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紅 勇希

「ああ、疲れた・・・・・・」響樹は少し猫背の姿勢で帰宅していた。


 空手道部に所属して四ヵ月。少しは上達したような気はするのだが、まだまだ練習についていくのがやっとであった。


 それにしても、空手部の練習は本当に厳しかった。 入部する前に、クラスの担任から厳しくて有名だから気合を入れるようにと注意されてはいたが、まさかここまで強烈とは正直思わなかった。


 練習を終えた疲労感と脱力感で、彼は惰性で帰路を歩いている。


「君!姿勢が悪いわよ!」唐突に背中を思いっきり叩かれる。


「痛っ!」響樹は痛む背中を押さえながら振り向いた。

 そこには竜虎学院の制服を着た女子高生が立っている。


 彼女は長い髪を腰の辺りまで伸ばしている。女の子にしては身長が高い百六十中盤といったところか、瞳が大きく鼻が高い。唇の形も魅力的だ。

 胸は大きく魅力的に発達している。

 スポーツマンらしく細いウエストと程よいお尻の大きさ。スカートは膝上二十cm、これは少し短か過ぎるのではないかと響樹は思った。


「いきなり背中を叩かないでください。 紅先輩!」響樹は少女の名前を呼んだ。


「驚いた? 御免ね!」くれない 勇希ゆうきは可愛く首を傾げた。


 先ほどまでの道場での鬼指導が嘘のようであった。

 勇希は二年生。響樹の一つ上の学年である。


「今日の組手、かなり厳しい感じでしたけど・・・・・・・俺、なんか怒らせることでもしましたか?」響樹は首をコキコキ鳴らしながら問いかける。


「べ、別に怒ってなんていないわよ。 他の部員よりもあなたが見込みあるから厳しくしているだけよ!」勇希は誤魔化すように響樹の目から視線を逸らした。

 まさか、女子部員と仲良く話をしていたことに焼きもちを焼いたなど口が滑っても言えないと思った。


「そうですか・・・・・・それは有難うございます」響樹は形だけのお礼を言った。

 同じ、もしくは響樹より多い運動をしていた筈なのに勇希の体からは心地の良い甘い香りが漂う。

 響樹は密かに彼女のこの匂いが大好きであった。


「解ればいいわ。 解れば・・・・・・」言葉尻が何故か小さくなった。


「あれ?先輩の家はこちらの方向でしたっけ」響樹が記憶では勇希の自宅は確か反対方向であったと思い問いかける。


「え、あ、スーパー、買い物よ! お母さんに卵を買ってくるように言われて・・・・・・」勇希の目は宙を泳いでいるようであった。


「ああ、アオンですか。 あそこ安いですからね」響樹は鞄を肩に掛け直す。 アオンとは、この辺では一番大きな買い物施設であった。

 練習後の道着は汗を吸い重量を増している。 家で開けた時の鞄の中の匂いは、かなりキツイ。油断すると道着のカビが生えるので注意が必要だ。


「そ、そうアオンよ。アオン! お母さんが卵はあそこが新鮮だからって!」勇希は慌てたように返答する。安いのは解るが新鮮かどうかは疑問だなと響樹は考えていた。 しかしあえて、そのことは口にしなかった。


「先輩も料理とかするのですか?」響樹は勇希が料理をする姿を想像した。しかし、空手の試割りのように、大根を叩き割る姿が浮かび苦笑いした。


「人の事を空手バカみたいに言わないでよ! 私は料理得意よ! お弁当だって作れるし・・・・・・」なぜか、頬を赤く染めて響樹から目をそらす。


「へー、いいな。 俺はいつも食堂です。 学校のうどんもそろそろ飽きたな」響樹は食費をケチる意味もあって、昼食のメインはうどんかそばであった。 しかし四ヵ月も同じものを食べ続けて、そろそろ口が飽きていたところであった。


「な、なに、それって、私のお弁当を食べたいって事!?」勇希が更に顔を真っ赤に染めて響樹の前に顔を突き出してきた。


「いえ、そんなことは一言も言っていませんよ」なんだか、話がかみ合わないなと響樹は感じていた。響樹は頭の後ろで手を組んだ。


「そ、そうなの・・・・・・」勇希は少し寂しそうな顔を見せる。 響樹にはその意味が解らなかった。


 他愛の無い会話を交わしながら二人は歩いていく。

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