薬師から聖女へ秘密の贈り物
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眼鏡が似合うグレーの知的な印象の瞳。またまた同じ色のグレーの髪の毛。
前国王陛下の庶子である彼の第一印象は、インテリで冷たい印象だろう。
だが、瞳をキラキラさせながら研究のことを語る彼を見たら、その子どものような表情に、第一印象を意識づけられた全員がギャップを感じるに違いない。
(これが、ギャップ萌えというやつなのかな)
「やあ、リリア。よく来たね?ちゃんとレオンは置いてきた?」
「ついてくるって最後まで粘ってましたけどね」
「あははっ。あのレオンが、たった一人のためにそんなふうになるなんて、想像もしなかったな」
リリアとしては、木下くんの頃からそんな感じだったので、特に違和感はないのだが。
それでも、たしかに最初の頃の団員たちの動揺を思い出せば、そうなのかもしれない。
「ところでさ、あの銀の竜の素材。竜玉はさすがに国宝クラスだから陛下にあげちゃったけど、良かった?」
「レオン団長も全てテオドール様に任せると言ってましたから」
テオドールが難しい顔をしている。
「いや、あまり目立ちたくないんだけど。一国の国家予算に値するような素材を前陛下の庶子にとか、火種の元だからね?」
それでも、テオドールなら上手く立ちまわってくれる。それに、悪いことには使わないだろう。
「――――君たちの、直感で人を信頼する癖、やめたほうがいいよ?そういうの危ないから」
「テオドール様に限っては、大丈夫でしょう?」
暫し半眼で沈黙していたテオドールは、眼鏡の位置を直すと片方の口元だけ引き上げる。
「ま、有効活用させてもらうよ。魔術院のお偉方を黙らせてポーション研究を続けるためにね」
そう言うと、テオドールは手を差し出してリリアをエスコートする。
リリアの周りは、こんなふうに当たり前のように女性をエスコートする男性ばかりだが、リリア自身はまだそのことに慣れることができなかった。
「そう。特に銀のドラゴンの血は、闇の属性を強く持っているみたいだね」
「そうなんですね?それって珍しいですか?」
そのまま、リリアをソファーに座らせると、テオドールは奥の部屋から銀色に輝く液体を持ってきた。
「これ、たぶんリリアが触れたら魔法使えなくなるから気をつけて」
「……えっ?」
「レオン専用の試作品。僕も使ったら害があるのが目に見えてるから試せてないんだけど、たぶんレオンに使えばポーションとして効くと思う」
血管に直接送り届ける、あの時と同じ容器に入った銀色の液体。
レオン団長を回復する方法が存在した。
「すごいです!」
「まあ、素材の勝利だけどね」
「でも、なんでレオン団長に秘密なんですか?」
「あるってわかれば、無意識に無茶するだろうから」
レオン団長に対する信頼のなさ。たぶんテオドールも、いつも危険に飛び込んでしまうレオン団長を見ていたのだろう。
「それに、あと一つだけ」
テオドールがリリアに握らせたのは、銀色に輝くブローチだった。
「ドラゴンの素材で作ったから。リリアには物理防御の装備があまりないでしょ?これつけておくといい」
テオドールはなんでも作ることができるのだろうか?
リリアが尊敬を込めた目で見つめると、テオドールは薄っすら顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。
「こんなのレオンの前で渡したら、暴れかねないから」
「そうで……しょうか?」
「だって、この色は僕の色だからね?」
愛する人に自分の色をしたアクセサリーを渡すのは、いつもこれを見るたびに自分のことを思い出して欲しいという気持ちの現れだ。
それは、たぶん日本で言う「月が綺麗ですね」に近い誰もが知っている感覚で。
「テオドール様?」
「人妻になっても外したらいけないよ?お守りなんだから」
悪戯に成功したように明るく笑うテオドールは、やはり冷たい印象なんて感じさせない。
「ほら、マントの中につけておいて。きっとリリアを守ってくれるから」
テオドールがつけてくれたブローチは、リリアの胸元で控えめに輝いていた。
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