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139話 征服者の島

 マーレアス号は暗闇の中、東に進む。

 やがて目の前に無数の灯りが見えてきた。


 遠くからは見えなかったが、近づくとそれなりの明るさに見える。


 そこで一旦、俺はマーレアス号を停船させた。


 ラーンが灯りを見て呟く。


「街の灯り……近くを通った者なら、まずここを目指してもいいようなものですが」

「ただ、ここを見て帰ってきた者はいない。嵐の外の世界なのか、比較的新しくできた場所か、それとも……」


 エリシアは不安そうに島を見た。


 もしあの島と街が昔からあったなら、島に足を踏み入れた者は誰も帰ってこなかったことになる。

 単に住み良い場所なのか、それとも島を出れない理由があったのか。


 メーレが言う。


「この距離なら、もう嵐の外じゃないかもね」

「ああ。嵐の中なんだろう」


 俺が言うと、セレーナは望遠鏡で灯を見て言った。


「こんな場所にまさか街があるとは……アレク様のお話によれば、旗が掲げられているということですが──うん、あれは?」


 セレーナはしばらく沈黙した。旗を見て何かに気付いたのだろう。


「セレーナは、あの旗章に見覚えがあるのか?」

「あ、あれは……いや、まさか」


 望遠鏡を離しては何度も目を擦るセレーナ。

 珍しく狼狽えた様子だ。


 エリシアはそんなセレーナの頬を指で突いて訊ねる。


「落ち着いてください。知っているのですね?」

「あ、ああ。龍を倒し剣を掲げる紋章……私の記憶が正しければ、あれは第十三軍団……消えた第十三軍団の旗章だ」

「古代の帝国の軍勢、というわけですか」


 セレーナは頷いて答える。


「そうだ。私が生まれる百年ほど前に存在した伝説の軍団だ。軍団長はルスタフ。彼は第十三軍団とともにルクシア大陸の諸部族を平定し、帝国の最大版図を築いた。次に彼が向かったのは、魔王国だったが」

「しかし、二度と帰ってこなかった、か」


 俺の言葉にセレーナは頷く。


「ただの一人も、帰ってこなかったそうです。また、魔王国に上陸したという話もなかった。その第十三軍団が、なぜここに……」


 メーレも深刻そうな顔で呟く。


「この中では飢えることもないし、老けることもない。彼らが生きていても、何もおかしくないね。私やセレーナのように」


 ラーンはそんなセレーナを見て訊ねる。


「近い時代の人間が生きているかもしれない……それなのに、嬉しくないのですね」

「ああ。私は正直、ルスタフと第十三軍団を嫌っていた。ルスタフが死んだときも、彼と軍団が消えたことを悲しむ者と喜ぶ者で二分されていたという話だ」

「伝説と謡われるほどなのに、喜ぶ者がいたのですか?」

「彼は皇帝の許可を得ず、独断で戦争を仕掛けることが多々あった。それだけではなく、彼の手法はあまりにも残虐だった。落とした街の人間を、一人残らず磔にしたこともある。人間も魔族も魔物も関係なく、自分に逆らう者は決して許さなかった」

