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144話 待ってはくれない

 俺たちはエルブレスとオークの一団と手を組んだ。


 まず、洞窟を塞いでいる岩を除き外への道を確保する。エリシアもエルブレスも力持ちということもあって、すぐに岩は除かれた。


 それからエルブレスは大空洞にオークたちを集め、俺たちと協力関係を結んだと話してくれた。エルブレスは、このオークの一団の長だったようだ。


 話の途中、不満そうにこちらを見るオークもいた。急に現れた人間を信用するなんて普通はできない。しかし彼らも八方塞がりのようで、結局誰も異議を唱えなかった。


 俺たちがこの島に来る直前、彼らの仲間は浜の集落近くで探索を行っていたようだ。物資が流れ着いていないか、ほとんど毎日確認するのだという。しかし第十三軍団に捕らえられたため、オークたちは奪還のため街を攻撃した。


 別に、今日だけでのことではなく、もう十回以上もこのようなことは起きているという。オークたちはいつも敗北し、結局誰も取り返せないまま終わっていた。


 仲間の数もだいぶ減り、すでに最初迷い込んだ時の三分の一の仲間が、ルスタフの捕虜となったという。残ったのは五百名ほどという話だ。


 しかし、これだけいて人間の言葉を喋れるのがエルブレスだけとは。エルブレスはレシアから人間の言葉を学んだのだろうか。


 人と魔物がどう打ち解けたか……二人の過去に興味はあるが、今はやることをやらねばらない。


 それから俺は一度船に戻り、ラーンたちに何があったかを説明する。そしてモノアを伴い、オークの拠点へと帰還した。


 モノアは元魔王国の者。魔物が仲間と知れば、警戒するオークたちも安心してくれるのではと考えた。


 エルブレスとモノアは会うなり、魔物の言葉で話し込み始めた。特に俺やアルスについて秘密にするようには伝えていない。


 やがてエルブレスはこちらに顔を向ける。


「あんたがすごいってのはよくわかった。魔物や魔族にも分け隔てなく接しているてのもな」

「信用してくれるならありがたい」

「そりゃ、魔王から真っ向から立ち向かったリンドブルムのモーゼル族の姫が言うんだ。信じるしかねえ」


 モノアはもともと一族でも高位の者だったようだ。そしてモーゼル族は名が知れていたらしい。そういった部族の高位の者だからこそ、魔王は見せしめに帝都へ送りつけたのかもしれない。


 一方で俺も気になっていたことを訊ねる。


「エルブレスたちも、魔王に反逆したのか?」

「まあ、な。どうにも今の魔王はきな臭ぇことばかりやっている。大きな戦いが起こる前に、新天地を目指そうとしたわけだ。そして俺は……そこにあいつらも連れていきたかった」

「家族をか」

「ああ。二人とも、人間の国にいるのは間違いないと思った。実際、あんたたちの話でアリュシアが帝国にいることは判明した。レシアもきっと、どこかにいるはずだ」


 レシアが悪魔なら、拝夜教団と組んでいる可能性はある。そうなれば確かに人の国で活動しているだろう。


「なるほど。新天地というのは?」

「北の大陸でも人間の手が及ばない地域があるって聞いた。野生の魔物が溢れて人が近寄らない魔境があるってな。そこらへんで静かに暮らす算段だったわけさ」


 そう話すとモノアが俺のほうに顔を向ける。

 何が言いたいのかは分かる。俺も歓迎したいことだ。


「エルブレス……気が早いが、俺たちの住む場所は、その魔境にある。モノアたちもそうだが、魔物も住んでいる。お前たちが気に入ってくれるなら、一緒に住まないか?」

「ありがてえ提案だが、仲間たちと決めなきゃいけないことでもある。少し考えさせてくれ」


 俺はその言葉に頷いた。


 それよりもとエルブレスが続ける。


「何よりもまず、仲間を助けてこの暗闇を出ないことには始まらねえ。手立てはあるか?」

「仲間を助けるのはどうにかなりそうだが……」

「ずいぶん、簡単に言うな……まあ、たしかにこの闇から出るよりは容易か」

「ああ。この闇から出る確かな方法はまだない。この暗闇の全体を把握して魔力で包めれば、俺が出せる。しかしそれだけの魔力を集めることは難しい。どれだけ、この暗闇が広がっているかも分からないしな」

