二人きりの天幕と子守唄
ご覧いただきありがとうございます。
✳︎ ✳︎ ✳︎
飛竜が時々急下降しては、リリアを狙う魔獣を倒していく。おかげで平和だが、リリアの移動に飛竜がついてきてしまうため街に近づくことができない。
「流石に住人たちが大騒ぎになるだろうな」
「ですよね……」
そういうと、レオン団長は、自ら天幕の準備を始めた。
「んー。アイリーンたちは、街に入らせたから俺たちはここで泊まりかな」
団員たちも天幕で構わないと言っていたのだが、荷馬車もあるし街の近くで本格的な天幕を張ったりしたら、どこかの国が攻めてきたとでも噂されそうだ。
「同じ、天幕で……?」
「リリアを一人にはできない。それはわかるだろ」
(あ、これ不寝番する気だ)
レオン団長は、たぶん一晩中起きて警護にあたろうとしている。だから、こんな平気な顔で同じ天幕とか言えるのだ。
「飛竜もいるから、先寝てください。夜中に起こすので交代しましょう」
「……え?」
「少し寝た方がいいですよ。見てる限りちゃんと寝てないみたいだから」
「たしかに遠征中はあまり寝ないけど」
リリアはドンッとレオン団長を寝床に押し倒した。
「さっさと寝てください。夜中には起こすんですからね?」
「いや、あの……リリアさん?」
何故かレオン団長が目を逸らしている。顔は見えないが耳が赤い。
よく考えたらこの構図は良くないのではないだろうか。これではまるで……。
「――――ごめんなさい!!」
リリアは勢いよくレオン団長から距離をとった。
「いや、分かってはいるんだけど……。ふふっ積極的だな?」
分かっているなら揶揄わないでほしい。でも、今のはリリアが悪かったかもしれない。
「本当に寝れないから、先に寝て?」
「……」
「リリア?」
リリアはゆっくりと、起きあがろうとしているレオン団長に近づいてさらりと髪の毛を指でとかした。
「……目をつぶって」
「リリア?」
「ほら、早く」
薄暗い天幕の灯りで、レオン団長の長いまつ毛が影を作る。
髪の毛をとかしながら、リリアが柔らかな声で歌う。それはこの世界の誰も知らない、どこか遠い異国の言葉の子守唄。
たぶん今は、リリアとレオン団長だけがその歌の意味を知っている。
「……なんだか寝顔は幼いんだよね」
そっと髪の毛を撫でながら、眠ってしまったレオン団長の顔をリリアは交代の時間が来るまで眺めていた。
最後までご覧頂きありがとうございました。
『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマ、感想などいただけると、とてもうれしいです。




