結婚の証人は
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「リリア、よく似合うじゃないか」
王宮の控室には、当然のように閣下がいた。そのままエスコートの手を出すが、レオン団長が牽制する。
「勝手に人の婚約者に山ほどドレスを贈るのは、やめていただきたい。閣下」
「娘になるんだ。構わないだろう?」
なんだか将軍閣下は、レオン団長をいじって楽しんでいる気がする。
「まあ、それは良い。ところで、レーゼベルグ領はどうだった?」
「良い土地でしたね。何より広大です」
「お前くらいだろう。魔獣の森までも自分の領地だと言い切れるのは。ま、分かっていたから他の貴族たちの案でレオンがレーゼベルグを賜ることになっても黙って見ていたのだがな」
ピーコックブルーの瞳が交差する。レオン団長と閣下が確かに親子だと証明する、美しい色合い。
「――――レーゼベルグの森の維持に、飛竜は使い物になりそうか?」
「まあ、今すぐに使いこなせるのは俺とルードぐらいでしょう。黄金の竜ならリリアも乗れるでしょうが?」
「お前は……。いや、陛下がいらした。この辺りにしておくか」
相変わらず、威厳を醸し出して陛下が現れる。レオン団長と将軍閣下は臣下の礼を、リリアは淑女の礼をして迎える。
「顔を上げてくれ。まずはレオン、レーゼベルグの銀の竜、無事に解決ご苦労だったな。テオドールから銀の竜玉が届いた。これは、国宝レベルだな。褒美には何を取らせようか?」
「……そうですね。そろそろリリアと俺の結婚を認めていただきましょうか」
「――――まあ、レオンの母の件がある。結婚は早い方が良いだろうな」
存外に、リリアが闇魔法をもつ子どもを得たとき、聖女の力が消える可能性を告げる陛下。
「それから、レーゼベルグの自治を認めていただきますよ」
「レオン……流石に不敬だぞ」
珍しく焦りを滲ませた閣下が間に入る。
「いや、構わない。どちらにしても、レーゼベルグは魔獣と帝国との防衛の要。領主に力を持たせない限り、王国の安寧は維持できない。……辺境伯の件、考えておこう」
「ありがたき幸せ」
その後にリリアに向けて陛下は穏やかな目を向けた。
「聖女リリア、其方にも褒美を取らせる必要がある。何なりと申すが良い」
「……リーナお母様を、呼び戻してくださいませんか?」
「リリア!?」
レオン団長が、止めに入る。聖女剥奪は、王国では断罪に近いものがあると今のリリアは知っている。
「私の思う聖女は、光魔法を使うだけの存在ではありません。それに、将軍閣下は、今も独り身を貫いています」
「そうだな。だが、民衆の聖女信仰は深い。しかし、リリアの褒美としてならそれも良いかもしれん。人々はますます聖女の慈愛に傾倒するだろうが」
「それに、私自身もずっと聖女でいられるかわからないですから?」
リリアは、密かな抵抗をしてみる。でも、そうなった時には、王国を守護する闇魔法の使い手が生まれるのだ。王国にとって悪い話ではないだろう。
国王陛下は、楽しそうに笑う。
「まあ、俺もリーナのことは気になっていた。動くなら確かに今だな。あとは、飛竜か……」
「――――まだ、実用には遠く」
「ルードは飛んだと耳にしたぞ?まあ、お前は一人でも一騎士団に相当する戦力だ。王国と敵対するなんて考えるなよ?俺も無駄な戦いは望まない」
たぶん陛下は、すでにレオン団長が望むことを理解しているのだろう。為政者として、全てを計算した上で答えを出しているのだ。
(陛下は敵にしたくない)
リリアも、多くの貴族を目にしているが、国王陛下は底知れない。
「結婚は、半年後でどうだ?リリアも17歳になる。まあ、妥当なところだろう。公示は将軍に任せるか」
「陛下の仰せのままに」
異論はないけれど、リリアの意見はないものとして話が進む、当事者なのに。それがこの世界の当たり前なのだと改めて気付かされる。
「リリア……」
「レオン団長?」
「陛下と閣下に証人になって頂こう」
そうだった。レオン団長は、そういう人だった。いつだって、リリアのことを一番に考えて、リリアの想いを大切にしてくれる。レオン団長は、リリアの前に跪く。
「これから先、俺が跪くのは、国王陛下と妻の前だけだ。愛しいリリア、妻として生涯ともにいて欲しい」
「――――っ。はい、喜んで」
国王陛下が、珍しく心底楽しそうに笑う。陛下の後ろの将軍閣下はこめかみを押さえてしまったが。たぶん、レオン団長のあまりの不敬に頭痛がするのだろう。
「俺への忠誠も含められれば、証人になる以外の選択はないな。ははっ、俺が証人だ」
「それでは、父上。陛下を証人として認められた婚姻です。公示をお願いします」
「ああ、心得た。お前たちの幸せを願っている」
今は、いつもの険しさを感じないピーコックブルーの瞳が、リリアを見つめる。
近い未来に、父となる人。幸せになって欲しいとリリアは願う。
「リリア、幸せにする」
「私もレオンを幸せにするから」
七瀬は心のどこかで、木下くんとこんなふうに笑い合う日が来ることを願っていた。あのとき叶わなかったその願いは、予想もしなかった形で現実になって。
七瀬が笑顔で木下くんを見つめる。その夜リリアは、二人が幸せそうに手を繋いで歩いていく夢を見た。
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