副団長と伯爵令嬢
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リリアとレオンの結婚式を翌日に控えて朝から、完成したウェディングドレスの最終調整と打ち合わせのために、リリアの準備にアイリーン、パールも、マダムシシリーまでも来てくれた。
髪型は夜会巻きにしてもらうことにした。七瀬が仕事の時によくしていたように。
「きれいだわ……私、ぜったい竜騎士になってリリアを守るわね」
ルード副団長の指導により、最近ようやく飛竜に乗ることができるようになったらしいアイリーン。一方ルード副団長は、すでに実戦レベルで飛竜を乗りこなしているらしい。
ルード副団長はレオン団長に請われ、レーゼベルグ領の安定のためにそちらに常駐していることが多い。だが今だけはレオン団長とリリアの結婚式参加のために王都に戻ってきている。
リリアはアイリーンに、いつか涙をぬぐうために貸してもらった紫の小さな花が刺繍されたハンカチを返した。
「あら……これ、まだ持っていたの?捨てても良かったのに」
「ずっと借りたままでごめんなさい。でも、これアイリーン隊長が誰かにあげるために刺繍したものですよね?」
「ふふ……リリアにはお見通しなの?」
「――――渡そうとした相手って」
緋色の髪を今日は結い上げてドレスに身を包んだアイリーン。
「子爵家よりも格が高い伯爵家の次女として、叶わない願いだと何度も諦めようとしたんだけどね。せめて傍にいたくて周囲に大反対されても騎士学校入学までして。でも、今の関係だけで十分だから」
(――――ルード副団長もアイリーン隊長の事が好きだと思うのに)
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最終のドレスの調整を終えると、団長室にいるレオン団長に会いに行った。
「ああ、リリア?ドレスどうだった?明日まで完成品を見られずに、ほかの人間に先に見られてしまうなんて悔しいな」
「楽しみにしていてください。とてもすてきだったから…………」
「――――何かあった?顔に書いてある」
リリアは思わず先ほどのアイリーンの言葉が気になってしまいレオン団長に質問してしまった。
「ルード副団長は、アイリーン隊長の事どう思っているんでしょうか」
「ん?今も変わらず好きだと思うぞ」
「じゃ、両想い……」
「え。渾身の告白したらアイリーンにこっぴどく振られたって聞いたけどな?」
ずいぶんと話が食い違っている気がする。アイリーンはルード副団長に相手にされていないと言っていたのに?
差し出がましいと思いながらも、そのままにできずにリリアはルード副団長を探すことに決めた。
「ああ、たぶん飛竜と訓練しているんじゃないか」
「じゃあ、ロンに聞いたらわかるかな」
「……そうかもな」
なんとなくレオン団長が機嫌悪くなっていく。
「あの、レオン団長?」
「――――自分でもあまりの心の狭さに慄いてる。ほかの男の事少しでも考えるリリアにこんなに心が乱れるなんて。……俺も行っていい?」
その時、勢いよく団長室のドアが開き、赤い髪を少し乱れさせ、珍しく息を切らせたアイリーンが飛び込んできた。
「はあはあ……良かったここにまだいた!お願いだから、ルードに余計なこと言わないで!釘さしていなかったからリリアなら言ってしまいそうな気がして」
「アイリーン隊長?走ってきたんですか」
(ごめんなさい。余計なことしようとしていました。やっぱりそういうのは、お互いの問題だから外野がどうこうというのは良くなかったですよね)
「あの、でも……」
アイリーンは、リリアに近づくとその肩を掴んで一気にまくし立てた。少し興奮しているのか、その声は大きく……。
「でもじゃないの!私がずっとルードの事が好きだったなんて、たった一回の事に責任を感じてる人には重荷になるでしょう!あいつ、変なところで頭固いんだから」
しかし、リリアは衝撃の事実を叫ぶアイリーンの言葉よりも、団長室の入り口に立つ後ろの人影が気になってしまっていた。
アイリーンが伝えたくないなら、止めようと思ったのだが。
「……でも手遅れみたいです」
「――――え?」
開いたままの扉を前に、眉間のしわを深くしたルード副団長が立っていた。
アイリーンは振り返ることもできないようで、目を見開いたまま氷像のようになっている。
「あの……アイリーンが本気で走ってるの珍しいから何かトラブルでも起こったのかと。いや……なんていうか」
そのままアイリーンに近づいたルード副団長が、すごい勢いでアイリーンを横抱きにして言った。
「アイリーン、お前に話があるから一緒に来い!」
「――――えっ、ちょっとルード?!」
そのまま、大股歩きでルード副団長はアイリーンを連れて去って行ってしまった。
一緒に来いと言っても、抱えられたままのアイリーンに拒否権はない様だ。
「なんだか丸く収まりそうな気がするな」
「そうだね……」
明日の結婚式に、アイリーンがちゃんと来られるといいけど。あの勢いだと、少し難しいかもしれないとリリアは思った。
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