辺境の地への出立
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「リリア、行こうか」
「はい。でも、この荷物?」
いつもの遠征とは大違いで、馬車で大量の荷物が運ばれて、ちょっとしたキャラバンのようだ。
「これでも少ないくらいだよ……やはり、貴族には貴族の最低限必要な建前のようなものがあるから」
「なるほど?」
その辺りは、ジル大神官が「聖女になれば婚姻は貴族が相手なのだから」と口を酸っぱくして言っていた気がしなくもない。
「見送りがこんなに大層なのも、貴族の矜持ってやつなの?」
「……」
道路の端には見送りのために、人が溢れていた。出店まで出ている。
(あっ、あのカステラみたいなの美味しそう)
チラリと出店の品揃えを見てしまっていたリリアに、傍から声がかかる。
「いや……戦場の聖女様人気だよ。少しは自覚した方がいい。リリア」
ルード副団長は、仕事の合間を縫って見送りに来てくれたらしい。
王都に残る第二騎士団の指揮のため、騎士団長代理に指名されたルード副団長は一緒に来られないのだ。
(ルード副団長なしで大丈夫かしら)
たしかにレオン騎士団長は、誰よりも強い。それでも、第二騎士団を陰で支えているのは間違いなくルード副団長だった。
「王都の守りは任せた。ルード」
「ああ。……ちゃんと無事に帰ってこいよ?あまり無茶をするな」
それからルード副団長は、先ほどからいつもと違い何故か静かなアイリーンに近づいて行った。
「アイリーン」
「ルード、わかったわ!無茶しないように気をつけるわね」
ルード副団長が、苦笑するのが見えた。
「まだ何も言っていないだろ。……小さい頃から一緒だったからこんなに長期間離れるの、初めてだな」
それを聞いたアイリーンの瞳は、ほんの少し潤んでいるように見える。
「ルードこそ。私と組んでいないと弱いんだから、無茶しちゃダメよ」
「アイリーンも、戦いの最中に隙をフォローする人間がいないんだから、ちゃんと防御を意識しろよ」
たぶんルード副団長は、アイリーンが心配で見送りに来たのだとリリアは思う。
2人は幼なじみなのだと、以前アイリーンが言っていた。きっと、2人にしかわからない絆があるのだろう。
――リリアと、レオン団長のように。
リリアは通常の紺色の騎士服に、何故か陛下から聖女任命の祝いにと贈られた、白いマントを身につけている。
『それ、物理攻撃を防御する魔法が付与されてるな』
マントを頂いた時に、レオン団長に恐ろしいことを言われた。いったいどれだけの価値があるのか?と空恐ろしくなったけれど。
「騎士服にそのマント。似合うな?本当に戦場の聖女みたいだ」
「ありがとう。レオン団長のこと助けに行ってあげるよ」
レオン団長は、少し遠くを見た後に複雑そうに笑う。その瞳に今、映っているのがどんな感情なのか。リリアには分からなかった。
「……流石に、戦場は見せたくないな」
――――先の戦争での救国の英雄
レオン団長がそう呼ばれているのをリリアだって聞いたことがある。だが、その意味を深く考えたことはあっただろうか。
リリアには、たぶん人と戦う覚悟は十分にはない。それでも、レオン団長といるために、聖女になってしまったために火の粉が降りかかるのなら。
(レオン団長を守るためなら、どこまでだってついていく。その覚悟ならあるんだよ)
そんなリリアの覚悟を察してか、レオン団長が優しく笑ってリリアの頭をクシャッと撫でる。
騎士団が魔獣ばかり相手にしていられるのは、先の戦争で帝国と和平が結ばれたから。
そこには、誰よりも敵を倒した最恐の騎士がいたと、話には聞いている。
レオン団長が、木下くんと違う一面を見せるのは、きっとその経験が大きいのだろう。
(あなたがそんなに傷つく前に、そばにいたかった)
リリアの前を騎乗して進みながら観衆に手を振るレオン団長は、自信に満ち溢れている。誰もがそう評価するだろう。
そんなレオン団長に並び立つためにリリアはひとつの覚悟を決める。手始めに俯くのをやめて、戦場の聖女の名にふさわしく、微笑みながら観衆に手を振ることにした。
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