夜の作戦会議
アイリーンとルード副団長も参戦します。
✳︎ ✳︎ ✳︎
店内は落ち着いた装飾とオレンジ色のランプでいかにも大人な雰囲気だった。
しかし、見るからにレオン団長の様子は機嫌が悪くなっている。
「なんでお前らがいる」
「あら、偶然ね?」
そこにはアイリーンと、ルード副団長がいた。
「2人一緒なんて珍しいですね?」
リリアは、訓練や仕事で必要な時以外に2人が一緒にいるのは珍しく感じた。
一緒にいる時は、本当に仲が良く見えるのに、その他の場面ではアイリーンとルード副団長はあまりともにいるところは見ない。
「ふふ。昔はよく2人で来たりもしたんだけどね」
「…………今日は貸切にしてもらってるから、少し作戦会議しよう」
作戦会議。かっこいい響きだ。
「あの、私も参加して良いんですか?」
「いや、むしろリリアのことだから」
「さ、リリアもいらっしゃい?まだ、お酒は飲めなかったわね。ここのジュース、おすすめなのよ」
リリアはアイリーンの隣に、まだ少し不満げなレオン団長はルード副団長の隣に座った。
「まあ、飲め。レオン」
ルード副団長が、レオン団長に勧めたお酒は、見るからにアルコール度数が高そうだ。
リリアは、ココナッツみたいな風味に、フルーツがたくさん飾り付けられているジュースを飲みはじめた。
(うん、美味しい。少し残念だけど)
リリアも本当はお酒を飲みたい。七瀬の頃から仕事後の一杯のために頑張っていたところがある。
それにこの世界では、16歳はもう立派な大人だ。
(だけど、やっぱり元日本人としての倫理観というか、七瀬が許してくれない)
ルード副団長は、珍しく酔っているようだ。アイリーンがリリアの耳元で内緒話をする。
「ルードったら、忙しすぎて限界みたいだから、少し誘ってあげたの。あまり、不満を言わずに溜め込むタイプだから」
「アイリーン隊長は、ルード副団長との付き合いは長いんですよね」
「……幼なじみってやつだわ」
人差し指で髪の毛をクルクル弄びながら呟くアイリーンの表情は憂いを帯びているようで、なんとなくそれ以上を聞くのは憚られた。
「レオン、伯爵位を受けたら領地はどうするんだ。王都にばかりいるわけにもいかないだろう」
「ああ、そうだな」
「ところで、どこが領地になるんだ」
「レーゼベルグ」
アイリーンとルード副団長が、2人揃って瞠目している。
「あの、レーゼベルグか」
「ああ」
「あらあら、また都合良く使われるのね」
リリアだけが、会話についていけていない。どうも、有名な話のようだが。
「魔獣の森レーゼベルグを含む、その領地はたしかに広大だが……」
「ま、領主といっても騎士団団長としてやることと変わりはないな。魔獣の脅威から王国を守る最前線だ」
レオン団長は、ルード副団長に注がれた一杯を勢いよく呷った。
「たぶん、俺には性に合っている」
「リリアは……どうするんだ」
「……人間の方がよほど危険だ。魔獣の脅威からなら守ってみせる」
いつのまにか、話題の中心はリリアになったようだ。大人びた表情は、いつものレオン団長とは違う。それは苦しみながら這い上がってきた大人のものだ。
「リリアも一緒に来て欲しい。何もない場所だけど」
「誘って、くれるんだ」
リリアは話の途中、危険だから王都にいるように言われるのではないかと構えていた。
「当たり前だろ?いざとなったら、レーゼベルグの森、全ての魔獣をロンのように可愛いペットにしてしまえばいい」
アイリーンも、ルード副団長も、リリアも多分その瞬間、同じことを考えた。
「その存在って名前つけるとしたらなんだと思う?」
聞いてはいけない気がしたが、聞かずにはいられない。喉が渇く。リリアは小さく喉を鳴らした。
「ふふ、魔王降臨だな」
しかしその問いに答えたのは、何故か楽しそうに笑うルード副団長だった。
「ああ、それも良いな。世界の半分やるからルードは俺の配下になれ」
「「ふははは」」
レオン団長は、見た目より酔っているらしい。そして、いつもは止める役割をしてくれているルード副団長は、さらに酔っているようだ。
「あっ、ずるーい。私にも半分ちょうだい!」
「アイリーンにまで半分わけたら、俺に少しも世界が残らないだろ?!」
アイリーンまで加わっているが、こちらはいつものテンションと変わらない。
「作戦会議がカオスだよ!」
一人酔っていないリリアは、会話に乗り切れない。悔しいのでメニューの上から下まで頼んでひたすら食べることに決めた。
アイリーン「ん?ここのお皿全部空ね?」
店員「そこのご令嬢がお一人で全部食べました」
アイリーン「リリア、この量を一人で食べたの?!小さい体で恐ろしい子……」
最後までご覧いただきありがとうございました。
『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるととても嬉しいです。
誤字報告、いつも本当にありがとうございます!




