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150話 檻の主

 ルスタフは、和平の使者を送ってきた。


 その内容は、向こうの降伏とも言えるものだった。街と武器を引き渡し、自分たちは島の隅へと撤退するという内容だった。


 また、使者は和平の方法まで伝えてきた。

 まず第十三軍団はすべての武装を解除し、丸腰のまま山頂へ向かう。その間に、俺たちが第十三軍団の武装を接収するというものだった。


 また、抵抗しない意思を証明するために光を発する装置を破壊するとも伝えてきた。その言葉通り、第十三軍団は光の装置の破壊を始めている。そのために空がどんどんと暗くなっていた。


 すでに三方を囲まれ、本隊はやってこない。その上、武器がなければさすがに彼らも抵抗はできない……普通なら、そう考えるだろう。


 しかし俺もエリシアもエルブレスも、到底そうは考えられなかった。


 エルブレスは城壁から第十三軍団の戦列を見て苛立つように言う。


「何を考えてやがる……」

「彼らに変わった動きは見られない。何かしら兵器のようなものがあるわけでもない……皆、微動だにせず整列しています」


 エリシアは望遠鏡を覗きながら言った。


 エルブレスが言う。


「このまま攻撃しよう……!」

「だが、相手は非戦の意思を示している」


 俺が言うと、エルブレスは顔を曇らせる。


「普通の相手なら俺だって和平を受け入れている……だが、あいつは違う。降伏なんてする男じゃねえ」


 俺もその言葉が正しいとは思う。


 しかし和平をしたいと言って攻撃しない者をこちらから攻撃するのは気が引けた。


 こちらの圧倒的な戦力を前にして、本当に戦意を喪失した可能性も完全には捨てきれない。


「分かった……俺がやつらの真意を探ってくる」

「やめておけ。どう考えても、あいつはとんでもねえことを企んでやがる。お前でもなんとかできるかどうか」

「やつらも光の装置を破壊しているし、俺は闇魔法を使える。洞窟にいた仲間も集まってくれた。何の心配もない。むしろ心配なのは──」


 俺は第十三軍団のほうに顔を向ける。


「このままこちらが回答を考えているうちに時間が過ぎていくことだ。何か考えているとしたら、それはすぐに実行できないものの可能性がある」

「つまり、さっきの至聖教団も時間稼ぎに使ったにすぎないってことか」

「もう、手遅れの可能性もあるが……ともかく、こちらから仕掛ける。ルスタフも俺が最も脅威だとは認識しているはずだ。ゆさぶりをかけられる」

「だが、それならやっぱり皆でぶっ潰したほうが……いや、こうして言い争っている時間が無駄か」

「ああ。それに皆で攻撃すれば、あいつらも必死に抵抗してくる。結構な被害が出るだろう……だから俺に行かせてくれ」

「分かった。だが、俺もついていく。それでいいな」


 俺はエルブレスに頷いた。


 そうして俺たちは、降伏の申し出の回答という体で、ルスタフと会うことになった。


 まず最初に使者を帰らせた。それから龍人たちに頼んで俺がルスタフと会うことをマーレアス号やセレーナたちに伝えてもらう。


 そうして俺は、エリシア、ラーン、エルブレスと共に第十三軍団の陣の近くへ《転移》した。


 すでに光の装置は全て破壊されたため、かがり火を掲げて進む。


 第十三軍団も松明で灯をつけているため、とくに道に迷うことはない。


 そうして歩いているとやがて第十三軍団のほうからいくつかの灯がやってくるのが見えた。


 魔力の形は人間。魔力の量も、特別多いというわけではない。


 しかし誰が来たかは自ずと分かった。


 最初に声を上げたのはエルブレスだ。


「ルスタフだな! さっさと来い!」

「そう急かすな、エルブレス。今行く!」


 ルスタフはそう答えてこちらにやってくる。


 特別ゆっくりというわけではないが、もどかしさを感じる歩きだった。


 俺たちもルスタフのほうへ歩いていくと、暗闇の中からルスタフと護衛たちの顔が現れた。


 ルスタフは俺たちを見るなり、参ったような顔で近づいてきた。


「いやいや、いやいや、まさかそんなに強いとは思わなかったぞ、少年。俺たちの負けだ」

「和平なんて嘘だろ? さっさと何を考えているか吐きやがれ!!」


 エルブレスはそう言ってルスタフの胸ぐらを掴んだ。


 副官や兵士が剣を抜こうとするが、ルスタフは落ち着いた様子で言う。


「いい、やめろ。エルブレスも落ち着け」

「俺は落ち着いている! 落ち着いているから、さっさとお前をやりてえんだ!」

「お前はなにか勘違いしているぞ、エルブレス。俺たちは本当に戦うつもりはない」

「信じられると思うか?」


 エルブレスは今にもルスタフを絞め殺してしまいそうな気迫だった。


 だがルスタフは冷静な口調で答える。


「俺たちはここを出ていきたいんだ。生き永らえることが優先だ。例え丸腰になってでもな。勝てない相手を見て降参することのどこがおかしい? エルブレスも、そこの少年の力を見たなら分かるだろう? とても敵う相手ではない」

