お互いを守るためなら
ご覧いただきありがとうございます。
本日は、残酷な表現があります。そんなひどいことにはならない予定ですが。苦手な方はご容赦ください。
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「う……」
身体中の痛みで意識が浮上する。リリアの視界はまだぼやけているが、なんとか目を開けて状況を確認しようとする。
(まだ生きてる。どれくらい意識を失っていたの?)
まだ、剣と剣がぶつかり合う音がする。軽く回復魔法をかけるとようやく状況がわかる程度に視力が回復した。
すでにほとんどの敵が、倒されていた。その中で、誰かがが戦っている姿がぼんやりと見える。リリアが見間違うはずがない、レオン団長の戦い方。でも、その動きがどこかおかしい。
ようやく見えてきたリリアの視界。レオン団長の騎士の正装。真っ白なはずのそれが、広い範囲で赤く染まっている。
(早く動かないと)
焦燥感に駆られ、起き上がりながら回復魔法をかけようとする。
「起き上がるな、リリア!」
「え……」
ドッと矢が刺さる鈍い音が聞こえた。それはリリアの前に走り込んだ、レオン団長の右腹部に刺さる。雷を纏ったその矢のせいか、周囲に焼け焦げた匂いが充満する。
(その、位置は)
矢に手をかけて抜こうとするレオン団長を見てしまい、リリアの心臓が、嫌な音を立てた。
「抜いちゃダメ!」
「……時間がない。邪魔だ!」
引き抜かれた矢がまだ雷を帯びながら落ちていく。
周囲に舞い散る赤い霧と雨。
それと同時にレオン団長の周囲を、闇の魔力が取り囲む。
「その女を庇わず、お前ひとりなら俺に勝てたろうに。女のためにさらに死期を早めるか」
「先にお前からだ」
遠くを見据えたレオン団長がその手から放った黒い魔法の矢が、後ろにいた男を貫いた。
弓矢をつがえていた男が倒れ込み、動かなくなるのを確認するとレオン団長が短く笑った。
「ははっ。戦うためだけにこの力を使うのも久しぶりだな」
そんなレオン団長の姿を見ながら、リリアはグラグラする体を叱咤して立ちあがる。
(あの矢が刺さってた場所、ダメ……。致命傷以外では死なないって、致命傷……時間が、ない)
リリアは全力で身体強化をかける。それは戦うためでなく、ただ愛しい人のもとに辿り着くために。
ガッと音がするほど強く、レオン団長の腕を掴んで捕まえる。その足元は、すでに水溜りのように濡れていた。
振り返ったレオン団長は、いつもと同じ困ったような笑顔だった。
「止めたらダメだよ。リリアじゃ勝てない。あいつを倒したらその後は一緒にいるから」
リリアが勝てるはずがないのは事実。今からやることは、リリアまで窮地に追い込む。
(でも、今この手を離せば。……たとえ死んでも、この手は離さない)
ポーチに反対の手をやり、掴んだものをそのままレオン団長の腕に突き立てる。
暗殺にも使われたというその針先が、紫色の液体をレオン団長の血管へと流し込んでいく。
一瞬、眉を顰めたレオン団長が瞠目し、初めて焦りを見せる。
「リリア……何をして、え?まさか」
レオン団長が纏っていた黒い魔力が急速に消えていく。倒れ込みながら、レオン団長が叫ぶ。
「リリアッ!ここで俺が倒れたらお前まで。ぐっ……せめて一矢!」
レオン団長が最後の力を振り絞り放った黒い魔法の矢は、男の肩口に刺さる。
「聖杯に注いだ魔力。聞こえてるでしょ。……返して!!」
その瞬間、金色の魔力がリリアとレオン団長の下から立ち昇る。それは輝きを増しながら遥か高みまで到達する眩い光の柱。
「させるか!」
傭兵の男がレオンとリリアに斬りかかってくる。その攻撃さえスローモーションに見えた刹那。その攻撃は、光の障壁に弾かれた。
「リリア!」
ジル大神官が、男の後ろから魔法を放ってリリアを守る。それと同時に、ようやく外の敵を倒したアイリーンとルードが飛び込んできた。
「ああ、お前たちの連携、芸術的だな。2人揃っていると厄介なタイプの奴らか。……手傷を負ってしまったこの状態で勝つのは難しそうだ」
男は、自分の左肩に深くついた傷を見やって目を細めた。
「逃がさない!」
赤い髪を靡かせまるで赤い稲妻のようなアイリーンの攻撃。あえてそこから一拍遅れて相手の隙を狙う絶妙なタイミングのルードの攻撃。しかしその2つとも宙を切る。
2人は忌々しげに顔を上げたが、男はすでに天井近くのステンドグラスを蹴破るところだった。
「楽しかった。この借りはまたの機会に」
ステンドグラスが砕け散り、眩い光を受けながら輝き舞い散る中、戦いは終わった。
ジル大神官「数百年前の創建当時からあるステンドグラス!!」
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