親子
レオン団長のお父さんはやはりあの人です。
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騎士服に着替えてきたリリアは団長室の扉を叩こうとしていた。いつもなら、それほど躊躇いなく叩けるその扉。今はなんだか、叩いてはいけないような圧を感じる。
(でも、おかえりって言う約束したから)
リリアは、思い切って扉を叩いた。
――――ガチャ
ドアから出てきたのは、レオン団長ではなかった。思わずリリアは出てきたその予想外の人物を前に硬直してしまう。
「ああ、遅かったな?リリア」
「あのっ。将軍閣下はなぜここに?」
「うん?将軍が騎士団長室を訪れることに何かおかしいことがあるかな?」
「うん?たしかにないですね。失礼いたしました。閣下にお会いできて光栄です」
いかつい顔の閣下だが、にこりと笑うと意外に可愛らしい顔になる。
(なんだか既視感があるような)
だが、どこかで見たような気もするのがなぜなのか、リリアには思い当たらなかった。
「申し訳ありません。お邪魔をしてしまったようですね。出直します」
「いや、リリアにも聴かせたい話だ」
「そう、なんですか?」
差し伸べられた手に引き寄せられるように、リリアはなぜか将軍閣下にエスコートを受けてソファーへと腰を下ろした。
「まあ、待っていなさい。レオンはすぐ来るだろう」
――――ガチャ
「…………なんで閣下がおられるのですか」
「なんでとは遺憾だな。騎士団長室に将軍が来ることになんの問題が?」
珍しくイライラした様子のレオン団長が、前髪をかき上げる。
「は、いつもなら閣下が俺を呼び出すでしょう」
「内密の話だ。防音結界を張ってくれて構わんぞ?」
「ちっ。こういう時は大概、碌でもない話だ」
ニヤリと笑う将軍閣下に、レオン団長のいつも冷静な仮面は今日も剥がれてしまっているようだ。
それでもレオン団長から発せられた魔力から結界が張られたことが分かる。
(やっぱり、この間の団長室にかけた防音結界の件、将軍閣下には筒抜けじゃないの)
そのうち王家離反の疑いをかけられるのではないかと、リリアは背中がひんやりするのを感じた。
「あの。お話って、私も関係あるんですよね」
「というよりほとんどリリアについての話だ。自分にも関係あって欲しいと、レオンは思うだろう」
悪戯好きの少年のように、三日月に細められた瞳。いつものような威厳や圧が薄れている将軍閣下のその瞳の色は……。
リリアはその瞳から目が離せなくなった。いつも緊張してその瞳を見つめるなんて出来なかったのに。
(なんで気付かなかったんだろう。レオン団長と同じピーコックブルー)
振り向くと、リリアの驚愕に気づいたのか、レオン団長が眉を寄せて視線を外した。
将軍閣下は上位貴族。もちろんかつては騎士団長も経験しているだろう。
「やっと気づいてもらえたか。まあ、レオンの顔立ちは母親似だからな」
「それで、本日の御用向きは?閣下」
なんとなく、2人の間には隙間風が吹いているような錯覚を覚える。
(というよりレオン団長が一方的に距離を取っているのかな)
「ああ、今回はめでたい話とめでたい話があるが、どちらを先に聞く?」
「同じですよね?!」
(この人、間違いなくレオン団長のお父さんだ)
『七瀬は良い話と良い話、どっちを先に聞きたい?』
『同じだよね?!』
木下くんと七瀬の声が、耳元で聞こえた気がした。
レオン「ちっ。なんだか、前世の父親と似ていてさらに、ムカつく……。」
将軍「まだまだ、レオンも可愛いな。」




