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転生したら幼なじみが騎士団長になっていました  作者: 氷雨そら
幸せな結末のその後

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2人の朝は今も


 レオン団長はよく眠る。

 最近は起こしてあげないと起きてこない。

 少し手がかかるけれど、眠れない夜を過ごしているよりずっといい。


「そろそろ起きて、レオン?」

「――――夢の続きかな?天使がいる」


 今日も朝からレオン団長は平常運転。つまりそれは、調子がいいということだ。

 リリアにとって、髪をかき上げた美形に朝一番から甘くささやかれることはやはり慣れない。


「ごめん、寝過ごした。朝ご飯は食べた?」

「今日は私が作ったんだよ!食べてみて?」

「えっ。リリアの作ったものが食べられるなんて盆と正月が一緒に来たようだ」


 時々、レオン団長はちょっと表現が古臭い。そして、この世界の人たちにはたぶん通じない。

 それでも、二人は、それで通じ合える。


「そういえば、閣下に呼び出されているのよね?」

「――――ああ。帝国から使者が来たらしいからな」


 甘い空気が霧散してしまう。帝国とは、長い間敵対関係にあった。レオン団長が活躍した戦争が終結するまで。


 でも、今でもリリアやレオン団長に刺客を放つくらい水面下での抗争は続いている。


「大丈夫だリリア。必ず守るから」

「そうだね……私もできる限りのことを」


 その続きをレオン団長の唇が塞いでしまう。


「本当は、リリアが無茶なことをしないように、ここに結界でも張って閉じ込めてしまいたい」

「――――レオン。それは……」

「リリアの気持ちはわかってる。これは俺の勝手な願望だ」


 それでも、リリアを守る方法がそれしかないのなら、レオン団長は迷わず選ぶだろう。


 でも、リリアは一つだけ脱出できる手段を手に入れている。

 テオドールが作ってくれたのだ、闇魔法で作られた結界を壊すアイテムを。

 レオン団長向けの回復薬もあるし、有事の際でも脱出とレオン団長を助ける準備は完璧だ。


(口が裂けても、レオンには言わないけどね)


