13話 ☆ルイベル①
■ルイベル視点(アレクが帝都を出た日の夜)
「はは! やった! あの忌々しいアレクがついに、僕の前から消える!!」
一人、ルイベルは風呂の中で高笑いを響かせていた。
その片手は、自分の体を洗うメイドの胸に伸びている。彼女は、もともとはアレクの専属だった。
「る、ルイベル様、そこは」
「アレクもこうしていたんでしょ? ふふ……アレクから奪ってやった」
ルイベルはにやにやと笑う。
アレクの取り巻きも、立場も、今では全て自分のものとなった。父も周囲の貴族も皆、アレクではなく自分に注目してくれる。
不遇だったルイベルは【聖神】の紋章を授かったことで、全てを手に入れたのだ。
自分の人生はずっと明るくなる……
しかし、それだけではルイベルの気が済まなかった。
いつも自分はアレクと比べられていた。
今の自分を見せつけてやりたかったが、それは叶わない。
しかも、何故か綺麗なメイドを連れている。そんな些細なことでも、ルイベルは気に入らなかった。
ルイベルの脳裏には、アレクが焼き付いて離れなくなっていたのだ。
ならばいっそのこと……
そんな中、執事の声が響く。
「ルイベル様……神殿の方が参られました」
「そうか、通せ」
ルイベルは風呂に入ったまま、来客を出迎える。
浴場に入ってきたのは、白い司祭服に身を包んだ者たちだった。
その中で、立派な白髭を蓄えた神官が代表して口を開く。
「殿下、ただいま参上いたしました」
「来たか。”悪魔の子”だが、今日、帝都を出たらしい」
ルイベルの言葉に、神官が無表情で答える。
「闇の紋を持つ者が、帝国を自由に闊歩する……なんとも、嘆かわしいお話ですな」
「ああ。そうだろう。あんなのは、この国にいないほうがいい……早く、消えてほしい」
しかりと神官は頷く。
「神々の敵である悪魔の萌芽は、早いうちに摘み取るべきでしょう。ですが、あのお方がどう思われるか」
「……何かあっても、父上は僕の味方だよ。僕は【聖神】の持ち主なんだから。父上だって、あれの死を望んでいるさ」
「では……指折りの悪魔祓いを派遣しましょう。我が至聖教団の名に懸けて」
「ふふ……報告を楽しみにしてるよ」
ルイベルがニヤリと笑うと、神官たちは浴場を出ていく。
これでアレクも死ぬ……
そんなことを考えていると、入れ替わりにメイドが入ってきた。
ユリスのもとに贈り物を届けにいったメイドだ。
ルイベルはユリスも、自分のものにしたいと考えていた。ユリスが可愛いというのはもちろんある。
だがそれ以上に、ルイベルはアレクからユリスを奪いたかった。
最高級の指輪を送った。しかも自分は【聖神】の持ち主。きっとユリスは自分に振り向くとルイベルは自信を持っていた。
「ユリスは喜んでいたか?」
ルイベルがそう問うが、メイドはどこか慌てた様子だった。
「うん? どうした?」
「そ、それが……ユリス様が、行方不明になられたようです!」
「ゆ、ユリスが!? ……僕のユリスが!?」
アレクが帝都を出た日。
婚約者ユリスもまた、帝都から姿を消したのだった。