父と母と婚約者
ご覧いただきありがとうございます。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「会いたかった」
「え?一昨日会ったばかりですよね」
いきなり抱きしめ、そんなことを言われるとリリアは戸惑ってしまう。
「せっかく婚約したのに。毎日そばにいたい」
婚約しても、してなくてもレオン団長がリリアに囁く言葉にはあまり変わりがないようだ。
「リリアを甘やかして癒されたいのに、状況がそれを許さないんだ」
「……出立の日、決まったんですね」
「ああ……。おそらく厳しい戦いになるだろう。王都がリリアを留守番させても、安全な場所なら良いのに」
やはり、レーゼベルグにリリアを連れて行くと迷いなく決めたのは、王都に置いていくよりは安全だろうという判断があったようだ。
(そんなことじゃなく。ただ、ついてきて欲しいと言ってもらえたら……もっと嬉しいのに)
リリアのことをいつも一番に考えてくれるレオン団長。それでもリリアもいつもそばにいたいという気持ちは、多分負けてはいない。
「でも、婚約したのだから、レーゼベルグは私にとっても故郷になる場所ですよ?」
「そう、だな。俺たちの故郷だ」
レオン団長が、抱きしめていた腕を離す。後ろに誰かいたようだ。
「……お待たせしてすみません」
「リリア!」
「お、お母さん。それにお父さんも!」
レオン団長の後ろから現れたのは、リリアの父と母だった。なんてところを見られたのか。
「大事にされているのね?」
リリアと同じ瞳の色をした母は、ウインクして見せる。若くていつまでも可愛らしい母だ。
「リリアは、やはりお母さんに似ているな。」
「ふふ。主人のお母様にはもっと似ているのよ」
「そうなんですね。やはりお美しい方なのでしょう」
「ちょ、ちょっと。レオン団長?!」
騎士団に入団してから、手紙のやり取りは続いていたが、リリアが父と母に出会うのは久しぶりだった。
「リリア、元気そうだな」
「お父さん」
「レオンさんは、私たちのことを心配して、何度も会いに来てくれてたのよ。住む場所も安全なところを用意してもらっているわ」
振り返ると、レオン団長が微笑んでいた。でも、その表情には緊張も感じられた。
(なんで緊張しているんだろ?)
リリアがそう思っていると、急にレオン団長が父と母に跪いた。
「…………娘さんを、俺にください」
「――――っ」
レオン団長は貴族で、しかも騎士団長。平民であるリリアの父と母に跪くなんてあり得ないのに。
「あらあら。もちろんよ?ねえあなた」
「ああ……」
なんだか父が少しだけ泣いている。リリアは父が泣くのを見るのは、初めてだった。
「リリアを必ず幸せにしてみせます」
「――――っ」
✳︎ ✳︎ ✳︎
「はあ」
七瀬は木下くんの部屋で読んでいた、ラノベを閉じてため息をついた。
「どうしたの七瀬」
ゲームをしていた手を止めて、木下くんが不思議そうに尋ねてくる。
「騎士団長が、主人公の両親に『娘さんを俺に下さい』って場面」
「うん」
「そのあと『必ずしあわせにしてみせます』だよ?ベタだけど憧れちゃう」
「そっか。……じゃあ言わないとな」
「え?」
すぐにまた、ゲームを再開した木下くんだったが、何故かさっきよりも少し目の端を赤くして真剣な表情で遊び始めた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
父と母は、王都に用意された家に住むことになった。2人が帰って行ったあと、急に静かになった部屋でレオン団長が微笑む。
「聖女と騎士団長の両親だ。狙われると困るから、警備もきちんとしている。安心して?」
「ありがとう…………あの」
「ん?」
「さっきの言葉って」
少しだけ赤らんだ耳。珍しくリリアから視線を逸らしたレオン団長が下を向いたまま言った。
「ああいうのに憧れるって、言ってたから」
「良く、覚えていたね」
あんなの、たくさんあった会話の中の、ほんの一コマだ。
「はあっ。リリアはわかっていない。七瀬やリリアとした会話なら、全て覚えている自信がある」
「そっか。木下くんも、レオン団長もほんと記憶力凄かったもんね」
(神経衰弱とか、一度も勝った事なかったなぁ)
なんだかレオン団長がジト目になっている。
「神経衰弱とかそういうのと一緒にするなよ。あと、こんな時くらい、レオンって呼んでくれないかな」
「レオン団長、考えている事なんでわかっ」
――――ちゅっ
「いいよ。もっとレオン団長って呼んでごらん」
「なんで急に、レオンだ……」
――――ちゅっ
「――っ――――っレオンッ」
ちゃんとそう呼んだのに、結局レオン団長はリリアにもう一度口づけした。
最後までご覧いただきありがとうございました。
『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマしていただけるととても嬉しいです。




