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164話 秘密の鉱山

 俺たちはマルシスで行方不明となった青髪族を捜索することにした。


 鉱山について公開されている情報はない。マルシスの街の者も、ほとんど知らないようだった。


 当然と言えば当然か。金のなる木の所在を公にする者はいない。


 それでも、完全に秘匿することはできない。毎週、マルシスで魔鉱石を売っているのだから、鉱山と行き来する者は必ずいるはずだ。


 しかし、秘密を漏らせば総督からどう処分されるか分からない。その者たちが口を開くことはないだろう。


 ただ、総督自体は街の者たちから評価されているようで、悪い噂は聞かなかった。


 総督はウテリアという老年の男。この地の総督となって四十年、天災などがあっても上手く対処してきた。政策も私生活も派手さはないが、公正な人物だったという。


 聞いた限りでは、魔鉱石を独占しそうな欲深い男には思えなかった。


 ともかく、街の人間からこれ以上を得るのは難しかった。総督邸を調べることも考えたが、まずはティアたち鼠人の情報を待った。


 鼠人たちはマルシスの鼠に、青髪族と鉱山について聞き込みをおこなった。食料と見返りに、マルシスの鼠はなんでも答えてくれたようだ。


 それによれば、青髪族はマルシスのすぐ北にあるレジョンという村に向かったそうだ。村には露天掘りの大きな採石場があり、主に石材をマルシスに供給していたのだという。


 採石していたら、たまたま魔鉱石が見つかった、というところだろうか。マルシアでは昔、魔鉱石が採れた。未発見の魔鉱石の鉱脈があってもおかしくない。


 ともかく、青髪族の安否を確認すべく、俺たちはそのレジョンへ向かった。


 ラーンと龍人に乗せてもらい、再び空へ。マルシスから街道に沿って北上していく。


 セレーナは龍人の上でティアを撫でながら言う。


「やるじゃないか、ティア。二時間もかけずに所在を洗い出すとは!」


「チュー! こんなの朝飯前っす!」


 ティアは撫でられて気持ちよさそうにしている。


 最初は頼りなかった鼠人たちだが、戦闘に諜報にあらゆる場面で活躍してくれている。今では俺たちの眷属の中核戦力と言って差し支えない。


 何より、皆見た目が可愛いので和む。鳴き声は少々うるさいが。


 ティアは俺に向かって言う。


「あ、そうだ、アレク様。マルシスで三十名ほど勧誘してきたっす。他にも仲間を集めてくれるみたいっす! 食事を保証してくれるなら、アレク様の仲間になってもいいって言ってるっす!」


 ありがたいが、食料のこともある。


 しかし俺の心配を察したのか、ユーリが答える。


「食料のことなら全然大丈夫です! 獲れる魚が多すぎて、塩に漬けたり干して保存食を作ってるぐらいですから」

「一日の漁獲量も抑えているぐらいですからね……その気になれば、今の倍の魚を獲ってこれます」


 ラーンもそう言ってくれた。


 セレーナもティアを撫でながら言う。


「大陸側には広大な土地が広がっている。畑を作れば、食料も本当に心配はいらないでしょう」


 それに加えて今はそれなりの資金がある。もし不足するようなことがあっても、購入すればいいだけだ。


「そうだな。ティア。今はともかく仲間を増やしていこう。ユーリたちの仲間も必ずアルスに連れていく」


 俺の言葉に、皆が頷いた。


 そんな中、俺たちの眼下に特徴的な村が見えてきた。


 山を背にした小さな村。低いながらも堅牢な石の防壁が、百戸ほどの石造の民家を囲んでいた。


 村と山の間には、無数のクレーンが置かれ、壁面が階段状になっている巨大な穴──採石場があった。


「巨大な石切り場……あれがレジョンで間違いないな」

「まるで要塞、ですね」


 ユーリの言う通り、村は要塞のようだった。


 村の規模に似合わない防壁は、石材が特産であることを考えれば何もおかしくない。しかし、門や壁を守る衛兵の数が多すぎる。見えるだけで百名以上はいるだろうか。何者かの襲撃に備えているかのように重武装している。


