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107話 手分け

 俺たちは狼人を助けるため、その黒幕を探ることにした。


 しかし狼人の引き取り手が現れるのをただ待つ必要はない。

 調べられることは調べておく。


 まずは、ティカとネイトが率いる諜報部に狼人を捕らえた衛兵たちを探ってもらうことにした。

 今は衛兵を追尾したり、衛兵の詰所に潜入している。


 まだ調査中だが、早速衛兵たちはセルビカ区の本物の衛兵だったことは掴んでくれた。


 本物の衛兵による誘拐……

 悲しいことだが、この国では汚職自体はたいして珍しいことではない。


 もちろん、ただのいじめのために捕まえることは考えにくい。

 だいたいは金がらみの不正。 

 今回も何者かが衛兵らに誘拐の見返りを渡しているはずだ。


 その何者かは、明後日の狼人の引き取りに現れる可能性が高い。


 だが、事前に姿を表す可能性もある。

 姿を現した場合、ティカたちにはその者たちも調べてもらうことになっている。


 また、もし衛兵たちが他の狼人を誘拐しそうなら妨害するようにも伝えた。


 他にも地下水道も調査してもらいたかったのだが……流石にティカたちの負担が大きすぎる。


 だから地下水道は俺と他の眷属が探索することにした。


 今アルスの噴水の周りには、今回の地下水道探索に参加する眷属たちが集まってくれている。


 武闘派のエリシアとセレーナだけではなく、鼠人とスライムたちもいる。

 全員で五十名の大部隊だ。

 もちろん五十名でまとまって動くわけではない。数名ずつに分かれて調査する。


 ティアは集まった者たちに声をかけた。


「チュー! ついにアレク様にうちら鼠人とスライムさんたちの力を見せつける時が来たっす! 皆頑張るっすよ!!」

「チュー!!」


 鼠人たちが元気よく声を返した。

 近くにいるスライムたちもぴょんぴょんと跳ねてその声に応じる。


 地下水道は広く、また人の通れないような道もある。

 そのため、小柄な鼠人とスライムたちにも地下水道の探索を頼むことにした。


 スライムを率いるのは、二番目に眷属になったスライムのエリクと、アルスのスライム代表であるエレノアだ。


 だが、地下水道は危険な場所。

 今は盗賊の棲家になっているし、過去には魔物の発見報告もあった。


 だから自衛のための魔道具を持たせた。

 即座に帰還するため、攻撃を防ぐため、あるいは姿を隠すため──俺の闇魔法を付与した様々な魔道具を持たせてある。


 それでもまだ心配だが、ティアたちは少しも怖気付いていない。


 むしろやる気に満ち溢れているようだった。

 どうも鼠人たちは、眷属の中で自分たちがあまり活躍していないことを気にしているらしい。


「ティア。何度も言うが人間や危険な相手には見つからないようにしてくれ。危ない時はすぐにアルスに撤退するんだ。あと、大事なことだが、他の鼠に煽られても追うんじゃないぞ」


