結婚式の翌朝
そして二人は幸せになりました。の続きです。
結婚式の翌日。リリアが目を覚ますと、レオン団長に間近で見つめられていた。
いつの間にかきちんと部屋着を着ているし、昨晩の事は夢だったんじゃないかという気さえする。
レオン団長はとても優しかった。
優しかったが鬼団長モードだった気がするのは、たぶん夢だったに違いない。
(夢だと思いたい……)
「おはよう、リリア。リリアの寝顔は天使みたいだね」
「レオン……おはよう」
これからは、当たり前のようにこうやって起きた時にそばにレオン団長がいるのかと思うと、リリアは思わず口の端が緩んでしまった。でも、起き抜けの甘すぎる台詞は心臓が持たなそうなのでやめてもらいたい。
「リリアがあまりにも可愛かった。何だろう、もう今死んでも一つも悔いがないんだけど」
「えっ、新婚直後に未亡人フラグ立てるのはやめてよ?!」
相変わらずレオン団長は時々望ましくない感じのフラグを全力で立てようとしてくるから困る。
「今日はここで朝食にしよう。少し待っていて?」
そういえば、いつの間にか王都にはレーゼベルグ伯爵の本邸が用意されていた。
結婚式後のサプライズプレゼントとして案内されて驚いてしまった。
外見も内装も、リリアが選ぶよりリリア好みなのは相変わらずだった。
たぶん、そういうときのレオン団長は暴走してしまうから、リリアが自分で選びたいかもしれないなんて思ってもいないのだろう。そういうのも、リリアはそこまで気にしない方だから喧嘩にならないだけなのだ。
(そもそも、私が選ぶより私好みになるならもう任せておこう……選ぶのが楽しいみたいだし)
リリアのために何かを選ぶことがレオン団長の趣味なのだろう。
リリアはそう思うことにしている。
そして、二人の部屋は、この屋敷でもやはり執務室の奥にある。
どうしてそんな造りなのかと問い詰めてみたところ「え?ラーディ侯爵家も同じ作りだったけど」とレオン団長がいかにも不思議そうに首を傾げた。
執務室の奥が寝室というのは、将軍閣下である父親の影響らしい。「閉じ込められそうになったら、かくまってあげる」と言っていたリーナお母様の苦労が少し垣間見えた気がした。
「普通……夫婦それぞれの居室と寝室がつながっているんだよね?」
「でも、それって日中ほとんど別々に過ごしてるってことだよ?そういう貴族的な生活がいいの?リリアが望んでも、俺はそれだけは嫌だな」
そう言われると、リリアは困ってしまう。リリアだってレオン団長と一緒にいたいのだから。
そしてもう一つ不思議なことに、広々としたこの部屋の奥にはキッチンがある。1LDKのような造りだ。そのことについても聞いてみるとレオン団長は少し苦笑して答えた。
「広すぎるのも、落ち着かなくて……リリアが別の部屋が欲しいって言うなら、もちろんすぐ用意するけど。俺は出来ればこれくらいの生活スペースがいいな」
時々信じられないほどの宝石を買ったり、ドレスを買ったり、時には相談もなく屋敷をポンッと買ってしまうレオン団長なのに、そういった部分は実に庶民的だ。
庶民的で好ましいとリリアは思ってしまう。
特にこの部屋に誰かを通すことはないのだから、貴族的であることにこだわる必要もないのだろう。
「そっか……なんだか隠れ家みたいで素敵だね」
「そうだね。ここでリリアと永遠に同じ時を過ごしたい」
朝から発言が重いレオン団長が作ってくれたハムエッグと薫り高いクロワッサン。サラダまでついているところを見ると、すでに下準備は終わっていたようだ。
レオン団長はブラックで、リリアはカフェオレが入れられていた。
「わ……いきなり」
レオン団長はかがむとリリアを横抱きにしてソファーに運ぶ。
「今日は、徹底的にリリアを甘えさせるって決めてる」
さすがにこの部屋には、カナタもヒナギクも近づいてこない。レオン団長がそばにいるから。
「もっと甘えて欲しい。全部食べさせてあげようか?」
「じっ、自分で食べられるから!」
二人は一緒にいるだけで幸せだ。
そばにいるだけで幸せなのに、こんな風に過ごすことができるなんて。
「そうだね……私も今死んでも悔いがないかもしれない」
「リリアは俺より先に死んだらだめだよ?!」
思わずリリアまで、新婚早々最愛の妻を失った男が魔王になって君臨するフラグらしきものを立ててしまった。
もちろん二人にはそんな未来は待っていないけれど。




