看護師と騎士団長
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「斉藤主任、最近毎日イキイキしてますね?」
「えっ、そう?」
「今まではなんだかどこかしらに悲壮感?ミステリアスな感じがありましたから」
「ミステリアスって……」
木下くんと今日も会えるのがとても嬉しい。
(今までの日々が嘘の、よう、に?)
強い違和感とともに、七瀬を頭痛が襲う。まるで思い出してはいけないとでも言うように。
(頭痛、そういえばしばらくなかった)
思わず不安になるといつも握りしめていた胸元のネックレスの石を掴もうとするが、何故か胸元には何もなく、指先が空をきる。
「ああ、そういえば割れてしまったんだっけ。あの人の瞳の色の……」
景色が滲む。七瀬は自分が泣いていることに気がついた。
「そっか、木下くんはいないんだ」
それではこの日々は……
「わ、自力で術を解くなんテ。それにアナタたち落とし子だったのネ?団長さんも大概だけどアナタも相当おかしいワヨ。でも、もっと眠っていてくれないト困るのヨ」
「あなたは……」
「フフ。でも、まだアナタ。その姿のままなのネ。完全に解かれたわけじゃないみたイ」
七瀬は自分の姿を見つめる。着なれたユニフォーム。いつもの職場。ただ、木下くんがいない。色を失ったいつもの世界。
「……そう。仕事に戻らないと」
点滴の更新時間も、検査の時間も迫っている。七瀬は仕事に戻らなくてはいけないと、踵を返した。
(あれ、こんな指輪していたかしら)
七瀬の左手の薬指にはピーコックブルーに輝く石がついた指輪がはまっている。
(仕事中だから外さないと)
その指輪に触れた途端、再び涙が零れ落ちる。
「レ、オ、ン」
「やっと俺のこと呼んでくれた」
病院にいたはずが真っ暗な空間にいる。目の前にいるのは七瀬の知らない男性。でも、眉を顰めて笑うその表情を知っている。
「その格好、想像通り信じられないくらい可愛いな。その姿を見ることができたことだけは感謝してもしきれない。生きててよかった」
ブレない彼の台詞。偽物の木下くんはここまで甘い言葉は流石に言わなかった。
「ほら、リリア?その姿もいいけど、俺はやっぱり今のリリアに会いたいな?」
「レオン団長」
瞳を開けると目の前にレオン団長のピーコックブルーの瞳があった。額と額を合わせていたようだ。
「俺のこと、思い出してくれて良かった。そうでないと今の魔力じゃ夢に介入できなくて……焦ったよ」
合わさっている額が熱い。
「申し訳ないんだけど、少しこのまま……」
「えっ、レオン団長?!」
ドサリとレオン団長の体が力を失う。リリアのことを離さないまま、レオン団長は再び意識を失ってしまった。
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「だから、助けを呼ぶとかあるだろう?」
「あんな可愛い姿、他のやつに見せてたまるか!」
「意味がわからんが、反省してないのはわかった」
救護室にルード副団長が来てくれて、レオン団長はベッドに物理的に縛り付けられている。
「それに、今の俺を思い出してもらえなかったらと思うと……」
言っていることは少し情けないが、憂いを帯びた表情は相変わらず素敵だ。
(まあ、ベッドに縛り付けられていては台無しです)
「今回のことは、おそらく聖女になったリリアへの神殿にいる一部の勢力からの宣戦布告だろうな。いつもなら、必ず守るのに。思うようにいかない魔力と体が情けない」
「それでもレオン団長は助けに来てくれました」
「あたりまえだろ」
そんなレオン団長が、リリアの部屋から救護室まで運ばれる時、アイリーンにお姫様抱っこされていたことは秘密にしておこうとリリアは思った。
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