表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/177

1話 人生の最期に闇魔法を使ってみる

「──これが、闇の魔法……」


 己の手に蠢く黒い瘴気を見て、深いため息が漏れた。


 今まで扱ったこともない膨大な魔力が手先に集まるのを感じる。


 闇の魔法は、禁忌の魔法。

 人間が使えば、闇属性の魔力に呑まれ悪魔となってしまう。


「それでも……一度も使わずに死ぬなんてできなかった」


 今より十三年前のことだ。

 俺アレク・アルノーツ・ルクシアは七歳の時、この手の甲に蠢く黒い文字──闇魔法に恩恵のある闇の紋章を神々より授かった。


 その闇の紋章によって、世間からはずっと呪われた皇子として蔑まれてきた。


 それでも魔法を極めるのを諦めたことはない。ひたむきに闇属性以外の聖、火、水、雷、風、土の魔法を学んできたつもりだ。


 しかし、どの属性の魔法の成長も頭打ちとなってしまった。低位魔法を扱うだけの魔力しか集められなかったのだ。


 だからこそ、恩恵を受けられる闇の魔法を一度は使ってみたかった。


「これが、闇──なんと、静謐な色か」


 底の見えぬ闇に、体が吸い込まれるような錯覚を覚える。


 これが、悪魔になるということなのだろうか。


 悪魔になった者は膨大な魔力と超人的な身体能力を得られる。

 しかし自我を失い、攻撃衝動に駆られ周囲を見境なく攻撃しだす。


 もちろん、俺はそんなことはしたくない。


 人に害を与えず生きてきた、真面目だけが取り柄だった。


 だから闇魔法を使う前に、確実に死に至る毒を呷った。


 なかなか勇気が必要だったが、今日どの道俺は死ぬ。


 帝都の民衆による大反乱に巻き込まれ、宮廷に置き去りにされたのだ。


「まあ、逃げられたところでな……」


 呪われた皇子である俺の居場所はない。今までもそうだったように、ずっと日陰を歩くだけだ。


 俺はこの眩しすぎる世界に疲れを覚えていた。だから今日、死ぬことにした。


 とはいえ、民衆にずたずたにされて終わりは嫌だ。最後に、闇の魔法を見て永遠の眠りに就こうと思った。


 恐れなどない。むしろ目の前に揺蕩う黒い靄に安心感すら覚える。


「やっと、眠れる」


 思わず、そんな言葉が漏れた。


「しかし……なんだ? たちまち、悪魔になるんじゃ」


 今までの悪魔化の報告記録では、十秒も経たずに闇魔法を使った者は悪魔化するとされていた。


 それがもう一分……いや、二分経とうとしているぞ。


 視界が闇に包まれることも、悪魔の囁きも聞こえてこない──いや、囁きらしきものは聞こえてきた。


『なぜだっ!? なぜ、体を奪えない!? 動け、動けっつってんだよっぉおおお!! このポンコツがぁあああ!』


 頭に響く囁きは、やがて叫びに変わっていた。悪魔だろうか、どうやら俺の体を奪えないらしい。


 ──どっちがポンコツだよ。


 ともかく、これは早まったようだ。


 まさか悪魔化しないなんて、自分が特別だなんて、誰が思うか。


 しかし、薬は無情にも俺の体を蝕んでいく。視界が揺れ、意識が遠くなる。


 こんなことなら、闇魔法を極めればよかった。


「何を言ってももう遅い……」


 この世界に何も疑いを持たなかった。世界のルールにただ従って生きていた自分の限界だ。


「ああ……もう一度やり直せるなら」


 消えようとする光を前に、俺はそう願った。


 そうして、永遠の暗闇が訪れる──


 そのはずだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ランキング参加中です。気に入って頂けたら是非ぽちっと応援お願いします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