団長の本心
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「リリア」
「レオン団長?」
急に真剣な顔になったレオン団長が、まるでそこにいるのを確認するようにペタリとリリアの頬に手を添えた。
「良かった。ちゃんとリリアだな」
「……え?」
「……リリアが眠っている間に、七瀬に会った」
「レオン団長……。私、もしかして」
レオン団長の顔が、切なげに歪んだ。
「あの魔法は、もう使わないと約束して欲しい」
(だから記憶が途切れているのね。でも、運が良かった。忘れた記憶はここ数日間だけみたい)
「……レオン団長。その約束は出来ません。でも、これはあくまで奥の手にします」
「リリア……」
リリアは少しだけ無理して笑顔を作ると、レオン団長を見つめた。
「……七瀬と会って、どうでしたか?」
「あの時、伝えられなかった言葉を伝えたよ」
「それ、なんとなく聞こえてました」
「……それに、気付いたことがあった」
(七瀬と会って気づくことってなんだろうか。やっぱり七瀬が好き……とか?)
なぜか胸の奥がチクリと痛んで、リリアは思わず笑顔を消してレオン団長を見つめた。その瞳をレオン団長も見つめ返す。
「リリアが好きだ」
「え?」
「七瀬に会えて嬉しかった。でも、俺が好きなのは、今のリリアだって思い知らされたよ」
そう言ったレオン団長を、瞳を開いたリリアが見つめる。
「リリア、あの魔法。もう使わないで。いなくなったりしないで。……もっと強くなるから」
「レオン団長」
リリアは、微笑んだまま緩く首を振る。
「リリア?」
「私も戦います。あの魔法使わなくていいほど、強くなります。守られるだけは嫌だから」
「……リリアらしいな」
そう言ってぎゅうぎゅうと抱きしめてくるレオン団長の体温は温かい。今回だって、来てくれなかったらどうなっていたか分からない。
(でも、私だってあなたを守りたいの)
甘い雰囲気の中、リリアはそっと気づかれないように、レオン団長の顔を上目遣いに見る。
「……?」
そこには冷たい瞳の鬼団長が、口の端を上げて微笑んでいた。
(あれぇ?さっきまでの甘い雰囲気どこに行っちゃったの?!)
「強くなりたいんだな。リリア?」
「なりたいです!」
「その言葉に二言はないな?」
「は、はい!」
「では、強くなれ……リリア」
最後の言葉は低い声で、耳元で囁かれた。
リリアの名を呼んだその刹那、レオン団長の表情が少し苦しげに歪んだが、それは誰にも見えなかった。
リリアの背筋がシャンと伸びる。
次いで、レオン団長の後ろにいるドラゴンも何故かピンと背筋を伸ばしている。
リリアだけが好きだと言ってもらえて本当に嬉しかったのに、とても残念なことに甘い雰囲気はどこかへ消えてしまった。
「まだまだ、剣が止まって見える。身体強化なしであと100回!」
「はぁ。は、はい!」
「ドラゴンもサボるな!ブレスあと100回!」
「ギャオゥ……」
そのあと一週間の間、団員たちの気の毒そうな視線の中、とても告白への返事を返せないほど、リリアとついでにドラゴンは鬼団長にしごかれた。
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