来訪者
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結婚を半年後に控え、リリアは忙しく過ごしていた。庶子とはいえ侯爵家、かつ魔獣の森を平定する英雄、そしてそのお相手は戦場の聖女。
結婚式は盛大でなければならないのだと、溜息混じりにレオン団長が言っていた。
(個人的には、親と親しい友人たちだけで祝ってもらえれば十分なんだけどな)
しかし、レーゼベルグ領と王都を行ったり来たりと忙しいレオン団長に比べれば、まだマシなのかも知れない。
「リリア――。俺もう、往復疲れたよ。乗せてやるとは言ったけどさぁ」
「ロンがいなかったら、とてもレオン団長は結婚式に間に合わないわ。本当に助かってる。ありがとう、ロン」
リリアは、感謝を込めてロンに魔力を渡す。魔力を吸うと、ロンは人間の姿になった。オレンジの髪と金の瞳がこちらを見つめる。
「――相変わらず、リリアの魔力は美味いんだよな。他の魔獣とかドラゴンにあげたらダメだからな?」
「ふふ。そうだねぇ?」
しかし、世界にはフラグが多すぎるから、約束できるかと言うと、そうも言い切れない。
その時、密かな気配をリリアは感じた。目の前に、今日も控えていたらしいカナタが現れてリリアを背後に庇う。
「――――ヒナギクか。まだ、帝国にこき使われているのか?」
「カナタのせいデ、帝国にも帰れないし追われるしで大変なんだかラ!」
目の前に現れたのは、以前リリアを眠らせてしまった妖艶な美女だった。しかし、何か違和感を覚える。
「ヒナギク。お前そろそろ、幻影解いたらどうだ。まずは、そこからだろ?」
「――――ふぅ。そうネ。今日は敵対しにきたわけじゃないカラ」
そう言うと、ヒナギクは幻影を解く。本当の姿は、思ったよりもずっと幼い。カナタよりさらに年下。三つ編みにした白い髪にルビーの瞳。十二、三歳くらいだろうか。
「ヒナギクよ?聖女様。私もカナタと同じ、元皇帝直属なの」
「ええと、リリアです。あの、ヒナギクさんは普通に話せたのね……」
「最初に気になるの、そこなの?!……まあ、幻影さえかけてなければ、普通に聞こえると思うけど。認識を阻害すると、声もちゃんと聞こえないみたいなの」
少しだけ、肩を震わせるヒナギク。カナタがリリアの前に跪く。
「こんなこと頼むなんて烏滸がましいってわかってるけど、ヒナギクも配下に加えてもらえないか。同じ里の出なんだ」
「強い人にしか仕えないってこと?」
「それもあるけど……こいつとは幼なじみの腐れ縁だから」
「いいわ。今日から私のそばにいればいい。レオン団長に伝えておくから」
ヒナギクが、それを聞いて焦ったようにリリアに詰め寄る。
「はっ?!あんたバカなの?」
「――――おい。たしかに甘々の甘ちゃんだが、俺たちの姫だぞ」
「リリアは甘くて危機管理意識ゼロだけど、バカじゃないんだぞ!」
ロンまで援護に入ったが、リリアは誉められているようには思えなかった。
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