癒し手と剣
レオン団長の溺愛のちリリアと愛剣が出会います。
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喫茶店は、早朝なのに思ったより人がいた。白いエプロンとヘッドドレスの店員に、リリアはトーストとカフェオレ。レオン団長は、トーストとコーヒーを注文した。
「そういえば、意外と食べ物は日本に近いよね?誰かが広めたのかな?」
「そうかもな?」
(落とし子って何回かロンが私のことそう呼んでた。私たちの他にもいたってことよね。今度、ロンに詳しく聞いてみよう)
そうこうしているうちに、トーストとカフェオレが届いた。厚切りでさっくりと縞模様についた焦げ目は、見た目からして美味しそうだ。
もちろんリリアは、バターとジャムをたっぷりつけた。カフェオレもいい香りで、とても美味しい。
「どう?美味しいでしょ?」
少し自慢げな言い方になってしまったリリアを穏やかな目のレオン団長が見ている。
「そうだな。ほら、口元にジャムついてるぞ?」
長い指が、唇の端を拭った。その指はそのまま。
「うん。たしかに美味いな?」
赤い舌で、指を舐めたレオン団長が、すこし意地悪げに微笑んだ。
「…………ぴゃ?!」
そのあとは、どうやって食べ終えたのかリリアに記憶はない。味も思い出せず、勿体無いことをした。
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魂が抜けたような状態で、レオン団長に手を引かれて来たのは、小さな武器屋だった。
「お、団長。久しぶりだな?剣のメンテナンスか?」
「ああ、それも頼む。最近ドラゴン2匹叩いたから、だいぶ傷んだだろう」
「相変わらず凄まじいことを平時のように言うな。流石に俺でも引く。……ところでそちらのお嬢さんは?」
値踏みするような目つきの店主。
小花柄の淡いイエローのワンピースは、たしかにこの店にはそぐわない。
「あの、第二騎士団癒し手のリリアと申します。こんな格好で、すみません」
「いや、こちらこそすまん。……あんたが噂の」
「今日は、リリアに合った剣を選びにきた。今使っているのは支給品だからな」
武器屋の店主が少し目を見開いた。
「癒し手なのに戦うって話、眉唾じゃなかったんだな。……とりあえず、利き手を貸してくれ」
リリアが右手を出すと、真剣な表情で店主がリリアの手を触る。
「剣だこがあるわけではないのか。訓練していれば普通できるはずだがな?」
「リリアに試し切りさせてみれば分かる」
「まあ、団長がそう言うならやらせてみるか」
店主がここから選べと持ってきた剣は、どれも美しい装飾がなされていた。
でも、リリアの視線は奥の方に雑多に置かれた剣の方に引き寄せられた。
(なんだろうこの既視感)
「向こうが気になるのか?入ってもいいぞ」
リリアが奥に入っていくと、薄暗い棚に一本の剣があった。羽根の装飾がされた少し細身でやや他のものより短めの剣。
少し薄汚れていたが、鞘から抜いてみると刀身は青みを帯びた白銀に輝いている。
(きっと新品ではないわね。少し小ぶりで手に馴染む。女性が使っていたのかしら)
リリアがその剣を持って振り返ると、それを見た店主が驚いた顔をした。
「その剣の鞘、抜けたのか」
「え?」
「誰がやっても抜けなかったんだがな。まあ、それで試し切りするのか?」
「……はい」
狭いと思っていた店だったが、ドアを開けると広いスペースがあった。試し切り用の藁を束ねたものが真ん中に置いてある。
「良いですか?」
「ああ、どうぞ」
この剣は、とても手に馴染む。この剣に認められたい。本気を出してみたいと、リリアは感じた。
(本気で身体強化をかけるのは久しぶり。いつも回復魔法のため魔力を温存していたから)
黙って見ていたレオン団長が、口の端を引き上げ満足げに笑う。武器屋の店主は、もはや唖然としている。
――――スパンッ
アイリーンの舞うような、ルードの計算され尽くした、そしてレオンの努力と天性の才に倣う。それでも英雄たちを師匠にするリリアの剣はその誰とも違う。
金色の光を纏って剣を振るう姿はただ、美しい。
「戦場の……聖女」
店主が思わずそう呟いてしまったように、この姿を見た、全ての人間がその言葉を呟くだろう。
「これで実戦経験がないなんて、空恐ろしいな。俺もうかうかしていると、守られる側だ……」
笑顔のままのレオン団長だが、その瞳はライバルを見る挑戦的なものだ。
「レオン団長!ちゃんと見てた?!」
「……ああ、強くなったな」
しかしそれは一瞬のこと。嬉しそうなリリアが振り返った時にはいつもの余裕がある団長としての表情だった。
少し団長の焦りが垣間見えましたが、もちろん騎士団の訓練はより過酷になります。
その後の訓練での一コマをお送りします。
親衛隊A「俺たちはリリアに守られる存在でいいのか?!」
親衛隊B「否!新たなフォーメーションを編み出すんだ!」
次回 第二騎士団戦隊誕生!(仮)




