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166話 白いゴーレム

「この奥だよ」


 リーシャは坑道の先にあった重厚な鉄の扉を指さして言った。


 ユーリは扉に近づき、こんこんと叩く。


「なるほど。鉄の扉で封鎖してあるのね」


 まるで城門を思わせるような巨大な両開きの扉。ゴーレム相手にはたしかにこれぐらい重厚なものでないと防げない。


 ラーンとセレーナも扉を見上げて言う。


「重そうですね……」

「エリシアがいれば一人で開けられたかもしれないが、これは皆で開けないと厳しそうだな」


 その言葉に「一人?」と首を傾げるリーシャ。


 リーシャたちでも一人でこの扉を開けるのは難しいらしい。


 ラーンは俺に顔を向けて訊ねる。


「アレク様、作戦は決まっていますか?」

「ここのゴーレムの体はルクナイトでできていて、目を潰す光を放ってくる……つまり、聖魔法を使ってくるってことだ。まあ、聖魔法で俺たちを傷つけることはできないから、近づかない限り危険性は低い」


 しかし、と俺は続ける。


「ゴーレムを手っ取り早く倒すには、魔核の掌握が必要。しかし、この魔鉱石の坑道の中で、魔核が発する魔力の反応もつかみにくいし、龍の眼の力も使いにくい」

「かといって、アルスのときのように肉眼で捉えるにしても」


 セレーナの言葉に俺は頷く。


「彼らの聖魔法の眩しさでそれも厳しいな」


 そんな中、リーシャが後ろから不安そうな顔をしながら言う。


「魔法云々は分からないけど、やっぱやめたほうがいいんじゃ……私たちは扉を開いて、これで倒していたんだ」


 リーシャが目を向けたのは、壁際にあった大きな筒だった。車輪を付けた筒……火薬を用いて鉄球を放つ大砲だ。


「すぐ撃ってすぐに扉を閉じる……正直、倒せているかも分からないんだ」

「なるほどな」


 威力は十分。しかし当たっていなければ無意味だ。


 ユーリは思い出すように言う。


「あれ……なんかアレク様でも結構厄介な相手じゃないですか?」

「あんだけ自信満々な感じで言ってたのに、今気づく?」


 リーシャは少し呆れるような顔で答えた。


「だって、アレク様にできないことってほとんどないから」

「そんなことはないぞ……それに厄介な相手というのは事実だ。今のままならな」


 俺はそう言うとリーシャに顔を向ける。


「リーシャ。例えばだが、光から目を守る道具があったらどうだ」

「光から目を守る……目を覆うということですか? でもそれじゃあ」

「ああ。太陽は眩しすぎて直接見れないが、建物のステンドグラス越しならなんとか見れる」

「あっ! 眼鏡のガラスをそういうガラスに変えるわけですね!」

「そういうことだ」


 俺が言うとリーシャたちはおおと声を上げる。


「ガラスの材料あったよな?」

「溶かせばすぐに作れる。黒っぽくしよう」


 リーシャと魔族たちはそう言うとすぐに動き始めた。


 それから十分もしないうちに、リーシャたちは色付きガラスの眼鏡を用意してくれた。眼鏡というよりは、鍛冶で灰から目を守るために使うゴーグルだ。


 俺はそのゴーグルを受け取り、顔につけてみる。視界が一気に黒くなる。だが何かがぼやけて見えるわけではなく、輪郭などは鮮明に見て取れた。


 そんな黒い視界の中、リーシャが不安げな表情でこちらを覗き込んでくる。


「どう、かな?」

「おお、ぴったりだ。それに」


 手から聖魔法の光を浮かべ、自分の目に向けてみる。


「おお。まったく眩しくない」

「よかった!」


 リーシャは満足そうな顔で言った。


 魔族たちは、ユーリたちにもゴーグルを渡していく。


 ユーリはそれをつけて感想を述べた。


「うんうん、私の弟子ながらいい出来ね。鍛冶のほうも衰えてないようで安心したわ」

「はいはい、私よりも数か月金槌を握るのが早かったご師匠様」


 リーシャは少し皮肉っぽく言った。ユーリよりリーシャのほうが少し年下のようだ。


 しかし、ほんの十分でこれを作り上げるとは。しかも俺たちの頭の大きさを測ったわけでもないのに、ぴったりのゴーグルを作った。さすがユーリの仲間たちだ。


 ともかく、このゴーグルがあれば聖魔法の光は防げるはずだ。


「よし。ともかく、一度これで光を見てみよう。扉を開いてくれ」

「わ、分かった。だけど眩しかったら言って。すぐ閉めるから」

「ああ」


 リーシャの声に俺は頷いた。


 そうしてリーシャと大柄な魔族が鉄扉の取っ手を掴んだ。二人は頷き合うと、そのまま鉄の扉を内側へ開く。


 ──いた。


 扉が開かれるなり、赤い光を頭に宿した白い岩の巨人たちが目に映る。ルクナイトのゴーレムだ。


 ゴーレムたちはこちらに顔を向けると、一斉に白い光を放ってきた。


 しかしゴーグルはその光を軽減した。光が体を包むが、痛みは感じない。


 これなら安心して反撃できる。俺はゴーレムの魔核を探した。白い光の中に浮かぶ赤い光……あれがゴーレムの魔核だ。


 俺は白い光を避けるように、闇の魔力を魔核に向ける。そして闇の魔力で魔核を包むと、すぐにがしゃがしゃと岩が落ちる音が響いた。


 うまくいった。俺は同じように他のゴーレムの魔核も掌握していく。一体、二体とゴーレムは崩れていった。


 ゴーレムたちは俺に聖魔法が通じないと分かったのか、聖魔法を撃つのをやめてルクナイト鉱石を投げつけてくる。


「アレク様、あれはお任せを!!」


 セレーナは剣を抜くと、剣を振って火炎を岩に放った。岩は爆散し、こちらには全く届かない。


「さすがだ、セレーナ! ……うん?」


 ゴーレムの反応は早かった。聖魔法も岩もダメなら、直接腕で潰すしかない。ゴーレムたちは坑道を揺らすような足音を立て迫ってくる。


「ち、近づいてくる!?」


 リーシャは慌てるように言った。


 しかし、俺としてはむしろ好都合。狙いやすい。


 近くなってくる赤い光へ闇の魔力を次々と向けた。


 やがて動く者は見えなくなった。魔核と岩が散乱し、あたりは静寂に包まれる。


 俺はさらに進んで他にゴーレムがいないか確認するが、もうゴーレムは出てこなかった。


「さっきので全部だったみたいだな」


 俺はそう言ってゴーグルを外した。


 リーシャは驚くような顔で言う。


「……な、何が起きたの? 特に魔法を撃っているようには見えなかったけど」

「魔核を闇の魔力で包んだんだ」

「闇の魔力で包む……闇の魔法を使うって話は本当だったんだね」


 リーシャはそう言ってユーリに顔を向けた。


 しかしユーリは指を振る。


「こんなもんじゃないわよ、アレク様の魔法は。瞬間移動に異空間の倉庫に、信じられない魔法ばっかりなんだから」

「信じられないけど、本当なんだろうね……」

「しかも、アレク様の魔法を宿した魔導具もある。いろいろなものが作れて、毎日楽しいよ」


 ユーリはそう言うと、リーシャは目を輝かせた。


「それは楽しみね。ゴーレムもいなくなったから、あと数日もあればここの仕事も終わらせられる! 皆、もう一息よ!」


 リーシャが呼びかけると、魔族たちはおうと声を上げた。


 それからリーシャたちは、たった三日で坑道の整備を終わらせた。

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