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162話 因果の島

 ヴィルタスと別れた俺たちは、少しだけ彼の後を追跡していた。


 そこで目にしたのは、リュセル伯爵とヴィルタスが短く言葉を交わす光景だった。


 もちろん耳を立てた。一字一句聞き逃すまいと、息を殺して耳を澄ます。


 結果、二人の会話は大したものではなかった。俺も知っているルイベルのミレス行きの話。リュセル伯爵が宮殿を離れて、貴族以外からも護衛を募っていることも諜報部より聞いていた。


 リュセル伯爵の評判や人柄を考えれば、身分や種族を問わないというのも自然な発想だ。ヴィルタスの言う通り、理に適っているし、特に問題があるようには思えなかった。


 驚かされたのは──ヴィルタスが口にした言葉だ。


 メーレが口を開く。


「あの感じ、間違いなくお兄さんも……」

「俺たちのせいで、帝都の魔族への支援はヴィルタスの出る幕がなくなってしまった……だからミレスの魔法を学んで、自分を鍛えるつもりだろう」


 ヴィルタスはラグルの店に戻り、ホーリーシャドウの顔を優しく撫でていた。少し距離があり詳しくは聞き取れなかったが、「お前も来い」と言っているようにも聞こえた。


 エリシアが不安げに言う。


「やはり、いずれ鼠の王──私たちと戦うつもりでしょうか……?」

「間違いなく、立ちはだかることになりそうだな」


 リュセル伯爵との会話の前から、覚悟はしていた。


 俺は、自分に言い聞かせるように口にする。


「そもそも戦いにならないよう、俺もヴィルタス以上の魔法の使い手になる必要がある」

「アレク様なら、できます」

「ありがとう、エリシア。だが自力では限界もある」


 メーレが訊ねてくる。


「となると、アレクもミレスに?」

「もともとリュセル伯爵の監視のために、なるべく向こうで過ごそうとは思っていたからな。それに……俺は基本的にミレスにいることになっている」


 何故か皇子アレクがミレスにいないとなれば、誰かに不自然に思われるかもしれない。それでリュセル伯爵が尻尾を出してくれるならいいが……


「帝国から逃げるためにミレスに入学したのに、こんなことになるなんて……」


 ルイベルもヴィルタスも、そしてリュセル伯爵までもがミレスに来ることになってしまった。これも、やり直し後の俺の行動の結果ではあるのだが。


 エリシアは苦笑いを浮かべる。


「心中お察しいたします……ですが、ミレスの拠点も諜報網も、すでに完璧と言っていいほど整備されています。帝国ほど広くはありませんし、むしろ皆の監視には好都合でしょう」

「確かにな」


 メーレが頷く。


「準備は万全すぎるくらいだもんね。むしろ早く、ミレスに来てほしいくらいかも」

「そうだが……こっちも今のうちに他にもできることはやっておきたい」

「他にも?」

「帝都の外──帝国全土や諸外国にも、拠点や諜報網を少しずつ築いておきたいんだ」


 エリシアが即答する。


「それでしたら、ティカとネイトが中心となって、今後の計画をすでに策定しています。その際に必要な転移柱や魔道具の備蓄も、ユーリたちが準備を進めています。アレク様のご命令があれば、いつでも実行可能です」

「そ、そうか……」


 鼠の王とティアルスに関することは、本当に俺が何もせずとも、皆がうまくやってくれるようになっていた。こうして何か思いついても、エリシアたちにとっては想定内のことが多い。


「だが、皆の負担が増えることになる。俺も、自分で動こう」

「それはもちろん構いませんが、新たな眷属も大量に増えておりますし、基本は我らにお任せください」


 エリシアが言うと、メーレはうんうんと頷いた。


「特に鼠人が多くなりすぎて、ティアルスに仕事はほとんど残っていない感じだからね」


 最近では、毎日のように鼠人が帝都やミレスから仲間を連れてきていた。俺はそれを眷属として迎え入れ──もう数えてはいないが、最低でも一万を超える鼠人が俺の配下になっている。


 帝都の外に拠点を持つとなれば、そこにも当然鼠はいるだろう。そして、そこで俺の眷属となってくれる鼠は、千では済まないはずだ。


 俺は名実ともに、鼠の王になりつつあるのかもしれない……


 今後の食費、というレベルなのかは分からないが、皆を養う金はますます必要になるだろう。少し不安だ。


 だが鼠人たちは有能。狭い道や地下深くを捜索でき、高い場所の移動も難なくこなす。たくさんいてくれれば、それはそれで頼りになる。


「本当に、心強いな……だが、拠点づくりだけじゃなく他のことも調べたい」


 ──もう一つ、ミレスに行く前にやっておきたいこと。


 それは、ユリスの安否の確認だ。


 メーレが訊ねてくる。


「何を調べるの?」

「ユリスのことだ」

「ああ、婚約者の子ね。あれだけ愛されていたら、それは気になるよね。正直引くぐらい、アレクのこと熱愛していたもん……」

「あれは、俺の知らない記憶だったって言っただろ……」


 俺たちは宮殿の地下で、ユリスの拠点を見つけ、彼女の目的を知った。


 ユリスは悪魔に近しい存在である邪竜討伐に勤しんでいる。そして、俺の知らない俺との記憶を持ち、邪竜の出現場所を知っていた。


「正直、話すのは怖い……でも、“その日”を乗り越えるためには、ユリスと話し合う必要がある」

「今のところ、一番仲間になってくれそうだもんね」

「ああ、間違いなく」


 それにユリスの従者アリュシアのことも気になる。アリュシアはエリシアとエルブレスの家族かもしれないのだ。


 エルブレスに、アリュシアが帝都の地下にいるかもしれないと話すと、すぐにでも会いに行きたいと言っていた。だが、ユリスや組織のこともあるので、少し待ってくれと伝えた。


 アリュシアは母レシアが悪魔化したと言っていた。エルブレスもまたレシアが悪魔化したと言っていた。レシアを取り戻すことができれば、拝夜教団について知ることもできるかもしれない。何より、レシアがエリシアの本当の母なら、エリシアのためにも会わせてやりたい。


 まずはユリスと話し、そこからアリュシアについても聞けるといいのだが。ユリスは世界各地を巡っているようなので、いつ会えるかは分からないが。


「ともかく、帝都の外に拠点を築きつつ、ユリスと接触できないか探ろう。それとユーリが呼んでいた青髪族も近くに来ているはずだし、迎えに行きたい」

「承知いたしました!」


 俺たちは、ミレスに行く前にやれることをやることにした。

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