恋の駆け引き?
ご覧いただきありがとうございます。
✳︎ ✳︎ ✳︎
あの後、まだまだ夜の作戦会議が続いていまいそうだったので、レオン団長を引っ張って夜の街をあとにした。
珍しくレオン団長は、無言のままでいる。酔いは醒めてきたのだろうか。
団長室の奥にある、レオン団長の私室の鍵。ここで使うとは、思わなかった。
ガチャッと鍵が開く音が鳴り、私室のドアが開く。
「はい、お水」
リリアから受け取った、冷たい水を一息に飲むと、レオン団長が切なげな顔でつぶやいた。
「リリア、伯爵領に一緒に来て欲しいって言ったことに返事はくれないのかな」
当たり前のことだと思っているのに、何故か通じていないことにリリアはもどかしさを感じてしまう。
「レオン団長。私はダメって言われてもついていくつもりでしたよ」
「うん、きっとそう答えてくれるって想像はしてた。でも……」
こんな時に不安をそのままにしてはいけない。言葉にしなければ伝わらないことを、リリアは最近学んだ。
正直になるのは、いつも少し勇気がいるけれど。
「連れて行って、下さい。そばに居たいです」
「……ありがとう。大丈夫だと言い聞かせようとしても、断られたらどうしようかと思っていた」
自然に2人の距離は近づいて、どちらともなくレオン団長はかがんで、リリアは背伸びをする。
(……あれ?この状況って)
夜遅くに未婚の男女が2人でいる。その事実に今になって気がついてしまったリリアの心臓がドクドクと音を立てる。
今夜の口づけは、未だお酒の香りが残っていた。その唇も熱くて、リリアは熱を帯びたようにクラクラする。
「今夜は楽しかった……。遅くまで付き合わせてごめんな?夜道を一人で帰らせるわけにいかないから、ここに泊まっていくといい」
「え?!」
「大丈夫。俺は団長室のソファーで寝るから」
「それは……ダメです。ただでさえ、眠りが浅いって言ってたのに。私がソファーで寝るのでちゃんとベッドで寝てください」
「泊まるって結論出しておいてそれなんだ。……リリアはまだ、なんだかんだ言って幼いな」
レオン団長が、いつもの顔で困ったように笑うからリリアは緊張を少し緩めた。
確かに七瀬の記憶があっても、不思議なもので精神年齢は16歳のものらしい。ただ、本やテレビで見たような記録として頭の中に残っているだけで。
七瀬だったことで、確かな形で残っているのは、木下くんへの恋慕だけ。それすら、レオン団長を思う気持ちに上書きされていく。
「ごめん。俺のわがままだったよ。女子寮までちゃんと送っていくから。夜の散歩に付き合ってくれる?」
レオン団長の言いたいことを、七瀬が少しだけ教えてくれる気がする。でも、七瀬にだって恋愛の経験があるわけじゃない。
レオン団長が離れていくので、その分だけリリアが近寄ると、レオン団長の肩が震えた。
「……レオン団長がよく眠れるなら。一緒に、寝ましょうか」
「うん?」
「眠れるように、そばに居てあげますよ」
「うん?…………自制心を試されているのか」
「え?」
「いや、今夜はやっぱり送っていくよ。楽しかったから良い夢が見られる気がする」
差し伸べられた手を迷うことなく握り締める。いつのまにか、七瀬と木下くんの距離よりも近づいたような、逆に遠くなったような2人の関係。
女子寮の前で、リリアはレオン団長の頬に口づけをして「またね」と言う。
何故か少しぼんやりとした表情のレオン団長が頬に手を当てたまま「ああ」とだけ返事をくれた。
あくる朝、ロンがリリアの部屋を訪れ、心底残念なものを見るような顔をしてため息をついた。
「レオンのやつ、結局一睡もしてないんだぜ。あんまり酷なことするなよリリア」
それについては、あまり心当たりのないリリアは、「良い夢が見られそうって言ってたのに?」と呟いた。
ロン「あの顔。今日もレオンはリリアから中途半端にお預けくらったみたいだな。お、土産買ってきてくれてる。ウヒョー」
ご覧いただきありがとうございました。
『☆☆☆☆☆』での評価やブクマ、感想いただけるととても嬉しいです。