「ってことは、現状はあんたたちも成す術がないってことかい」

「そう、なるな……協力を要請しておいて悪いが」


 俺が言うとエルブレスは首を横に振った。


「無理もねえよ。手法だけ考えつくだけでもたいしたもんだ。だが、それはさっきのルスタフも同じで、手立てだけは分かっているようだった」

「本当か?」

「ああ。どうするのかってのは分からねえが、兵士たちが時が来れば必ず出られると言っているのを聞いた。もともと狂った奴らだが、何かしら希望があるからやれてるんだろう」

「なるほどな。となればまず」


 俺が言うとエルブレスが頷く。


「ルスタフをとっ捕まえて吐かせるしかねえ。それに、仲間も救わねえと」

「あの街を落とすわけだな」

「ああ……自分でも馬鹿なことを言っているとは思うがな。あの男相手に生け捕りなんてよ」


 エルブレスが不安そうな顔で呟くとエリシアが言う。


「びびっているんですか?」

「ち、違え! ただあいつは別格なんだ! お前もやつとやれば分かる!」


 しかしとセレーナが言う。


「アレク様ほどの魔法は使えない。そこまで難しい相手ではなさそうに思えるが」

「坊主の魔法の強さは分からねえが、たしかにあいつは魔法は使えねえ。だが、ここに迷い込んだ連中から奪った魔導具がある」


 魔王国の魔導具技術は侮れない。地下闘技場の召喚装置など、闇魔法を使った技術もある。


 セレーナは腕を組んで言う。


「その魔導具を使ってくる、ということか。確かに油断ならないな」

「そうですね。それにルスタフ個人の攻略も問題ですが、街にお仲間がいるというのも忘れてはいけません」


 エリシアの言う通り、街に囚われている者たちも解放しなければいけない。それが一番難しい問題かもしれない。


「街の者が一か所に集まっていれば、俺が《転移》で離れた場所に逃がせばいい。だが、ルスタフたちに気付かれる前に集めるのは……」

「敵もエルブレスさんが突然消えたのを目にしている。街の警備も厳重にしていることでしょう」


 エリシアが言うとエルブレスは意外そうな顔をした。


「お前たち……まさか、街に捕まっているやつら、全員を助けようと思っていたのか?」

「やるからには、誰にも被害を出さずに終わりたい」


 俺の返事を聞いてエルブレスははっと笑う。


「立派なもんだがそれは無理ってもんだ。俺たちだってさっき攻め込んだのは、本当に取り返すというよりは自分たちの怒りを鎮めるためだ……皆を皆、全員救出するなんてのは」

「先ほどから随分と弱気ですね。どこにいるかも分からない妻を探そうとしているのに」


 そう話すエリシアをエルブレスが睨む。


「……おめえ、さっきから何なんだよ? 突っかかってきやがって」

「別に。ただ、見た目の割に小心者だなと」

「……ちっ。あいつと顔が似てなきゃ殴り合っているところだ……いや、あいつもいつも……ああ、くそ」


 エルブレスは首を横に振って言う。


「そりゃ、俺だって全員救いたい。だが、現実的に難しいだろ?」

「そうだな。だが、全員を助けられる作戦を考えるべきだ」

「俺も考えてみるけどよ……うん?」


 エルブレスは坑道のほうへ顔を向ける。

 そこから焦るような声が響いてきた。


 その声を聞いて、エルブレスは顔を青ざめさせる。


「……何だと?」


 エリシアがすかさず問う。


「何かあったのですか?」

「やつら、街から大軍を出してきたらしい。こっちの洞窟のほうに向かって、照明をつけながら進軍している。俺たちの拠点を探しているようだ……」

「つまり、向こうから打って出てきたと……」


 エルブレスが突然消えたことに異変を感じ、自ら打って出てきたか。

 色々準備して作戦を練る時間はなさそうだ。


 エルブレスは額から汗を浮かべて言う。


「他にも拠点はある……だが、逃げている最中に追い付かれるかもしれない。物資もほとんど置き去りにするしかないだろう」


 そんな中、セレーナが落ち着いた表情で訊ねた。


「エルブレス殿。打って出てきた兵は、第十三軍団の全兵力の何割ぐらいかは判別できるか?」

「あいつの話だと、少なくとも、一、二……八つの種類の旗が見えたらしい。あいつらは部隊ごとに動く。旗の種類の数からすれば、街に残っているのは、多くて二部隊のはずだ」

「となれば、今防備は手薄というわけだな」


 セレーナは自信に満ちた顔を俺に向ける。


「アレク様、むしろ好機かと。アレク様のお力があれば、逆にこちらが街を乗っ取ることもできましょう」


 セレーナは俺にそう提案するのだった。

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