竜よりも軽やかに
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騎士団の斥候からレーゼベルグの森、南端。深い深い森の入り口で、ロンらしき竜の目撃情報があったと連絡があった。
早速、レオン団長とリリアは現場に駆けつける。当たり前のようにカナタも付いてきた。
背の高い木々が薙ぎ倒され、広い空き地ができているその空間から、激しい戦闘があったことが見てとれる。
「ロン!どこにいるの?!」
リリアは思わず大声で叫んだ。
「リリア、少し高いところに登ろうか」
「え?」
レオン団長の背中に再び羽のような黒い魔力の塊。リリアは横抱きにされたかと思うと、その直後強い浮遊感を感じる。
「ひえ?!」
気づくとお姫様抱っこされた状態で、高い木のてっぺん近い枝にいた。
最近、レオン団長はチート能力の出し惜しみを止めたようだ。人間も辞めないでもらいたいと、少しだけリリアは不安に思う。
そしてもう一人、なぜかレオン団長についてくるカナタが少し嫌そうに話しかける。
「我が主は人間辞めるのですか?」
「いや、リリアがいる限り、俺は人間を辞めない」
(なんだか、全世界の平和が私にかかっているみたいな話になってない?!)
「そうですか。じゃあ、姫の護衛ももっと真面目にやらないとですね」
飄々と言うカナタ。敵である時は本当に恐ろしいが、味方になれば頼もしい。
「ありがとう。頼りにしてますカナタさん」
「……姫は簡単に俺なんか信じたらダメですよ?」
強い者にだけ従うと言っていたカナタだが、それだけではないのではないかとリリアは感じている。
「カナタさんが危機に瀕すれば、私だってカナタさんを助けたいくらいにはもう信頼してしまっているんだけど?」
「姫。そういうの、本当に困るんだけど」
カナタがモゴモゴと何かつぶやいている。
それを見ていたレオン団長が、リリアを抱きしめる力を少し強くする。
「側にさえ居てくれるなら、俺が守る、けどな?」
「レオン団長。私にも守らせてね」
それを見ていたカナタは、胸をギュウと押さえる。
「ん?なんだこれ。今……何考えた俺は?」
胸を押さえたままカナタがつぶやいた。風が強いから、その声は誰にも届かないが。
遠くまで見渡すと、森の奥にもいくつも木々が倒されてできた空間ができていた。
(ロンは無事なの?)
「あれ?もしかして」
リリアの不安が強くなっていく中、レオン団長が何かに気づいたようにつぶやく。
「なあ、リリア。その逆鱗光ってる、そのまま魔力注いでみて?」
「え?うん、わかった」
リリアが魔力を注ぐと、細い光が森の一点を示す。
「もっ、もしかしてロンの?!」
「恐らく、行こうか?しっかり掴まってて」
とん、とんっ、フワリ。
「ひゃあああ!」
レオン団長はリリアを抱き抱えたまま、枝から枝を軽やかに渡る。
(これ、たぶん竜に乗る必要ないよ!!)
目的地にたどり着くまで、リリアはできるだけ悲鳴を堪えて浮遊感に耐えた。
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