騎士団長に鍛えられる
ご覧いただきありがとうございます。ここからは短編版にはない内容になっていきます。
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「リリア、とりあえず基礎訓練の様子を見せてもらおうか」
「はい」
昨日の醜態?を感じさせない、レオン団長は今日は鬼団長モードらしい。リリアは、いつものように身体強化を使いながら走り出す。
「はぁ。……なんだソレは」
パチンッ。と音を立てて、強制的に身体強化が解除された。途端にリリアの体が重く感じる。
「癒し手が、無駄に魔力を消費してどうする。まぁ、退却時などには有用だろうから、今後も修練は必要だが。もう少し魔力のロスを減らさないと実用は厳しいな」
(職権濫用なんて思って、悪かったかもしれない。仕事に対しては、とても真面目なのね)
そもそも、高校生だった木下くんは、部活には基本的に全力で取り組んでいた。
「早く走ろうと思うな。スピードよりもリリアに必要なのは持久力だ。おそらく瞬発力は、身体強化でフォローできるが、基礎体力がなければ話にならん」
「……はい」
レオン団長が、かつてのように眉を寄せて笑う。
「リリアが騎士団を辞めないなら、ずっと一緒にいたい。強くなれよ?」
「レオン団長…」
こんなにもキュンとさせられたのに、その後の訓練でも、リリアは地獄を見た。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「ずいぶん絞られたみたいね」
「うー。みんな鬼団長って言ってた意味が、分かったよ」
もう、立ち上がることすら難しく、女子寮の共有スペースのソファーでリリアはぐったりとしていた。そんなリリアを見ながら、パール先輩は少し寂しそうに笑う。
「命の危険と隣り合わせの仕事だからね。居なくなった仲間も多いのよ。ましてや、リリアは、団長直属の部隊に配属されたんだもの。過酷な現場ばかりだと思うわ」
「パール先輩…」
「たぶん、一人だって自分の団員を欠くのが嫌なのでしょうね。責任感が強いから、団長は」
七瀬の幼なじみは、チームメンバーをいつも気遣っているところがあった。多分、そんな部分は今だって変わらないのだろう。
「そういえば。女子寮のメンバーのあと一人を紹介するわ。今、呼んでくるから待ってて」
(どんなヒトなんだろう?)
しばらくして現れた女性は、二十代半ばくらい赤毛の気の強そうな美人だった。
「私はアイリーンよ。私も団長の直属部隊の一員なの。これからよろしくね?」
「あっ。リリアです。こちらこそよろしくお願いします」
何故だかリリアをじっと見るアイリーン。リリアは少し居心地悪く感じた。ややあって、アイリーンが口を開く。
「ところでリリアは、団長とどう言う関係なの?騎士団でもだいぶ噂になっていたけど」
(うん。今の私たちはどんな関係なんだろう?)
あんなに毎日会いたくて、会いたくて仕方なかった木下くん。レオン団長は木下くんと同じかと言われると違うのかもしれない。リリアが記憶はあっても、もう七瀬ではなくなっているように。
「良く……分からないです」
「そう。じゃあ、遠慮しなくても良いのかしら?」
「えっ」
ふふ。とアイリーンは笑った。その笑みからは大人の女性の余裕を感じる。
(うん?七瀬はアイリーンさんより年上なのにこの色気の落差はいったい……)
モヤモヤしながらも、疲労困憊だったため、その日は深く考えることもなく眠ってしまった。
――――夢の中で七瀬が笑っている。その隣でやはり笑っているのは…。
その夢を見ても、もうリリアは泣きながら目が覚めることはなかった。
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それからも、毎日団長のリリア強化訓練は続いた。
限界までしごかれて地獄を見たリリアは、常時ではなく必要な時だけ身体強化を使う術を覚えた。リリアは魔力量が多い方だ。それに甘えていたのだろう。もう、少しだって無駄には使わない。
パール先輩からあの話を聞いてしまったから、レオン団長が願うように一人でも多くを助けられるよう、いつだって魔力を温存するのだと心に決めている。
「……だいぶ良くなったな」
「レオン団長、ありがとうございます」
「ああ、これなら十分実戦でも生き残れるだろう。それに、……まぁ。うん。リリアは俺が守るから」
悔しいことに再びリリアの心臓は鷲掴みされてしまった。心臓の音が、相手に聞こえてしまいそうで本当に困る。
(ずるいなぁ。こんなにかっこよくなっちゃって)
レオン団長は、看護師をしている七瀬の姿を見ていたかったと言ったけど、リリアだって騎士をしているレオンを見ていたかった。そんなリリアの心情を知ってか知らずか、団長が柔らかい笑みになる。
(わかってないよね。これは…)
「ふ……。なぁ、リリア。明日は非番だな。一緒に街に出かけないか?」
「えっ?」
「だって、せっかく会えたのに。前みたいに休みの日も一緒にいたいんだよ。ダメか?」
急に雰囲気が変わったレオン団長に、リリアは戸惑ってしまう。この感じ、まるで。
「七瀬と一緒にいたいって。リリアをもっと知りたいって。毎日思ってるってわかってる?」
(本当に昔からそういうとこ、ずるいと思う)
「非番なら良いよ。普段は真面目にやるならね」
「はは。相変わらず真面目だな」
こんな時間がずっと続けば良い。リリアはそう思うと同時に、きっとそれはできないという予感も感じていた。
レオン「せっかくリリアに会えたのに、想像していた毎日と違う!!」
レオン団長はリリアをデートに誘うことに決めた。
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