飛竜の異変
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辺境の地というだけあって、遠征は長期間に及ぶ。銀色のドラゴンが、人々に危害を加えているという続報は入ってきていないが、リリアは領民たちが心配だった。
(それに一足先に行ったロンの事も心配だよ)
そんなことを思っていると、レオン団長がリリアの馬の横に並んで小さな袋を差し出してきた。
「さっき見てただろ。買っておいてもらったから」
「……カステラみたいなやつ!」
袋はまだ温かい。さっき一瞬しか見ていなかったつもりなのに、なんでレオン団長はリリアが欲しがっているものがわかったのだろう。
「ふふ。リリアの好きな食べ物、変わってないんだから大抵わかるよ」
「うれしいです」
早速、ひとつ口に入れてみるとメープルシロップのような甘みがあってしっとりフワフワしていて予想通りのおいしさだった。
「レオン団長もおひとつどうですか?」
「じゃ、一つ口に入れて」
そういうと、レオン団長が馬を隣に寄せてきた。馬同士の体がすり寄るほど近づいても、普段気難しいレオン団長の愛馬はリリアの白い愛馬を嫌がるそぶりは見せない。
リリアは手を伸ばしてこちらに体を近づけるレオン団長の口にカステラを放り込んだ。
「ははっ。挑戦する事3回目。やっと、リリアから食べさせてもらえたな」
なんだかレオン団長がうれしそうだ。レオン団長がうれしそうにしていると、リリアもうれしくなる。
(その逆もそうなのかもね。私も、うれしいことを見つけてもいいのかもしれない)
その時、緊急事態を知らせる笛の音があたりから響いた。身体強化を発動すると遠くの空に何頭もの飛竜の姿が見えてきた。
飛竜たちはリリアに向かって一直線に飛んでくる。魔獣は基本的に光魔法の使い手を一番に狙ってくるのだ。
しかし、レオン団長が魔法を発動しようとした直前に飛竜たちは地に降り立ち羽をたたんで平伏した。
「……え?」
飛竜は亜種とはいえ竜族だ。プライドが高く、人よりも下であることを良しとしない。
しかし、飛竜が羽をたたんで平伏するのが服従の証ということもあまりに有名だった。
「……うーん。そういえば気になっていたんだけど」
「なんですか、レオン団長」
「そのブレスレットについている飾り。もしかしてドラゴンの逆鱗じゃないのかな」
そう、ロンがくれた金色に輝く逆鱗は、マダムシシリーにお願いしてすぐにブレスレットに加工してもらった。
マダムシシリーが一瞬真顔になって、まじまじと見ていたのが気になったが、すぐに笑顔になって加工してくれたから大丈夫だったのだと思いたい。
「ロンが別れる前にくれたんです」
「あいつ……油断も隙も無いな。やっぱりステーキにしてしまうんだった」
「なに言ってるんですか。可愛いロンに対して」
すっと目を細めたレオン団長。なんだか、この逆鱗には深い意味があったのかもしれない。
「言いたくないんだけど、逆鱗って一生に一枚しか生えないから、ドラゴンは番に渡すんだ」
「ええ?!そんな大事なものだったんですか?!」
「それを持っている番は、ドラゴンの一番大事なもの」
「つ……つまり飛竜が平伏しているのは」
レオン団長のため息がいつも以上に長い。
「は――――。俺のリリアが次々といろんな男を虜にしていく」
「虜にしてませんし。そもそもロンは男じゃないですよ?」
「ロンも雄だよ。それにリリアは知らないかもしれないけど、上位竜は……」
言いかけておいて、急に頭を掻きむしったレオン団長はそれきり黙ってしまった。
(上位竜は、なんなんだろう)
その疑問は後日解決してしまうのだが、それは後のお話で。
リリア達一行の上を警備するように飛竜たちが旋回している。飛竜たちを説得しようと試みたが、言葉が通じないためしかたなしにそのまま旅は続いた。
レオン「ロンはやたらリリアに懐いていると思ってたけど、まさか逆鱗を渡すほどとは……」
アイリーン「のんびりしてると、とられちゃうわね」
レオン「うぐぐ」
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