非番の2人
レオン団長リリア溺愛回その1です。
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やっと訪れた非番の日。リリアは朝早く起きてストレッチをしていた。
(体中が痛い。これは、筋肉痛ってやつだわ)
筋肉痛を回復魔法で治すと、筋肉がつきにくいと、残念ながら治すのは禁止されている。
その代わり、団長はいつも氷を使ってアイシングしてくれた。そのおかげか、だいぶマシな気がした。
開脚をして、体を伸ばした後に顔を上げると、少し離れた場所でこちらを眺めているレオン団長と目が合った。
「レオン団長?」
(いつも駆け寄って来るのに)
不思議そうに見つめていると、苦笑したレオン団長がリリアに近づいて、そばにしゃがみ込んだ。
「かなり痛い?」
「そうでもないよ?」
「ふーん」
「いたっ」
レオン団長が、何気ない雰囲気で軽く掴んだ肩は、熱をもって一番痛む場所だった。
「ここは、回復魔法かけて?」
「うん」
フワリと金色の光がリリアの手から放たれると、その部分だけ痛みが消えた。
「流石と言うか、的確だな。ん、あとはココ」
するりと長い指がリリアの腰に触れる。
「ひゃ!」
「あ。……悪い」
レオン団長が、顔を背けた。その耳がほのかに赤くなっている。
「少しリリアは、重心が左に傾いているんだよ。ここは、だいぶ負担がかかってるから、回復魔法かけておいて」
立ち上がったレオン団長がリリアに手を差し伸べながらそう告げた。
言われた箇所に回復魔法をかけると、まだ少し痛いながらも、スムーズに動けるようになった。
「あの。このためにわざわざ?」
「もちろんそれもあるけど」
「けど?」
「……リリアを甘やかしたくて」
言われた意味がすぐには分からなくて、リリアはぽかんとした顔でレオン団長を見つめた。
「今日はリリアを甘やかすだけの日にしたい」
「……えっ?」
「そばにいてくれさえすれば、俺が全部してあげる。今日は俺に甘えて?」
「……ふぇっ!?」
信じられないという目で、レオン団長をリリアが見つめる。でも、その耳も頬も薔薇色に染まってしまった。
(あれあれ?呆然としているうちに、部屋に上げてしまった?)
「もう、朝ごはん食べた?」
「ううん、ストレッチして少し走ったら、食べようと思ってたけど」
「じゃ、作るから待ってて?」
「つ、作る!?」
(そういえば、木下くんはホワイトデーのお返し、ものすごいクオリティの高い手作りケーキとかくれたな……)
出てきたのは、温かいエッグベネディクトだった。スクランブルエッグもトロトロで、最高に美味しそうだ。
「わ!」
「食べさせてあげようか?」
「じ、自分で食べられます!」
リリアが食べているのを、嬉しそうにレオン団長が見ている。
「レオン団長は食べたんですか?」
「ん、まだ」
「じゃ、ちゃんと食べないと」
「朝はあまり食べないんだ。……でも、リリアが食べさせてくれるなら食べようかな?」
口を開けてレオン団長が、待っている。
「え?」
「まだ?」
しばらく待っても、諦める様子がないレオン団長にリリアが覚悟を決めた時、エッグベネディクトがなくなっているのに気付いた。
「あれ?ない」
「……」
「わ!体が動かなく?!」
「……お前な」
テーブルの下から、レオン団長の闇魔法に捕らえられた、小さなドラゴンが転がり出てきた。その口の周りはスクランブルエッグで汚れている。
「……ロン。現行犯だよ?」
ドラゴンは、そのままではあんまりだというリリアの意見により、龍からとってロンと名付けられている。
「リリア。あまりにうまそうで……すまなかった!」
レオン団長が、氷点下の目でロンを眺めているので、慌てたリリアはレオン団長をデートに誘ってみることにした。
「……この間散歩してたらトーストとコーヒーが最高に美味しい店見つけたんです。朝からやってるから行きたいな?」
「……早速行こうか?そのあとは、リリアの装備を探しに行こう?おすすめの店があるんだ」
リリアは、最近すっかり充実したクローゼットから淡いイエローに花柄のワンピースを取り出し着替えた。
なんだか、今日もレオン団長にうまく乗せられてしまった気がする。
「やっぱり似合う」
「……ありがとうございます」
当たり前のように、エスコートしてくれる手に自分の手を添えて、リリアは歩き始めた。
ドラゴンは、魔力に目がくらんでリリアの部屋に住み着きました。