「――――その時は一緒に戦おう?私も旦那様の力になりたいよ」

「……うわっ。その言葉すごい破壊力だな?!――――もう一回言ってくれる?」

「……旦那様?」


 黙ったままうずくまってしまったレオン団長は可愛いと思う。

 いつも、リリアにささやく台詞の攻撃力は高いくせに、少しリリアが攻撃に出るとレオン団長はいまだに大変打たれ弱い。


「さ、ご飯食べちゃって?」

「ああ……この卵焼き控えめに言って最高だ」

「ふふ、相変わらず大げさなんだから」


 レオン団長とリリアは間もなく王都を離れる。第二騎士団は、北方騎士団と名称を変えて、レーゼベルク領の魔獣の森と帝国との国境の防衛が任務となった。

 一足先にルード副団長とアイリーンがレーゼベルグ領で飛竜とともに魔獣の森の開発に向けて活躍しているので、急ぐ必要はないと思うが。


「帝国か……きな臭くなってきたな。まあ、行ってくる」


 二人は軽く口づけをする。これは、いつの間にか毎日の日課になっている。


 レオン団長が出かけてしまうと、室内が広く感じる。後片付けを終えたリリアも、神殿へ出かけることにした。今日は聖杯に魔力を注ぐことになっている。


 執務室の扉を開けると、廊下に騎士団の制服に身を包んだカナタが立っていた。

 いつの間にか、リリアは背を抜かれてしまった。

 声からも幼さがなくなり、金の髪とアメジストの瞳、整った顔から令嬢たちに物凄い人気があるらしい。カナタ自身は興味なさそうにしているが。


「おはよう奥方」


 レオン団長との結婚式後から、姫という呼び名は奥方に変わっている。

 もう、騎士団の一員なのだからと思うが、掟に逆らうことはできないらしい。難儀だ。


「どうしたの?珍しいねカナタさん」


 最近は、騎士団にいることが多くリリアのそばにいることは少なくなった。

 単独ではレオン団長に次ぐ実力のカナタは、当然のようにアイリーン不在の部隊の隊長代理に任命されている。


「ちょっと、顔が見たくなって」

「……なにかあったの?」


 カナタがリリアを少し高い位置から見つめてくる。今まで、リリアの事を見上げていたのに。


「まだ気づいてないのか……。ちゃんと暖かくして体を大事にしろよ?とりあえず、剣の鍛錬は今日からやめとけ?」


 そう言って今まで見たことがないほど大人びた微笑みを見せたあと、カナタは踵を返して去って行ってしまった。


 ヒナギクは「完璧に侍女に擬態できるようになったから安心して」と言って、最近ではいつも侍女としてリリアのそばに控えている。


 ヒナギクもリリアが剣の鍛錬や騎士団の基礎練習に参加しようとすると、なぜか理由をつけては全力で止めてくる。何があったのか聞いても「私の口からは……」と笑うばかりで教えてくれない。


 そして最近のリリアの魔力はひどく不安定だ。

 奇跡の力というレベルで物凄い出力を発揮することもあれば、ほとんど使えないこともある。


「どうしてこんなに不安定になってしまったのかしら」


 今日も、神殿で聖杯に祈りを捧げたら、満タンになったらしく金色の光があふれ出してしまった。

 領民たちはお祭り騒ぎだったけれど、今までそこまでの出力はなかったのに。


 最近は食事もおいしくない。

 一緒に食事を摂っていたパールが、リリアの顔を覗き込む。


「ねえ……神殿で調べてもらったら?」

「え……?」


 この世界では、神殿ですべてを調べる。病院というものがない代わりに、治癒魔法や神殿で魔力を使って調べてもらうことが主流だ。


 ある意味便利で、ある意味不便だ。

 リリアは伯爵夫人の慈善事業として、レーゼベルク領に平民も診察が受けられる施設を作っている。完成したあかつきには、パールが施設長になる予定だ。


 医療と魔法を融合すれば、もっと平民も貴族もわけ隔てない治療が受けられるようになるに違いない。医療の知識は、できる限り本にまとめている。今では、パールがその知識と光魔法を使って活躍してくれている。


 そんなパールに促されて、リリアは神殿を訪れた。


「おめでとうございます」

「え?」


 年老いた神官が笑顔でリリアに伝える。


「双子のご懐妊です」


 そういえば、思い当たることはたくさんあったのになぜ気づけなかったのか不思議に思える。

 どこから情報が届いたのか、すぐにレオン団長が駆け付けた。


「パールがもしかしてと言うから。……リリア、本当に?なんだろう、これ。ここまで嬉しいなんて思ってもみなかった」


 リリアを抱きしめたまま、レオン団長がボロボロ涙をこぼすので、リリアの涙は引っ込んでしまった。そして、その日からレオン団長の過保護はさらに加速するのだった。


 それにしても、リーナお母様の時は、懐妊とともに魔力が消えたと聞いていたのに、リリアの魔力は不安定なだけで消える様子がない。


 おそらく双子の少なくともどちらかは闇魔法を持っている気がするが、こういうこともあるのだろうか。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 それから6年の月日がたち、無事に成長した双子たちはそれぞれ闇の魔力と光の魔力があることが判明した。


 双子の魔力が打ち消しあっていたせいか、リリアの魔力は消えることが無かった。


 お陰でリリアは今も聖女として、騎士団の癒し手として働くことができている。


 ちなみに黒い髪のほんの少し早く生まれた兄は、金の髪の妹を溺愛している。


 レーゼベルグ領の双子は、救国の騎士と戦場の聖女と呼ばれる父と母以上に活躍していくのだが、それはまたいつかの少し遠い未来の話だった。

ご覧いただきありがとうございました。のんびりになりますが、番外編は今後も更新予定です。


『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるととてもうれしいです。


それから、いつも誤字報告くださった皆さまに、心から感謝しています。

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 皆んなの新天地での活躍に期待大です! ボロボロ泣くレオン団長〜うれしさがにじみ出ています、よかった*\(^o^)/* 双子兄の父譲りの溺愛!頼もしいですね(^_^;) 双子ちゃんの成長が…
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