黒装束の男
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あの後、レオン団長を起こしたら珍しくすごく寝ぼけていた。
起き抜けに抱きつかれて剥がすのが大変だった。「ごめん!普段は、熟睡しないから寝ぼけた!」なんて言って焦っているレオン団長が可愛かった。
(熟睡しないのは問題だわ。また子守唄を歌ってあげよう)
レーゼベルグに着いたら、こんな風に穏やかな時間を過ごすことはできないのだろうか。戦いの予感がすぐ近くに迫っているような気がする。
そんなことを思いながらも、相変わらず飛竜に守られる快適な旅。
レオン団長は、反省したのか一緒の天幕で寝ようと言わなくなった。何人かの騎士たちが交代で番をしながら夜を過ごす。
それから数日は何事もなく過ぎていった。
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「…………?」
あと少しで次の街に着くという時に、リリアは誰かとすれ違った。たしかに記憶にあるのに、思い出せないような焦燥感とともに。
レオン団長が抜剣してすれ違った誰かに斬りかかるのと、リリアが焦燥感を感じたのはほぼ同時のことだった。
――――ギィンッ
剣と剣が凌ぎ合う音に、騎士団員たちが緊張とともに剣に手をかける。
「元気になってくれてうれしいよ。これでまた戦えるな」
「貴様、こんなところまで……誰の差し金だ」
誰だかわからなかったことが不思議なくらいに、朧げだった輪郭が急激にはっきりしてくる。
(黒装束の傭兵の男……!)
急に焦燥感の正体がハッキリしていく。霧が晴れていくような感覚とともにレオン団長を瀕死に追い込んだ男が目の前に現れた。
「一人ではないのか。幻覚魔法をかけようとしたな」
「お前にはやはり効かないか。まあ、そこの聖女様も違和感を感じるだけ筋がいい」
騎士団員たちが慌てた様子で近寄ろうとする。
「手を出すな」
それを制したレオン団長が、剣を黒装束の傭兵に向ける。
リリアは、レオン団長の足手纏いにならないよう、後ろにジリジリと下がっていく。その瞬間、甘い香りが鼻腔を満たす。
「――――っ」
リリアも黄金の光とともに身体強化を発動し抜剣する。しかし、切りかかったはずが、霞を切ったかのように手応えがない。
その瞬間から痺れるような感覚とともに、リリアの体から自由が奪われる。
「また会えたわネ。落とし子サン?」
それでもなんとか振り返ると、夢の中にいた妖艶な美女がこちらに微笑んでいる。
レオン団長が、悲痛な表情で手を伸ばしたのは幻だったのだろうか。そこでリリアの意識は潰えてしまった。
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