聖女のお披露目
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「聖女リリア。守るべき貴女を危険な目に合わせて申し訳ありません」
聖女のお披露目式のために神殿に行くと、ジル大神官に跪いた状態で出迎えられた。
「あの、ジル大神官が最後、光の障壁で守ってくださらなければ助かりませんでした」
「……それから、今回のことで神殿を澱ませていた勢力はかなり削がれました。お礼を申し上げます」
「そうですか……」
今日のリリアは、騎士の正装だ。聖女の儀式のためにと、レオン団長が誂えてくれたドレスは、先日の戦闘でボロボロ、さらに血に塗れてしまった。
それでも騎士服と白い色は戦場の聖女の名には相応しい装いではないかとリリアは思っている。
それから今、リリアの胸元には黒い魔石が下がっている。
『あの色とサイズの魔石は、すぐには手に入らないからこれつけていて。黒なんて聖女には似つかわしくないかもしれないけど、俺が普段身につけているものだから』
レオン団長の髪色はこの世界では珍しい黒だ。愛する人から贈られた、髪の毛や瞳の色の装飾品を身につけるのは一般的だ。
この魔石も、誰が見ても全員がレオン団長を連想するだろう。
無意識に魔石を握りしめると、胸の中にあった不安が霧散する。
「――――っ」
リリアを黙って見つめていたジル大神官が、魔石を握った瞬間の表情の変化を見て息を呑んだ。
「ジル大神官?」
「いいえ……。さあ行きましょうか」
「ええ」
神殿のバルコニーから見た外には、人、人、人。こんなにたくさんの人に見られたことがないリリアは、緊張感に小さく息を飲み込む。
(あ、レオン団長)
警備をしている騎士の中に、やはりリリアと同じ白い正装姿のレオン団長を見つけた。
レオン団長は、一瞬たりともリリアから目を離さないと決めているかのように、こちらを見つめている。
心なしか顔色も悪いままだが、凛々しく立つその姿から、その不調を感じ取れるのはごく僅かな人間だけだろう。
まだ、傷が塞がってないだろうに、式典の警備に参加するというレオン団長を止められる人間は結局誰もいなかった。
事実、レオン団長は本調子でなくても殆どの騎士より遥かに強いのだ。
「さあ、貴女の力を国民に示してください」
「はい」
聖女の儀式では、魔力を参加者たちに降り注ぐ祝福を行う。それ自体は、神殿に通っていた時に何度も練習している。
「我らが王国と王国の民に祝福を」
(それからあの不器用な人を守って)
リリアが高らかに声を上げると、その体から黄金の光が立ち昇った。
「……えっ?!」
その光は、どんどん大きくなり、範囲を王都全体ではないかというほどに広げていく。
「な、なにこれ。私の魔力だけじゃ……ない」
「リリアは聖杯に愛されているんですね。これ、多分歴代聖女たちが聖杯に注いだ魔力の一部ですよ」
その日、王都には美しい光の粒がまるで淡雪のように降り注いだ。王都の民は、本物の聖女が誕生したことを誰もがこころから信じた。
今日の出来事はリリアやレオン団長を再び嵐へと巻き込むのかもしれない。聖女の光が引き寄せるのは、幸福だけとは限らないのだから。
「レオン団長のお母様の魔力もきっとここに含まれているんだよね」
金色に輝いた光に包まれながら、レオン団長に視線を向けると明らかに他の人たちより多くの輝きに取り囲まれるようにして瞠目している姿が見えた。
(祝福の瞬間にレオン団長のことを考えたのがいけなかった)
先の戦争での救国の英雄レオン騎士団長は聖女の祝福を誰よりも受けたとそれを見たすべての人が言うだろう。そしてその噂は大陸全土へと広がり新たな波紋を広げるのだ。
そんな予感がするのに、これからだって祝福の瞬間に、レオン団長のことを祈るのはたぶん無意識にしてしまうのは間違いない。
「だって、私の心からの願いはそれしかないもの」
リリアはひとつため息をついて、澄み渡る青空を見上げた。
ルード「リリアがまたも大事にした!」
閣下「リリアはそういう仕様だと思え。あとの処理は頼んだ」
ルード「親子揃って俺に丸投げするのやめろよ!」
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