新天地と別れ
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「「「婚約おめでとう!」」」
レオン団長は、頭からシャンパンをジャバジャバかけられて騎士団員たちにもみくちゃにされていた。
みんな楽しそうに笑っている。ロンも参加して、シャンパンを飲みながらご馳走を堪能している。
「「リリア、おめでとう」」
「アイリーン隊長、パール。ありがとうございます。
「これ、私からよ」
アイリーンは赤いリボンのかけられた箱を手渡してきた。軽いがとてもかわいらしく包装されている。
「今、開けてみてもいいですか」
「もちろんいいわ」
しかし、開けてみて中身を見たリリアはすぐに箱を慌てて閉める羽目になった。
そこに入っていたのは、かわいらしいベビードールとピーコックブルーの下着。
いつ着るというのか??
「ふふ。女は下着から美しくなるのよ」
「もう、アイリーン隊長。リリアを困らせて楽しんではだめですよ」
パールがくれた箱はやはりかわいらしく、開けてみれば可愛い小瓶に自然な香りの香水が入っていた。
「なるほど。下着のかわりにつける香水ってやつね」
「「違います!!」」
(うん。優しい甘さの柑橘系の中にフローラルが少し混ざっていて、普段から使うことができそうだわ)
「ありがとうございます。2人とも」
「喜んでもらえて良かったわ」
そんな楽しい集まりに、緊迫した様子の伝令役の騎士が飛び込んできた。
「どうした。何があった」
シャンパンが髪の毛から滴ったままのレオン団長が、まじめな顔で伝令に声をかける。
一瞬だけ唖然とした様子だった伝令役だったがすぐに気持ちを立て直したのか、伝達内容を伝え始める。
「はっ。レーゼベルグの森から銀色のドラゴンが現れたとの情報です」
「……領地に影響は」
「建物が破壊されたそうですが、今のところ人的被害はないそうです」
不敵に笑ったレオン団長だったが、話の内容は深刻なものだった。
「その他に報告はあるか」
「……以上であります」
「ご苦労。下がって休むことを許可する」
楽しい雰囲気は一転してしまった。銀色のドラゴンなんて上位種に間違いない。
「お開きだな。各自帰宅し次の指令を待つように」
「レオン団長……」
「リリア、残念だけど。陛下と閣下に報告してくる」
「わかった」
しかし、その時ロンが黙ったままで何か思いつめた様子でいることに、リリアは気が付かなかった。
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家に帰りつくと、部屋着に着替える。ベビードールと下着は戸棚の奥にしまい込んだ。
「レーゼベルグに早々に行くことになりそうだよ。ロンも来るでしょ?……ロン?」
気が付くと一緒に帰って来ていたはずのロンの姿が見当たらない。外から羽ばたきの音が聞こえてリリアは慌てて表に飛び出した。
外には元の巨大なドラゴンに姿を変えたロンがいた。オレンジ色の体躯は所々キラキラ輝く部分もあって金色にも見える。
「ロン!ねえ、どうしたの?!」
「ごめん。俺はいかないといけなくなった」
「どういうこと?!」
「レーゼベルグの森はもともと俺の縄張りだ。奴らの勝手にさせるわけにいかない」
リリアは、ロンに駆け寄った。冷たい体は、いつもと同じ手触りなのに。大きくなった体はまるで違う生き物のようだ。
「ロン……私たちと一緒に行くのではだめなの?」
「俺が行った方が速い。一足先にある程度片づけておくから安心していいよ」
リリアはありったけの魔力をロンに注ぎ込んだ。オレンジ色の体は益々輝いて黄金に見えてくる。
「ありがとう。リリアの無事を祈っているから。これ、持っていて」
ロンがくれたのは、キラキラ光る一枚の鱗だった。
「これって……」
「ドラゴンの逆鱗。これ、一生に1枚しか生えないんだからなくすなよ」
たぶん、ロンがくれたのは物凄く大事なものなのだと、リリアはひしひしと感じた。すぐにポシェットの中に大切にしまい込む。すぐにでもマダムシシリーにブレスレットに加工してもらおうと心に決めた。
――――バサリ
ロンが羽ばたきながら空の彼方に消えていく。
(でも、行き先が同じなら。また必ず会えるよね)
リリアは、少し魔力を使いすぎてクラクラする体を支えながら、長い間、空の彼方を見つめていた。
レッド「会員番号13番は先に旅立ってしまったか」
ブルー「奴はよきライバルだった」
グリーン「指令が降りるまでまた特訓だ!」
ちなみにレッドはすでに作中に別の名前で登場しています。
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