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122話 知った顔

 近づく足音の正体がついに出入り口から姿を現す。


「来た──え」


 メーレは唖然とした表情になる。


 出入り口に最初に入ってきたのは、背の高い鎧の女性だった。長い金色の髪の女性だ。


 他にもいるが、メーレもエリシアもその女性に釘付けとなる。


 鎧の女性の見た目は──エリシアとうり二つだったからだ。


 メーレは焦るように言う。


「リュセル伯爵!? エリシアは姿を隠していたはずなのに! なんでエリシアに」

「ま、待ってください、メーレ。あれは恐らく」


 エリシアはそう言って俺に顔を向けた。


「ああ。ユリスの従者だろう」


 俺の婚約者ユリスに着き従っていた、エリシアとよく似た女性。


 帝都のギルドで、ローブリオンで、ユリスを目にした際には、必ず近くに彼女がいた。顔は分からなかったが。


 だが、邪龍との戦いの後、俺たちが看病している際にその顔を見る機会があった。エリシアが相当驚いていたのを覚えている。


 それを知らないメーレは、リュセル伯爵がエリシアに化けていると考えたようだ。


 もちろん、その可能性がないわけではないが、非常に考えにくい。


 そう判断する理由はいくつかある。

 まず、エリシアと瓜二つだが、よく見るとエリシアよりも明るい金髪であることがわかる。以前も、その違いは明らかだった。


 また、鎧の女性の後ろには、以前見たもう一人のユリスの従者──魔導士風の服の女性もいた。

 

 当然だが、地下闘技場にあの魔道士風の女性はいなかった。

 後ろからやってきた他の鎧を着た三人の女性たちもだ。


 リュセル伯爵がユリスの従者に化けている……ということも考えられるが、それも何か証拠があるわけではない。


 魔導士風の女性は背伸びして言う。


「──ああ、ようやく帰ってこれた! 我が愛しの癒しの泉!!」


 エリシアに似た女性が頷く。


「ここがやっぱり一番だな。セルナ、頼む」

「了解、アリュシア」


 エリシアに似た鎧の女性はアリュシア、魔道士風の服の女性はセルナというらしい。


 セルナは杖を掲げ、湖の中へ炎を放つ。

 やがて湖面からぶくぶくと泡が立ち、湯気が立ち始めた。


 湖を温めた?


 アリュシアは手で湖の水を掬う。


「うむ……ちょうど良い。これでいいだろう」


 そう言ってアリュシアは他の者たちと壁際にある扉へと入っていった。


 扉がバタンと閉じられると、メーレは額に汗を浮かべて言う。


「一体、何を始めるつもり……?」

「しかも、宮殿の地下で……」


 俺も何が始まるか、固唾を飲んで見守った。


 これだけの魔力で満たされた場所。ケルベロスのような魔物が召喚されてもおかしくはない。


 ユリスは各地で邪竜を狩るなど、ユリスは俺のやりなおし前と違う行動を取り始めている。だから、邪竜に近しい悪魔や魔物を召喚するとは思えない。


 とはいえ、リュセル伯爵が化けているなら話は別だ。


「装置の類は見当たらないが……二人とも気を抜くな」


 俺が言うとエリシアとメーレは真剣な表情で頷いた。


 やがて先ほどアリュシアたちが入っていった扉が開く。


 すぐに扉から飛び出してきたのは、先程までのアリュシアたち……ではなかった。


 一糸纏わぬ美女たち──鎧や服を脱いだアリュシアたちがいた。


「あっ……」


 俺はすぐに目を逸らす。


 とんでもない事態になるかもしれないと身構えた俺が馬鹿みたいだ。


 もう見なくても分かる。

 アリュシアたちは湖を風呂にしたのだろう。


 鼻歌混じりのセルナの声が響く。


「ああ、気持ちいい……やっぱこの湖の風呂は最高ね」

「聖木の葉が落ちる湖。癒しの効果は確実にあるはずだ」


 アリュシアも心地よさそうな声で言った。


 他の者たちからも愉快そうな声が聞こえてきた。


「まさかの風呂とは……」

「気持ちよさそうではあるけど……」


 エリシアとメーレは拍子抜けしたような顔で言った。


 リュセル伯爵云々の可能性は、もうほとんどなくなった。

 アリュシアたちはユリスたちの従者でほぼ確定だろう。


 しかしとエリシアが疑問を呈する。


「なぜ、このような場所を風呂に?」

「風呂だけここにあるとは考えにくいよね。他の生活空間もあるんじゃない?」


 メーレの言う通り、風呂に入りにくるだけのためにここにきた可能性は考えにくい。


 いや、聖木の力を得られる湖。アリュシアの言うように傷を癒す効果もあるから、多少遠くても足を運ぶ価値はあるかもしれないが……


 それでも、寝室など他の設備を揃えていると見るのが自然だ。


「では、ここはユリスさんの拠点なのかもしれませんね」


 エリシアの声に俺は小さく頷く。


 俺とエリシアが帝都を初めて出て間も無く、ユリスが宮殿から消えた事件があった。


 ここや俺たちが先程通った隠し通路を通れば、ユリスは家族や近衛兵たちに気づかれずに宮殿の外へ行くことができる。

 だからここがユリスの拠点であったとしてもおかしくない。


 問題は……なぜこんな場所を拠点にしているのかということだ。


 そもそも、どうして商人リリーを名乗り、各地で邪竜を倒しているのだろうかという疑問にも繋がる。


 今までは俺がやりなおし前と違うことをしたから、ユリスも違う行動を取るようになったと考えていた。


 しかし、やはりユリスの年齢で、こんな拠点を偶然持つのは考えにくい。しかも、あのアリュシアやセルナといった強い仲間がいる。


 もしや──ユリスも、俺と同じくやりなおし前の記憶を保持しているのか?


 もしそうなら、これまでの大人びた行動や振る舞いにも説明がつく。


 にわかには信じがたいが……そもそも、俺がこうしてやりなおし前の記憶を持っているのだから否定はできない。


 では、ユリスがやりなおし前の記憶を持っていたとして、何をやりたいのか──


 ……せっかく来たんだ。覗き見するようで悪いが、少し調べさせてもらおう。


 俺はまず、アリュシアとセルナの話に耳を澄ますことにした。

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