「とても恐ろしい方だったのですね」


 セレーナは頷くと俺に顔を向けて言う。


「彼らが生きているかは分かりません。しかし、接触するならば気をつけたほうが良いかと」

「そうだな。とはいえ、島と街の様子は気になる。俺が上陸し、姿を隠しながら街を偵察してこようと思う。エリシアとセレーナは俺についてきてくれるか?」


 俺の声に二人は頷いた。


「ラーンは引き続き、船を頼む。メーレはもし俺たちに何かあれば、臨機応変に動いてほしい。モノアもそれを手助けしてくれ」

「承知しました」

「任せて」


 そうして俺は、街の東にある浜にエリシアとセレーナと共に《転移》した。


「──おお、これは、だいぶ暗いな」


 セレーナは周囲が急に暗くなったのを見て言った。


 足元は砂場となり、街の灯りが近くに見える。停船しているマーレアス号は目では見えないが、魔力の澱みが見えるので場所は判別できた。


 エリシアが訊ねる。


「私が魔法で照らしましょうか?」

「《隠形》の範囲を広げれば消せるとは思うが、魔法を察知する相手がいるかもしれない……まずは、魔力を頼りに進みたいと思う。俺が進むから、離れないでくれ」


 俺がそう言うと、エリシアとセレーナが左右から俺の両手を掴んだ。少し強めに。


「離れませんので大丈夫です!」

「……まあ、ともかく進もう」


 俺は街へとゆっくり進んでいく。


 しかしすぐに俺は足を止めた。


「魔力の反応が多い……人型の反応がたくさん見える」

「となると、やはりあの街は第十三軍団が」

「そうかもな。もう少し近づいてみる」


 俺は再び歩き出す。


 しかし後方から急速に近づく魔力の反応に気がつく。


 足を止めて振り返ると、魔力の反応だけでなく光が近づいてくるのが見えた。

 そして馬蹄の音が響いてくる。鞭を叩きつける鋭い音も聞こえてきた。


「馬車か……」


 やってきたのはランタンを吊るした四馬の馬車だった。


 馬車の正面には、鞭を振るう鎧の男がいる。


 その鎧は胴体と胸をしっかり防護しているが、脛当てや肘当ては前方だけで肌の露出も多かった。

 世界の鎧に詳しいわけではないが、今の時代の鎧でないことは確かだ。


 そして後方の荷台には、同じような鎧の男が数名乗っている。


 龍眼で詳しく確認すると、男たちは皆人間だった。皆、目を見開き、口角を不気味なほどに上げているが……確かに人間だった。


 近くを通り過ぎると、セレーナが呟く。


「間違いなく帝国軍の兵士だ……私の時代とほとんど装備が変わらない」

「ではやはり、第十三軍団というわけですか」

「ああ。どこかの誰かのように、他人に化けているとか、操っているとかでなければな」


 セレーナの言う通りだが、外見は第十三軍団の者たちで間違いなさそうだ。


 馬車が通り過ぎると、それからすぐにまた複数の馬車と騎兵がやってきた。


 その車列の中には、檻車も見えた。


「檻? なんでこんな場所に? ──あれは」


 檻の中に目を凝らすと、そこには人ならざる者たちが乗っていた。


「立派な体格、緑の肌──オークか」


 檻には手枷と足枷、轡で拘束されたオークたちがいた。


 そんな檻車が五台ほど、街へと入っていく。樽や木箱が積まれた馬車も数台続いた。


 セレーナが呟く。


「漂流したオークを捕らえた、というところか? ──うん、この音は?」


 車列が通り過ぎてしばらくすると、今度は無数の足音が響いてきた。


 やってきたのは、歩きで続く兵士たちだ。

 人数は五十名ほど。皆、盾や槍で武装している。


「酒だ酒だ!」

「戦勝祝いだ!!」


 兵士たちは沸き立っているようだった。

 皆、目を見開き、不気味な笑みを浮かべている。


 勝利……オークを倒したということか。


 そんな中、こんな言葉が聞こえてきた。


「最近は魔物が多くて大忙しだ!」

「その分、戦いも増える! たくさん殺せる!」

「戦利品も大量! たくさん奪える!」


 陽気というよりは狂気を感じさせる行進。彼らは戦いのあとにもかかわらず、戦いを求めているようだった。


 それはさておき、どうやらこの嵐に迷い込む魔物が増えているらしい。

 モノアのように、輪廻嵐の周期が早まっているのを知らない者も多かったはずだ。知らずに海に出て嵐に巻き込まれてしまった……といったところか。


 そしてこの島の人間は、そんな漂流した魔物を襲って捕らえているようだ。


 セレーナの話なら、彼らは千年以上前の人間。それが軍隊としてまとまり、戦闘を行っている……普通であれば信じられない話だ。


 行進が過ぎ去り、後続が途絶える。

 エリシアが小声で訊ねてきた。


「どうされますか、アレク様?」

「捕まった魔物たちがどこへ連れていかれるか気になる。第十三軍団についても、もっと情報を得たい。このまま俺たちも街に入ろう」


 そうして俺たちは、第十三軍団の治める街へと入ることにした。

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