「それは……」

「俺たちは、ここから出るのに協力しようと言っているわけでもない。ただもう、これ以上は戦わないと言っているだけだ。島を出るにしても、また独自に考える。エルブレス、お前との因縁は根深いものがあるが、どうか冷静に判断してくれ」


 しかしエルブレスはルスタフから手を放そうとはしない。


 俺も手を放せとは言えなかった。話したところで、ルスタフの本音は聞けないだろう。


 だから俺は条件を伝える。


「先ほどの方法での和平は受け入れてもいい。だがそれに加えて、ルスタフ。お前は人質としてきてもらう」

「あいつらは俺がいないと生きていけない。それだけは勘弁してくれないか?」

「無理だ」


 俺が答えるとルスタフはぎゅっと悔しそうに唇を噛む。だが少しして小さく頷いた。


「分かった……だが、今生の別れになるかもしれない。少し時間をくれないか?」

「悪いが、それも無理だ。俺たちは、お前が時間を稼いでいると考えている」

「何のために? 俺たちは主力と分断され、頼りの装置ももうない」

「……悪魔を捕らえた後のことも考えていたんだろう? あの装置は、悪魔を捕まえることしかできないはずだ。他に何か隠しているはずだ」

「そんなものはない……殴って聞かせるつもりだった」

「無理だ。それに仮に悪魔を従わせたとして、悪魔は出られてもお前たちは出られなかったはず。別の何かが必要のはずだ」


 ルスタフは小さく笑う。


「ふっ。さすがに闇魔法を使うだけある。ここから出る方法も分かっているわけか」

「できるかは別として、だいたいの見当はついている。お前も分かっているんだろう?」

「ああ。前も言っただろ? お前は生け捕りにすると」

「俺を?」

「悪魔でなくても、闇魔法でもいけるはずだ……最後にもう一度聞くが、協力しないか? 共に出してやる」

「お前たちが争いをやめると約束するならいいだろう。俺の暮らす場所は、世間とは隔絶された場所にある。そこで静かに暮らすというなら」


 エルブレスは本気かよと言うが、本当にルスタフたちが改心するのであればもちろん受け入れるつもりだ。


 しかしルスタフは嘘でも頷くことはなかった。

 代わりに神妙な顔で答える。


「静かに暮らすか……さっきも言ったが、それは俺たちの夢だ。だがな、俺たちが求めているその場所は、永遠に静かな場所なんだ。一時の平和など、俺たちは欲しくない」


 エルブレスはこちらを真っすぐ見て続ける。


「だから断る。俺たちは全てを支配し、永久の安寧を手に入れる」

「そうかい。なら、お前はここで──っ!?」


 エルブレスがルスタフを殴ろうとすると、島がにわかに揺れ始めた。


「な、なんだ!? 何をした!?」


 エルブレスはルスタフに顔を近づけ問い詰めた。


「我々は何もしていない。ただ、この島が勝手に揺れているだけだ」

「とぼけるな!!」

「まあ、見ていろエルブレス。最早、檻の錠は落ちている。誰も止められん」


 そう言ってルスタフは島の山頂へと顔を向けた。


 ルスタフは全く動じることも恐れる様子もない。今ここで殺したところで、この揺れはもう収まらないだろう。


 そんな俺を見て、ルスタフが口を開く。


「少年。この嵐がどうして存在するか見当がつくか?」

「いや、考える暇もなかった」

「そうか。我々は何百年も考えた。何故、こんな嵐が存在し、こんな島があったのか。自然に発生したものなのか、誰かがつくったものなのか。そうしてここを彷徨って探索している内に、一つの結論に至った」

「結論?」

「この嵐と島は、いわば監獄だ。特別に作られた監獄。もちろん俺たち人間やオークなんてちっぽけな存在のためのじゃない──あれを捕らえるための」


 ルスタフがそう言うと、山頂が爆発し大噴火を起こす。


 そしてその噴火と共に、空高く影と炎が飛び出してきた。


 その影は噴火を背に、炎と影でできた巨大な翼を広げた。


 それを見たエルブレスは驚愕するような顔で呟く。


「──フェニックス」


 エルブレスは、影と炎を纏った鳥をそう呼ぶのだった。

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