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133話 魔王国の内情

 交渉を終えた俺だが、ドッペルゲンガーの拘束の方法を考えなければいけなかった。

 ずっと、《闇檻 》を展開できるわけではないからだ。


 一度アルスに帰還してユーリに相談すると、《闇檻》を付与した檻を提案してくれた。


 すぐにリンドブルムたちのいた空洞にミスリル製の檻を設置してくれる。


 その檻に俺が《闇檻》を付与すれば、ドッペルゲンガーを留置する場所は完成だ。


 ドッペルゲンガーにはそこに入ってもらい、眷属たちに見張ってもらう。


 また、ドッペルゲンガーの部下のコボルトやゴブリンが数名空洞に帰ってきたが、主の説得もあり皆自ら身柄を預けてくれた。


 そうして虜囚となった彼等には、食事や寝具だけでなく、本やカードの類を差し入れた。今後は厠の設置などもする予定だ。


 彼らは魔王国へと送り届ける捕虜。なるべく好印象を抱かせたい思いもあった。


 この空洞の監獄は拡大し、ドッペルゲンガー以外の魔王国の者も連れてくるつもりだ。

 上部の倉庫はエネトア商会が取得し、外部の者が立ち入れないようにする。


 こうして、とりあえずは魔王国の捕虜のための留置所ができた。


 今はティカとネイトにドッペルゲンガーから魔王国の拠点を聞いてもらっている。


 一方の俺は、メーレに翻訳を頼みリンドブルムの親と会話することにした。


 リンドブルムはこちらに敵意がないと分かっていたのか、特に何かを隠しだてることもなく話してくれた。


 彼女の名はモノア。もともとは、魔王国の一地域に領地を持つ首長の子だった。


「魔王国でそんなことが……」


 メーレはそう呟くとモノアの話を翻訳してくれた。


 五十年ほど前に前の魔王と代わって魔王となったアシュテルは、それまで各地域の首長に分散していた魔王国の権力を自分へと集め始めた。


 魔王国内は各種族の争いが絶えない内紛状態にあったが、アシュテルによって統一される。


 アシュテルは魔王国統一の過程で、しきりに人間国家との決戦を訴え、この世界を悪魔と魔物たちだけのものにすると宣言していた。

 魔王国の多くの魔物たちは、強いリーダーであるアシュテルを歓迎したという。


 しかしアシュテルのある方針に異を唱える者もいた。モノアたちの一族もそうした反魔王派だったようだ。


「……だけど、反魔王派は簡単に敗北した。アシュテルは強力な魔法を使えるのはもちろん、魔導具の知識も豊富だった。アシュテルの軍には全く太刀打ちできず……」


 メーレが訳している間、モノアは自分の首元にある印に目を向けた。


「こうして私は奴隷となってしまった。子供にまで継承される、決して消えることのない奴隷印を押されて」

「なるほど。魔法で押された印なのか?」


 俺の質問をメーレが訳してモノアに伝えてくれる。


 モノアは頷くような仕草をして魔王国の言葉で答える。


「……アシュテルが得意とする闇魔法の一つ。征服した種族にその印を刻んでいた」

「闇の、魔法か。眷属ではないのか?」

「眷属は、悪魔の配下であることを示す契り。アシュテルの腹心たちはアシュテルの眷属だけど、私たちは奴隷よ」


 そういえば、セスターは自分を魔王の眷属と言っていた。

 あれは悪魔の僕である眷属と同じものなのだろうか?


「質問ばかりで悪いが、アシュテルは悪魔なのか?」

「アシュテルは……魔王族という、悪魔の血を引く種族の末裔よ」

「うん? 悪魔が子を?」

「ええ。魔王族の者たちは、地上に降りた最初の悪魔の子孫。魔王になる者は、この魔王族の者でなければいけない。あなたは悪魔が子をなすなんて聞いたことがないと思っているかもしれないけど、私たちも同じ。皆、神話のことだと思っている」


 人間の国でもそういった神話はある。神々の子や天使を祖とする王侯貴族は多い。


 本当かどうかを断じることは俺にはできない。だが、ほとんどの者は神話は神話に過ぎないと考えているだろう。


「なるほど。魔王族は悪魔のように眷属を持てる。そして闇魔法も使える。しかし……悪魔のように人を殺すことだけを考えて動いているわけではなく、思考して行動できる」

「ええ。娯楽もたしなむし、嘆いて悲しむこともある。皆、悪魔のような見た目をしているけど純粋な悪魔とは違う。だけど、アシュテルは……」

「アシュテルは?」

「悪魔というよりは、人に近い顔をしている。もちろん、悪魔のように翼も角もある。しかし、顔は人間の男に近い。目は、特に人にしか見えない……だから反魔王派の中には、アシュテルを混血と蔑む者もいた」