 俺が言うとティアは慌てて答える。


「も、もちろんっす! もし帝都の鼠と会っても喧嘩はしないようにするっす! むしろ穏便に話しかけて、情報を集めてみるっすよ!」


 以前エネトア商会を整備していた時、ティアたちは帝都の鼠とやり合うことがあった。

 だから釘を刺しておく。


「頼んだぞ。捕まっている狼人や他の魔族たちの命にも関わってくる」

「肝に銘じるっす!」


 ティアたちはそう言うと、続々と帝都のエネトア商会へ転移していった。


 商会の中庭には地下への階段を設け、地下水道へ直接下りられるようにしてある。


 鼠人とスライムは五十体以上……明後日までと時間はないが、地下水道の広い範囲を調べてくれるだろう。


 事前に地下水道の構造を把握しておけば、黒幕の追跡も容易だ。

 それに、接触する前から奴らの拠点なども発見できるかもしれない。


 そんな中、近くで見ていたメーレが言う。


「皆偉いね……助けられた私が言うのもなんだけど、狼人たちを助けたとしても何の得もないのに」


 確かにティアルスにとって得はないかもしれない。


 狼人たちの冤罪が晴れ元の生活に戻れれば、俺たちを頼る必要もなくなる。

 加えて黒幕を捕まえれば結果として帝都の魔族たちの安心にもつながる。


 そうなれば、ティアルスを紹介しても移住してくれないだろう。

 名前の聞いたこともない辺境の地で暮らしたがる者はそうそういない。


 俺は頷いて答える。


「確かに得はないかもな。だが、それで良いんだ。アルスの皆だって皆が皆、アルスに来たかったわけじゃない。必要に迫られたからだ」


 メーレもユーリやラーンたちの身の上は聞かされている。

 青髪族や龍人たちはもう元の生活には戻れない立場で、俺の眷属となった。


「アルスに来るのは選択肢の一つ……そうであってほしい」


 メーレは深く頷く。


「さっきの狼人の人たち中にも、今の生活が気に入っている人がいたもんね」

「ああ。冤罪で今までの生活ができなくなるのはあまりに酷だ。結局のところ、俺たちは魔族や闇の紋章持ちが安心して暮らせるなら、そこがアルスでなくもいいんだ」


 アルスとティアルスは最後の砦であればいい。


 だがと俺は続ける。


「そうは言っても現状に満足している者は少数派。誘拐とは関係なしに辛い暮らしを送っている魔族は多い……そんな者たちをアルスへ受け入れるための窓口は作っておくつもりだ」

「その窓口が、彼ら狼人?」


 メーレはそう尋ねてきた。


「窓口は別に作る。彼らにはその窓口の存在を他の魔族に報せてもらうんだ。狼人たちを助ければ、彼らが俺たちのことを広めてくれる。それを聞いた者が俺たちを頼ってくるはずだ」


 魔族や闇の紋章持ちを助け、場合によってはティアルスに迎え入れる……

 今まで目的としていたことだが、実際に何か手を打ったわけじゃない。

 だから今回は良い機会だった。


 メーレは頷いて言う。


「私たちが魔族を助けてくれる存在になるのね……彼らが呼びやすいように、呼び名があったほうが良いんじゃない?」

「そう、だな……呼び名か」


 いきなり言われてもなかなか思い浮かばない。


 俺が考え込んでいると、セレーナが口を開く。


「では、アレク騎士団などどうでしょうか!?」

「名前明かしてますよ……アレク様のお名前を出せないのは心苦しいですが……駄目です」


 エリシアは悩ましそうな顔で言った。


 なかなか名前が出ないのを見て、メーレはふっと笑う。


「そんな難しく考えなくていいのに……まあ、狼人たちが勝手に良い呼び名をつけてくれるかも」

「そうしてくれると助かるな……彼らに任せよう」


 姿を隠しながら自分で組織名を喋るのはどこか恥ずかしい。

 狼人たちが適当に考えてくれるだろう。


 そんな中、エリシアが俺に訊ねる。


「アレク様。今回の救出作戦で一つ気になったのですが、冤罪を明るみにすると言ってもどうなさるおつもりですか? 実際に市民の前で晒すと言っても」

「それは、今回もあの男を適当な理由をつけて動かすよ。綺麗な大人の魔族がいるとでも言えばすぐに駆けつけてくるはずだ」


 エリシアがああと納得するような顔をする。


 あの男とは俺の兄ヴィルタスだ。

 あいつなら魔族の味方をしてくれる。


 エリシアは笑みを浮かべて言う。


「さすがはご兄弟! 動かし方を心得ていらっしゃいますね」

「俺じゃなくても、お気に入りの魔族なら皆分かっていることだ……それはともかくヴィルタスは魔族への悪行を見逃すようなやつじゃない」

「その面ではとても頼りになる方です」

「ああ。まあ具体的にどうするかは、黒幕の尻尾を掴まないと決められない」


 俺の言葉にエリシアは深く頷く。


「俺たちも地下水道に行こう。俺たちが歩けるところは限られるが、魔力の反応は掴めるかもしれない」


 こうして俺と眷属たちは地下水道の調査を始めた。

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