 一方で、村の周辺の牧草地や街道は平穏そのもの。賊や魔物が襲ってくるような気配はない。明らかに過剰な防備だった。


 ラーンは減速すると横顔を見せ、苦笑いを浮かべる。


「大事なものがあると自ら言っているようなものですね……」

「ああ。魔鉱石の鉱床を守っているんだろう」


 ユーリは不安そうな顔でレジョンを眺めている。


「あそこに皆が……」

「間が悪いだけかもしれないが、姿は見えないな」


 サイクロプスの魔族は体が大きく目立つ。しかし、村には衛兵たちの姿しかなかった。


「うん? 村人もいないのか」


 俺が言うと、ラーンも首を傾げる。


「まだ昼間。誰もいないのはおかしいですね」

「魔鉱石が見つかったことで、村人は立ち退いたのかもな」


 そして、魔鉱石を掘るのは採掘に長けたユーリの仲間にやらせることにした、か。


 大金を払って雇ったのか、それとも──


「ともかく下りて鉱山の入り口を探してみよう。きっと採石場のどこかにあるはずだ」


 衛兵は多く、城門は固く閉ざされているが、たいした問題はない。姿を隠したまま、俺たちは直接採石場へ【転移】する。


 俺はラーンから降りて、採石場を確認する。


 衛兵の姿が数名見えるが、村人や魔族は見えない。


 しかし採石場の底の隅に、木箱や樽、採掘道具が山積みになっている場所があった。


「あそこに物資を集めているみたいだな」

「となると、入り口も底にあるわけですね! む、だいぶ深くて見えにくいな……」


 セレーナは目を凝らして採石場を確認するが、俺は見つけた。入り口だけじゃなく、魔力が満ちている場所を。


 龍眼の力で透視できないほどの魔力の場所……魔鉱石の魔力が邪魔しているのだろう。


「……魔鉱石の鉱床を見つけた。皆で降りよう」


 俺はそう言って、採石場の底へ《転移》する。魔力の反応があった場所だ。


 一気に周囲が暗くなった。思わず空を見上げると、空が遠く感じる。相当な深さだ。ここまで掘って、魔鉱石の鉱床を掘り当てたのだろう。


 本来であれば村人の財産になって、村は大いに潤っていたはずだが……


 総督はここを独占することにしたのだろう。


 まあ、実質ティアルスの魔鉱石を独占している俺たちがどうこう言うのもおかしいわけだが。


「あ。入り口はあそこのようですね」


 ラーンはそう言って、石の壁に空いた横穴を指さした。


 穴の向こうは、馬車が通れそうな幅の広い坑道だった。高さも人の背の倍はある。


 人が使うには少し大きすぎる坑道。あまりに大きいと崩落の危険性も高まるはずだが、サイクロプスの魔族が使いやすいようにしたのだろう。


 セレーナは周囲を見て言う。


「上層は衛兵がいたが、この奥底には衛兵はいないようだな。入り口を見張ってなくて大丈夫なのだろうか?」

「逃げるにしても、上がっていかなきゃいけないしね。それに私たちのもとの姿ってすごい目立つし」


 ユーリはそう言って、周囲の荷を確認する。そこには食料が詰められた箱や、水が満たされた樽があった。


「少なくとも食事はとれているみたいね。これは余裕だわ。皆、ぴんぴんしてるはず」


 ふうと息を吐くユーリ。


 ユーリたちは、食物も水もない環境で働いたことがあったんだろうな……


 ラーンが言う。


「とりあえず、中に入ってみますか? この広さなら、もし中に衛兵がいても避けられます」

「ああ。そうだな。これだけ魔力が満ちていると《転移》は使えそうもないが」


 俺が言うと、セレーナが胸を叩いて言う。


「ご心配なく! 私がアレク様をお守りします! エリシアよりも強いということを、ここで証明します!」

「戦うって決まったわけじゃないでしょ……あと、でっかい爆発起こして崩落なんてやめてよ」


 ユーリは呆れるような顔で言った。


 そうして俺たちは、レジョンの魔鉱床へと入った。

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