「なるほど……ともかく歴代の魔王の中でも、アシュテルは異質な存在というわけか」


 メーレが訳すのを聞いて、モノアは深く頷いた。


 しかし、強力な闇魔法に、魔導具の技術か……


 俺も闇魔法を使うし、魔導具を作る。色々ないざこざがなければ、本当に会って色々話したいぐらいだな……


 とはいえ、魔族を捨て駒にするような者だ。とても相容れない。


「ありがとう……まだまだアシュテルについては知りたいが、とりあえずどんな者かは分かった。だが今はまず、その印をどうにかしないとな。ドッペルゲンガーの話によれば、魔王でしか解除できないようだが」


 モノアは首を縦に振る。


「彼の魔導具では、私たちは解放できない。命令はできるが」


 つまりは、今この時もドッペルゲンガーはリンドブルムに何か指示を出せる。

 そうしないのは、とりあえずは俺の提案を信じてくれているのだろう。


 とはいえ、状況は変わればどうなるか分からない。

 また、このままリンドブルムたちをただ解放しても、また魔王とその配下に見つかれば奴隷に逆戻りだ。


 俺はこう提案することにした。


「以前、お前たちのように体を操られている者がいた。だが、俺の眷属になることで、それから解放することができたんだ」


 セレーナは鎧として、黒衣の女に使役されていた。本人の意思とは裏腹に、俺たちを攻撃するしかなかった。それが俺の眷属になることで、解除できた。


「眷属……あなたはまさか、魔王族?」

「いや」

「では……まさか、悪魔とでも言うのか?」

「違う、人間だ」


 俺の返事をメーレから聞いて、モノアは口をポカンとさせている。


 こちらは手の甲にある闇の紋章を見せて続ける。


「どういうわけか、俺は人間だが闇魔法を使える。そして眷属を持つこともできる。この紋章でな」

「人にも宿る闇の紋章。しかし、人間は必ず悪魔になる。そうしなければ、悪魔は生み出せない。どういうことだ……私と同じ反応ね」


 メーレは翻訳すると同情するように言った。


「俺も理屈は分からない。だが、それで上手くやっていけている。そこで相談だが」


 俺の言葉の途中だったが、モノアは察したように言う。メーレはすぐにまた翻訳を始めた。


「あなたの眷属にならないか、か」

「そういうことだ。もちろん、それはただ奴隷印の効果を無効化するためで、俺の部下になってほしいわけではない。ここから出ればもちろん、故郷に帰るなり新天地を探すなり自由にしてもらって構わない。故郷は危険だろうが」


 俺が言うと、モノアはこくりと頷いた。


 すでに魔王の支配下にあるから、帰郷すれば戦いになる。それは避けたいのだろう。


「あるいは、俺たちの故郷……ティアルスに来てくれてもいい。今は魔族が多いが、魔物も大歓迎だ。スライムやゴーレムがいる」

「人間が魔族と魔物と一緒に住んでいる……住むかは別として、一度は目にしたいな。だが、その話は別としてまずはあなたに恩返しをしたい。眷属になったら、少なくとも十年は、我らを使役してほしい」

「使役はしない。だが、さっきも言ったが、住人として協力してくれるなら歓迎だ」

「優しい者だ……人にもやはり、あなたのような者はいるのだな。ともかく、眷属にしていただくと言う話、ぜひお願いしたい」

「分かった──」


 俺が言うと、モノアや他のリンドブルムたちを光が包んだ。


 光が収まるとリンドブルムたちは、特に先ほどと変わらない様子でそこにいる。外見は何も変わっていない。


 スライムもそうだったが、魔物はやはり姿が変わらないようだ。


 姿はどうでもいいとして、奴隷印のほうは──


「おお、消えているな」

「本当に、消えた……頭に響いていた、アシュテルの言葉も消えた。どうやら、アシュテルの手から解放されたようだ。本当に感謝する!」


 メーレは、モノアの喜ぶ声を伝えた。


「そうか、よかったよ。ともかく今日は、アルスへと案内する」

「うん? そのメーレが訳さなくても、そなたの言葉が分かる……あら、どうやら眷属になったことでアレクの言葉が分かるようになったみたいね」

「スライムもそうだったな。俺は相変わらず、魔王国の言葉は分からないが」


 メーレがモノアの返答を訳す。


「人間の言葉を勉強したい……ともかく、主に感謝する。我らは主に忠誠を捧げます。我らは、強くて平和を貴ぶ主を求めていた……ふふ。最初から、あなたのことを気に入っていたみたいね」

「それは嬉しいが……まあ、よろしく頼む」


 俺が手を差し出すと、リンドブルムは頭を垂れ額で手に触れた。


 エリシアはそれを見て微笑ましそうに口を開く。


「歓迎しないといけませんね。腐った魚や肉ばかりでさぞお辛かったでしょう。今、アルスで新鮮な魚介を用意させています」


 そう言うと、周りの子供のリンドブルムたちが喜ぶように鳴き声を上げた。皆、犬ぐらいの大きさの体なので、鳴き声は結構大きい。洞窟はすぐに鳴き声で一杯になった。


 モノアはそれを叱るが、あまり子供たちは聞いていない様子だ。


「これはまた、賑やかになりそうだな」


 こうしてティアルスにまた新たな種族が仲間として加わってくれたのだった。

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