翼はその背丈の何倍もの長さだった。手に握られた光の剣も、それに負けない長大なものとなっていた。


「これは……」


 ユリスが天使の中に取り込まれてしまった。天使の召喚魔法とは違うようだが、初めて見る魔法だ。


 天使は俺に剣を向けると、光線を放ってくる。


「っ!」


 先ほどの光線よりもはるかに速い。しかも、光線自体が太くなっている。


 すぐに《転移》で避けるも、間に合わず光線がマントを掠めた。


 光線が通り過ぎた時、猛烈な熱気を感じた。聖魔法と言えど、喰らえばひとたまりもなさそうだ。


 俺は《闇壁》を作り、万が一に備える。


 だが、ユリスの放つ聖の魔力のせいか、闇の魔力をうまく集められない。《転移》には時間がかかるし、《闇壁》も一瞬で破壊されてしまう。


「ユリス、話を聞いてくれ!」


 その間もユリスに呼びかけるが、聞こえているのか聞こえていないのか、何も言葉を返さない。もしかすると、悪魔化した人間のように、ユリスは天使に取り込まれてしまったのかもしれない。


 なんとかユリスを助けないと──。


 だが、手段が思いつかない。悪魔と同じなら、周囲の外装を剥がしていくしかないだろう。


 その間にも、天使は長大な光の剣を振るってきた。すぐに避けるも、俺のマントは斬り落とされてしまっていた。


 その後も、天使は光の剣で絶え間なく斬撃を繰り出してくる。このまま防戦一方では、いつかやられる。


 ──やるしかないか。


 俺は《転移》で天使の周囲を不規則に移動する。


 すると、天使は光の翼を羽ばたかせ、四方八方に光の矢を放ってきた。


「くっ!」


 一度距離を取り、弾幕から逃れる。


 まずは翼、そして剣を落とそう。


 俺は天使の翼に向けて、先に《聖光》、そして《黒弩砲》を放つ。いつもはエリシアと共にやる聖と闇の合わせ技を、一人で再現したわけだ。


 だが、俺は聖魔法の使い手というわけではない。俺一人の魔力では威力は弱く、また速度も遅いため、軽々と避けられてしまった。


 それでも隙を縫って攻撃を繰り出すが、向こうの反撃の方が、こちらに届くのが早いぐらいだ。


 エリシアを頼ろうにも、今はアリュシアとの戦いで手一杯。援護は望めない。


 このままじゃまずい……うん?


 俺は地上から、膨大な魔力が送られてくることに気がつく。


 どうやら、メーレたちが俺に魔力を送ってくれているようだ。


 また、地上からはドラゴン化した龍人と鎧族がやってくる。鎧族の手には、ミスリル製の大きく分厚い盾が握られていた。


「アレク様! 我々が盾になります!!」


 盾を構える鎧族たち。彼らを乗せた龍人たちは、天使の周囲を飛び回り始めた。


 あれは《聖壁》を付与した盾。その上、ミスリル製だ。天使の攻撃も防げるはずだ。また、彼らの後ろに隠れることで、天使から察知されにくくなる。


「助かる!」


 俺は龍人たちの後ろに《転移》を繰り返しながら、天使へと《聖光》と《黒弩砲》を放っていった。鎧族は見事、盾で天使の光線から守ってくれた。


 メーレたちの送る魔力のおかげで、先ほどよりも強力な魔法が撃てる。そして、龍人と鎧族のおかげで、天使の背中から攻撃できた。


 それでも避け続けていた天使だが、やがて俺の魔法が片翼を撃ち抜いた。


 天使が姿勢を崩す。すかさず、そのもう片方の翼と剣を攻撃した。


 落下するかに見えた天使。しかし、翼は再び再生を始め、落下は止まった。


 流石の再生力だな……ならば、再生が追いつかないほどに攻撃を加えるまでだ。


 俺は翼と剣を攻撃しながら、天使と距離を詰めていく。天使も翼の再生を行いながらも、光線で迎撃してきた。


 そしてユリスに呼び掛ける。


「……ユリス! 少しだけだが、お前との記憶を見た。多分、最初のやり直しのときの記憶だ」


 天使は何も答えず、こちらに光線を放ち続ける。


「……ユリスは、ずっと苦しんできたんだな。何も覚えていない俺のために、何度も何度も」


 なおも言葉を返さない天使。しかし、剣の振りが遅くなったように感じた。


 ──聞こえている。


 俺は翼への攻撃を続けながら、強引に天使の近くへと《転移》していった。


「俺の部屋に、窓から無理やり入ってきた時、お前は言った。俺を助けるって」


 天使の斬撃を避け、俺はついに翼と剣を完全に焼き落とすことに成功した。


 そのまま懐に入り、俺は天使の中にいるはずのユリスに手を伸ばす。


「──今度は、二人で立ち向かおう」


 そう言うと、ユリスを覆っていた天使の姿は、光となって消えていった。


 落下するユリス。


 俺はすぐに《転移》で移動し、ユリスを両腕で抱き抱えた。


「ユリス! 大丈夫か!?」


 返事がない──が、息はしている。気を失っているだけか?


 しかし、しばらくするとユリスから返事が返ってきた。


「……大丈夫よ、アレク」


 無事だったか……


 安堵したせいか、ふうと息を吐いた。だが、すぐに気まずさを覚えた。


「あっ……すぐ、下ろすよ」

「……ええ」


 そのままユリスを抱き抱えながら、地上へと降りていった。

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